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プライドに訴える作戦

 とある過激派貴族家、ストレリツィ侯爵家の邸宅にて。

 ダズリングヒルズ全焼を伝える新聞を読みながら、高笑いする一人の令嬢がいた。


「おっほっほ! 驕り高ぶる成金どもはよく燃えるわ! 脂が乗ってよく肥え太っているからかしら!!!」


 そんな時。

 王都全体に向けて王宮から魔術サイレンを用いたメロディが鳴り響く。


「この音色は……王都警察のお知らせのサイレンですわ」


 ストレリツィ侯爵令嬢がテラスに出て空を見上げると、青空には王都じゅうから見える大きさで、魔法立体映像が映し出されていた。


 映っているのはーー貴族として敬愛する王太子様、王都警察長官とその娘キャロライナ。

 そしてダズリングヒルズの有象無象だった。


「ど、どうして下賤の成金どもと一緒の画面に王太子様が映ってるのよ」


 狼狽するストレリツィ侯爵令嬢。

 そして、堂々たる王都警察長官が話を切り出した。


「王都の皆さん聞いてくれ! なんと痛ましい事件がおきた。ダズリングヒルズが全焼したのだ! しかしどの家庭もこのウィリアム・ツワラノサウレー公爵子息が作った魔法家具を使っていたので安全装置が働き、おかげで新興貴族たちも平民たちも怪我ひとつ負うことがなかった。まさにノブレスオブリージュ!」

「ノブレスオブリージュ!!!」


 キャロライナ嬢が滂沱の涙をこぼしながら拍手している。

 ストレリツィ侯爵令嬢は「はて?」と思う。その場所に高貴な血たる者は、王太子様と王都警察庁長官と、その令嬢キャロライナしかいない。有象無象のどこに、ツワラノサウレー公爵子息が……??


 その時。

 キャロライナ嬢が泣く真横に立つ、汚い作業着に瓶底メガネのしみったれた男が苦笑いする。


「ちょっと違うと思うんだけどなあ」


 そんなことを言いながら、そのしみったれた男は眼鏡を外して髪をかきあげ、カメラに向かってふわりと微笑んだ。

 さらさらの銀髪を靡かせ、長いまつ毛の青い双眸を細めて、真っ白な頬で微笑む彼はーーとても美しくて。

 ストレリツィ侯爵令嬢は悲鳴をあげた。


「ゲェッ!! どうしてウィリアム様が成金どもと一緒に!?」


 ストレリツィ侯爵令嬢は、リアムが普段から瓶底メガネをかけて作業服を着ていたので、まさか家具屋の娘の結婚相手が、ウィリアムだと気づいていなかったのだ!


「いきなりツワラノサウレー家から消えたとは知っていたけれど、嘘でしょ」


 ストレリツィ侯爵令嬢はがたがたと震え始めた。

 空では再び王太子がカメラを陣取り、王都じゅうに向かって泣きながら訴えた。


「みんな聞いてくれ。このウィリアム・ツワラノサウレー公爵子息の息子は家具屋に婿入りしたのだが、その家具屋の娘はーーなんと!! 僕とキャロライナ公爵令嬢の顔がプリントされた婚礼家具を使ってくれていたのだ!! ああなんという王家への忠誠心……。元が下賤な新興貴族でありながら、王家を敬愛してくれる、なんという誉れ高い者であることだ、この家具屋の娘は!! ああ、そんな彼女とツワラノサウレー公爵子息の新居が灰になるなど……なんと、非道なことが行われたのだ……」


 おいおいと泣き出す王太子。

 ストレリツィ侯爵令嬢は気づいた。この王太子は、自分と公爵令嬢の顔がプリントされた婚礼家具を引き合いに出すことでーーダズリングヒルズの被害者たちのため、貴族社会の同情を買おうとしているのだと!


「皆様! この王国の気高き王侯貴族の皆様方!!!!」


 日焼けしたキャロライナ公爵令嬢が力強く叫んだ。


「今こそ私たちの気高き血をもって、ダズリングヒルズの火災被害者たちを救いましょう!!! ノブレスオブリージュ!! 寄付金を集めるパーティ、開催いたしますわ!!!!」

「彼らを支援してくれ!」


 王太子が訴える。そして最後にーー王太子は付け加えるように言った。


「ついでに、もしこの配信を見ているのなら!! 偽聖女モーニンカ!! 君が偽物だとしても構わない!!! 僕の元に戻ってきてくれ!! 映像も好きにして構わないから!!!」


 王太子は叫んだ。

 その隣で元婚約者の公爵令嬢が、腕組みしてうんうんと頷いている。いつの間にか仲直りしたらしい。


「嘘でしょ……こんなことになるなんて……」


 その日の夜、過激派貴族家の者たちは集まり、夜通し今後の対策について語った。


「どうする……ここで寄付金に名乗りをあげなければ怪しまれる」

「いっそ平民や成金同士のいがみあいが発展した火事ということに偽装できないか!?」

「だめだ。ツワラノサウレーの息子は王宮魔術師を蹴ったような若造だ。魔術師はすぐに嘘を見抜く」

「くそッ。公爵令嬢も聖女憎しでこちらの過激派に取り込めたらと思っていたのに……!!!」


 その時。部屋の片隅で話を聞いていた聖女モーニンカが、水晶玉を弄びながらつぶやく。


「もういっそ、王太子殿下万歳、ノブレスオブリージュ万歳って出資して支援すりゃ?」

「ッ……! この下賤の女が!!!」


 殺気立つ貴族たちに肩をすくめ、モーニンカは窓にひらりと立つ。


「悪かったね、下賤が口出しして。だが旧来の貴族社会を守りたけりゃ、旧来の貴族社会の頂点たる王族の言葉に従うのは道理なんじゃねえか? ま、私みたいな下賤の女にはわかんねえ話だ。悪かったな」


 ひらりとモーニンカは窓から飛び降りる。

 闇夜を駆け、口封じに追いかけてくる追手を撒き、時計台の上に登る。


 胸に隠していた水晶玉を取り出し、月明かりに照らした。

 そしてフッと苦笑いする。


「……そもそも、王太子にハニートラップ仕掛けたり最低の魔法動画撮らせたり、公爵令嬢を傷つけたりしてきたあんたらが、一番旧来の貴族社会の尊厳を踏み躙ってんじゃねえか?」


 私が言えた話じゃねえな、そう言ってモーニンカは水晶玉を割る。


「じゃあな、王太子様。……騙して悪かったよ」


 そのまま、偽聖女は闇に溶けーー国から姿を消した。


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