気高き公爵令嬢キャロライナ
成金の男爵令嬢が簡単に公爵令嬢に会いにいけるのかって?
心配ご無用! なぜなら私は家具屋の娘!
既に納品した商品についての話や、お支払いの話、オーダーメイドの家具の事まで、今後について話をしに行かなければならない立場なの!
ーーそう……話しに行かなければならないのよ……
そんなわけで私はリアムと一緒に馬車に乗って向かった。
流石に公爵令嬢の元に行くというわけで、リアムも汚れた作業着からパリッとしたスーツに着替えている。
「貴方、そんな服持ってたのね?」
「僕がいつもボロ着てるから、ヤドヴィガのお父さんが買ってくれてたんだ」
「いつの間にそんなことに……でもメガネは外さないのね?」
「うん。この眼鏡つけてないと、ちょっと面倒だから」
彼は眼鏡を傾けて私を覗き見て、青い瞳でにっこりと笑う。
その表情に図らずもドキッとしてしまう。普段仲良くしているリアムだけど、顔がものすごく綺麗なので、素顔を見ると心臓がびっくりしてしまう。
確かに、眼鏡をつけてないと面倒なのはーーわかる。
馬車の中でそんな会話をしながら公爵邸に向かったところ。
すっかり顔見知りになった執事さんが公爵令嬢のご不在を告げてきた。
「お嬢様はいきなり、ふらりと教会に向かいました」
「そうなんですね。では教会へと向かいます」
◇◇◇
私とリアムは教会に向かう。教会では人だかりができていた。
「婚約破棄されたご令嬢が!!! 大聖堂で喉をかき切ろうとしているぞ!!!」
私とリアムは顔を見合わせた。
「な、なんですって!?」
「助けないと!!!!」
「でもどうやって……! 大聖堂は中から鍵がかかっているみたいだし」
「大丈夫。僕の魔法さえあれば全ては解決するさ!」
リアムと一緒に大聖堂に向かうと、リアムは魔力で私を連れて跳躍した。
「ヒエッ!?」
「しっかり掴まってて、ヤドヴィガ」
そのままリアムは、大聖堂のステンドグラスを魔法で叩き割る!!!!
「ちょ、ちょっと!!!!!!!!!!」
叫ぶ私。
「だ、誰ですの!?」
キラキラとした輝きと共に暗闇を破って舞い降りてきた私たちに、公爵令嬢キャロライナ様が私たちを見て目を丸くする。
「彗星!? いいえ……家具屋の娘!?」
彼女の前に降り立つと、私は咄嗟にナイフを奪う。
「ストップ自殺!!! やめましょう!!!! 落ち着いてください!!!!」
「ヤドヴィガ、令嬢は頼んだよ。僕はステンドグラスを修復してるから」
リアムは呑気な口調で魔法を発動し、ステンドグラスを元に戻している。便利だな~。
「う……うあああああ…………ッ!!!」
ナイフを奪われ、公爵令嬢キャロライナ様は大聖堂に響き渡る大声をあげて泣き崩れた。
私は彼女を抱きしめ、背中を撫でた。
「キャロライナ様……お辛かったですね……」
「家具屋の娘、どうか私を死なせてください。王太子様に捨てられて、最早この世界に私の帰る場所はございません!!!」
「気高いのはわかりますけど、一旦落ち着いてください。せめて……今日だけ! 今日だけでも思い直してください! 今日思い直してくださるだけでもいいんです。……家具屋の娘に対するノブレスオブリージュってことで、どうかお願いします!」
深々と頭を下げた私の懇願に、公爵令嬢キャロライナ様は濡れた双眸をぱちぱちと瞬かせる。
「家具屋の娘……『絶対死ぬな』と言わないのね、貴方は」
彼女の疑問に、私は肩をすくめて答えた。
「そんなこと申し上げられません。私はキャロライナ様とは違う、ただの家具屋の娘なので……。長年ずっと妃教育に耐えてきて、たくさんの重責を背負っても気丈に気高く生きてきた公爵令嬢様の苦しみなんて、とても1ミリもご理解できる立場ではありません。そんな私が、安易に死なないでください、生きてくださいなんて言うのは、気高いキャロライナ様に失礼です」
「家具屋の娘……」
「……でも、私キャロライナ様を尊敬しています。だから……よかったらしばらくの間でも、公爵令嬢であることも、王太子様のことも忘れて、ゆっくりお過ごしになってほしいと思ってます」
「……ゆっくり…………でも……この国でそんな場所なんて」
「大丈夫です。私の父が言ってました。今ちょうど、南のラトリア王国では万年コスモスが見頃だって」
「万年コスモス……」
キャロライナ様の目が輝く。私は笑顔で頷いた。
「万年コスモス、とっても綺麗ですよ! ラトリア王国の王女様は親交がございます。彼女ならきっと、キャロライナ様と話が合うと思いますし、しばらくの間ゆっくりするのはいかがでしょう」
「……ふふ。観光だとか、今まで考えたことがなかったわ」
気高き公爵令嬢は肩の力を抜き、振り乱した髪をかき上げて微笑んだ。
「そうね。……手配してくれるかしら?」
「承知いたしました!」
キャロライナ様はそのまま大聖堂を出て、心配で大泣きする従者たちと共に去っていった。私が安堵の息をついていると、リアムがぽん、と肩を叩いてくれた。
「お疲れ。よくやったね」
「まあね……商売やってると、感情的になった高貴なお客様を宥めることなんて、いくらでもあるから」
「さすが。かっこいいね、ヤドヴィガは」
リアムはにこりと笑う。
「でも、彼女が婚約破棄を受け入れてバカンスしちゃったら、いよいよ婚約破棄は成立しちゃうんじゃない?」
私はサッと青ざめた。
「忘れてた……!!!!!!!! お、お父さんに申し訳が立たない」
「まあまあ。親父さんもきっと公爵令嬢の幸せを願う人だと思うよ。次は王太子殿下に会いに行こうか」
「そうね……」
私とリアムは、そこから馬車に乗って王太子殿下に会いに行くことにした。
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