ハッピーエンド
この日、王都の空に映し出された魔法立体映像は、王都貴族に一大ノブレスオブリージュムーブメントをもたらした。
王太子に無惨にも捨てられて恥をかかされた公爵令嬢が、自分に恥をかかせた王族のメンツを立てつつ、泣きながら気高い王侯貴族の血に訴える姿は、過激派以外の王侯貴族の気高き青い血を沸騰させたのだ。
「そうだ……私たちは新興貴族のような資産はないが、心の気高さを矜持とする貴族なのだ」
「うむ! 襤褸を着てても心は錦なのだ!」
「金がなくとも知の財産を与えることはできる。家が焼けたみなさんには我々の図書館を利用する権利を与えよう」
「晩餐会に招待して、新興貴族たちとも仲良くしてやる心の広さを見せつけてやろうじゃないか」
「そうだそうだ。我々は気高き貴族なのだから」
そして。私ヤドヴィガの評価も、実家の家具屋の評価も鰻登りになった。
ロイヤルウェディングに振り回されて大赤字を抱えても王家にキャンセル料金を求めなかった父の寛容さと(倒れてただけなんだけど!)。
王太子の顔プリント入りの婚礼家具を使って新婚生活を送っていた、模範的国民である私。
私たちは瞬く間に王侯貴族たちにもてはやされた。
『あの成金家具屋こそ、王侯貴族のノブレスオブリージュで救うべきなのではないか』と。
ダズリングヒルズの住人には続々と募金が集まった。
実家の家具屋も、買い支え運動で超高級家具の注文が殺到し、父はめちゃくちゃ元気になった。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
父は応援してくれる王侯貴族たちに五体投地で感謝を伝え、泣きながらそろばんを叩いた。
父の健康を心配した王立医局からは、刺繍入りの魔冷ハンカチに包まれた乳酸菌飲料が届けられた。
「ーーもちろん、王侯貴族だって気高い気持ちだけで支援してくれている訳じゃないってわかってるけどね」
膨大な帳簿の処理をこなしながら、私は呟く。
「彼らだってしたたかよ。今だけの勢いだとしても、お金持ちの新興貴族と多少なりと仲良くしておかなくちゃ、移り変わっていく時代を生き残っていけないってわかっていての行動なんだから」
「それがわかってるなら、ヤドヴィガは大丈夫」
仕事を手伝ってくれながら、いつもの瓶底眼鏡に戻ったリアムが笑う。
「あの人たちはプライドをくすぐって、持ち上げて、そしてこっちに嫉妬しないようにしてあげるのが一番さ」
通りすがりにリアムは私の顎をとり、眼鏡を持ち上げてちゅ、とキスをする。
「〜〜ッ!!!」
「午後も頑張ろうね、ヤドヴィガ♡」
唇を押さえて顔を真っ赤にしていると、同じ部屋で仕事をしていた父が泡を吹きそうな顔をしていた。
「あ、あああああああ」
「お父さん!!! お、落ち着いて……!!!!」
ため息をつく母。微笑ましい目で見てくれる従業員の皆さん。
仕事は大変だけど、今日も楽しく1日が過ぎていく。
「ヤドヴィガ。この調子だとあんた、来年はお産で仕事できなくなるわよ。今のうちに養育費ちゃっちゃか稼ぎなさい」
「は、はい……」
泡吹いて倒れる父に比べて、母はいつも冷静で現実的だ。私も将来こうなるのかな?
ーーううん。私は父似だからこうはならないだろうな。あはは……。
◇◇◇
そして一年後。
ついに父は王宮にて、国王直々の謝罪の言葉まで賜ってしまった。
おむつをしていなければ粗相をするところだった、というのが父の弁だ。
「よく働くよき豚に支えられて貴族社会の価値もあるのだよ」
国王陛下はこんなことを言ったらしい。他国の倫理観なら怒られそうな発言だが、まあしょうがない。
そして過激派組織は逮捕された。
「いやああ!!! 千年先まで恨みますわ!!!!」
叫びながら逮捕されたストレリツィ侯爵令嬢はその後、どうなったのか誰も知らない。
◇◇◇
そして。その後末長く、成金家具屋は栄えていった。
そしてリアムとヤドヴィガは、とても仲睦まじい夫婦かつ、成金男爵家に婿入りした公爵子息という貴賤婚でも、みんなから受け入れられて幸福に暮らした。
倒れた父親も、その後数多くの孫とひ孫に囲まれて、こりゃ死ねんわいと110歳くらいまで生きた。
王太子様が偽聖女モーニンカを忘れられずずっと探し続け、ついに遠い異国から連れ戻してきたことや、キャロライナ公爵令嬢が女公爵となり、貴族院議会でぶいぶい言わせる政治家になったというのは、また別のお話だ。
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