新居炎上
「っひぅぅ!!!!」
王太子の寝室にて、王太子のつぶれたうめき声が響き渡る。
全裸で複雑に縛り上げられ猿轡を食まされた王太子を椅子にしながら、煙草をふかすのは聖女モーニンカ。
モーニンカはピンクの巻き毛に真っ黒のボンテージ、まるで聖女とは思えない姿をしていた。
「ったく、異世界から来ただの、聖なる道具を持って出現しただの言ったら簡単に騙されやがって」
「んむううう」
「本当はあたしは聖女なんかじゃねえんだ。この国の秩序を乱す、成金振興貴族を消滅させたい過激派貴族組織に雇われたハニートラップさ。……ったく、あんたがちょうどあたしにハマってくれたまでは上手くいったんだけどなあ」
「んっー!! んー!!!」
「アホのあんたと国王が山ほど注文したところで、あたしが登場してあんたと公爵令嬢のロイヤルウエディングを破談にする。そうすりゃあの生意気な家具屋もおしまいだと思ったんだがな……」
聖女はチラリと、部屋の真ん中で輝く水晶玉を見やった。
そこには王太子の痴態があられもなく録画されている。
「んむ!! んんームー!!!」
「……うっせえよ」
「んぐぐっぐぐぐぐグッグ!!!!」
「はー……まあいいか。あたしはこのあんたの最悪の姿を魔法動画にしてやった。この動画は過激派貴族組織のものとなり、あんたはこの動画と引き換えに過激派貴族の傀儡となる」
ーー貴族社会。実はとにかく金がない。
貴族の7割が10年前より貧しくなり、逆に新興貴族や富裕層の平民はどんどん富を蓄えてきている。
そして新興貴族や富裕平民たちは貴族社会の既得権益を、どんどん削りとって貴族社会に揺さぶりをかけてきている。そのため、貴族社会の課役は組織にとってーー家具屋の親父はつぶしたい存在だった。
しかし、結局のところ、家具屋は潰れずにハッピーエンドになってしまった。
そこで過激派組織は作戦を変えた。
送り込んだニセ聖女に王太子の痴態を撮影させ、それを元に次期国王となる彼を傀儡とする方向に!
「んじゃ、あたしの仕事はこれで終わり。あんたともさよならだ」
「んー!! んー!!」
「じゃあな、アホの王太子様!!!」
王太子の尻を蹴り飛ばし、窓を開いて闇夜に去っていく聖女。
ーーその頃、新興貴族の家が立ち並ぶダズリングヒルズでは、大騒動が起きていた。
◇◇◇
「なんと……! 家が燃えている……!!!」
「ダズリングヒルズが、火に飲み込まれているわ……!!!」
なんと新興貴族の住宅エリアが、突然放火で燃えたのだ!
魔法家具の火災対策装置が作動したことで怪我人一人出なかったが、ヤドヴィガとリアムの新居は全焼。他の家々も、ほぼ全焼の大惨事となった。
一週間後、バカンスからトンボ帰りした公爵令嬢が火事見舞いにきてくれた。
「わざわざありがとうございます、キャロライナ様」
私たちは実家のサロンで彼女をお迎えした。
公爵令嬢キャロライナ様は見事にバカンスでこんがり日焼けした姿で、ハンカチで目頭を押さえながら私たちに同情してくれた。金髪に小麦色の肌、案外似合うな。
「おいたわしいわ。せっかくの新居だったのに……」
「新居だったので思い出深いものはほとんどなかったのが幸いしました」
実際、金銭的なショック以外はあまりない。
焼けたのは王太子から押し付けられた家具と新居だけだったのが幸いだった。
リアムが隣でボソッと言う。
「むしろ焼けて良かったかもね。婚約解消になった二人に見守られるベッドルームってなんか不吉だったし」
「リアム!! 不敬!!!」
そんな会話をしていると、公爵令嬢が拳を震わせる。
「私の父上が話していましたわ。今回の事件は、新興貴族に怨恨を持つ過激派貴族たちの犯行ではないかと」
「そういえばキャロライナ様、お父上は王都警察庁長官でしたね」
「……彼ら過激派貴族たちは、かがやきが丘に住むか弱き新興貴族たちの命なんてどうでもいいと思っているのだわ……青い血を継いで生まれたものとして、信じられない行いです」
キャロライナ様はダズリングヒルズの旧名を言いながら、ふるふると怒りに震える。
彼女も過激派貴族と同じように、高貴な血に誇りを持っている。
しかし過激派貴族と違うのはーー彼女はノブレスオブリージュの女であるということだ。
「……キャロライナ様」
そこで話を切り出したのはリアムだ。
「ちょっと私の一計に、キャロライナ様も乗って頂けませんか? ダズリングヒルズの被害者たちを救うために、貴方の力が必要なんです」
貴方の力が必要ーーその言葉は、ノブレスオブリージュの女の心に火をつけた!!!
「もちろんですわ。私でよろしければ、いくらでもお力添え致しましょう!!!」
リアムはニヤリと笑う。
ーーそして、後日。
ダズリングヒルズの被害者たちとキャロライナ様、父上の王都警察長官が、揃って全焼したダズリングヒルズの前に集められた。
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