なんとかなりませんかね王太子
豪奢な調度品で整えられた王太子の部屋に行くと、早速聖女とよろしくやっていた。お父さんが世界中から取り寄せた最高級品の家具のど真ん中で、うちの父を泡吹いて倒れさせた元凶の王太子と聖女がイチャイチャしてる。
金糸の刺繍が施された長ソファがまるでこれじゃ連れ込み宿のベッドみたいだ。
これじゃ聖女というより
「発情聖女だね♡」
ボソリと私の耳元で言うリアム。やめて。いきなりそういうの言うのやめて。
私は笑いそうになるのを咳払いで誤魔化し、キリッとした顔で挨拶した。
「あの、王太子殿下……家具の件ですが」
「キャンセルだ。ん〜聖女モーニンカ、本当にかわいいな君は……チュッチュ」
「や〜ん♡ 王太子様〜♡」
だめだ!!
まともにやろうとしても、話をさせてくれない!
これなら私にも考えがある!
「王太子殿下に恐ろしいお話をさせてください」
「なんだ」
「お耳を貸していただけますか? 3秒で構いません」
「しょうがないな〜」
王太子が聖女を遠ざけ、私に耳を寄せる。私は耳に恐ろしい世界の真実を吹き込んだ。
「ストップ! お気をつけください! 聖女を寵愛した王子はなんと100%が100年以内に逝去していらっしゃるのです!」
「な、なんだって……!!!」
王太子は顔を真っ青にして、口をぱくぱくしている。
私は神妙な顔をして頷いた。
「……しばらく、聖女様に別室に行っていただき、3人でお話しできませんか」
「うん……急に怖くなってきた。聖女モーニンカ、下がって」
「え〜〜」
青ざめた王太子は頬を膨らませて不満を示す聖女を別室に下がらせる。
応接間は王太子と私とリアム、3人になった。
リアムが隙をついてこそこそと耳打ちする。
「ヤドヴィガが耳元で囁いてあげなくてもいいじゃない」
「まあまあ、うまく行ったからいいじゃない」
「無防備なんだから」
唇を尖らせるリアムをよそに、私は改めて王太子の説得に乗り出した。
「というわけで王太子殿下。婚約破棄はお薦めではありません。妃教育も受けている公爵令嬢様と変わりない愛を誓いましょう」
そしてうちの婚礼家具の全キャンセルどうかやめてください。
心から願いながら訴えてみると、王太子様は髪の毛をくるくるもてあそびながら嫌な顔をする。
「でもな〜 公爵令嬢ってな〜」
「何かご不満がおありなのですか?」
「冷たくて嫌なんだよ。手を繋いでも怒るし、妃教育テスト前日に夜更かしして遊ぼうっていうと怒るし、僕が踊り子にデレデレしてても怒るし」
「…………まあ、それは…………」
なんでこんなのが王太子なんだ。
私は国家を憂いた。
しかし国家を憂う前に父と自分の家が問題だ。
「というか、君。本当は公爵令嬢と僕の婚約破棄なんてどうでもいいんだろ?」
王太子がが冷ややかな目で私を見遣る。
「どうせ君は成金の家具屋の娘。今回の婚約破棄で婚礼家具全キャンセルで家が傾くのが怖いだけだろう」
ぎく。ぎくぎく。
「そ、それは…………もちろん、そのことが無いといえば嘘になりますが……しかし、公爵令嬢様が王太子殿下のために尽してきたこと、そして今心を痛めていらっしゃるのは事実でございます」
「……君、顔を上げて?」
突然命じられ、私は顔を上げる。
彼は私の顔と、体を、上から下までジロジロと眺めた。
その視線にゾゾゾ、と嫌な寒気が走る。これってあれだーー値踏みされてる視線だ。
「君よく見ると可愛いね? そうだね、可愛い君が困ると言うのなら、婚礼家具のお金、全部払ってもいいよ」
「本当ですか!?」
「ただし、君が……僕の彼女になってくれるなら、って話だけど」
王太子様はニチャア、と笑う。
それなりに美形なのに、笑い方が汚くてまさにニチャア、だ。
「どう? 君が僕の彼女になりたいって言って、ここでその連れている男を追い出して二人っきりになってくれるなら……そうだね、一晩につきひとつ、家具のお金を払ってあげてもいいよ」
「え、ええと……」
「家具、キャンセルされたく無いんだろ?」
私は冷や汗が止まらなくなった。口が乾いて、返事が出てこない。
確かに私が王子の彼女になったら、全キャンセル回避でお父さんはブッ生き返るだろう。でも、私は……私は。
「王太子殿下。恐れながら発言してもよろしいでしょうか?」
そこで私を背に庇い、紳士の礼をしたのはーーリアムだった。
「申し訳ありません。彼女は私の婚約者なので」
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