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婚約破棄されると家具屋が困る

「婚約破棄する!」

「ぎゃー!!!!」


 叫んだのは婚約破棄を突きつけられたキャロライナ・マーズクリス公爵令嬢ではなく、私の父だ。

 成金男爵の私の父は、遣り手の家具屋。

 輸入家具をメインに商売してます。ご贔屓にどうぞ。

 余談ですが私はヤドヴィガで父の一人娘。黒髪に茶色の瞳をよく、父にウォールナットみたいだと褒められます。


 泡吹いて倒れた父が担架に乗せられて、煌びやかなホールから退場していく。

 私もお母さんも顔を見合わせて頷いて、ハイヒールを脱いで、慌てて父の担架を追いかけた。


 ホールではやれ浮気だの、真実の愛だの、聖女だの、スプーンを曲げた奇跡だの、なんか言ってるけど構ってられない。

 このままでは父も店も破滅してしまう。


◇◇◇


 第二王子とキャロライナ・マーズクリス公爵令嬢のロイヤルウエディング、その婚礼家具の手配を一手に引き受けていたのが父、ハリソン・ライリーズ男爵だ。

 羽振りの良い国王陛下が調子に乗ってあれこれ注文してくれたおかげ様で、他の王侯貴族もあれやこれやと注文してくれて、一気に事業は絶好調。ライリーズ家は札束に火をつけて灯りにできるレベルのお金持ちになった。

 ……いや、そんなことはしないけど、周りの同業者や成金男爵が嫌いな貴族からはそんな噂を立てられてるくらいにはって話。


 しかし。

 第二王子と公爵令嬢のロイヤルウエディングが駄目になってしまえば、この国の貴族の高級輸入家具大奮発ブームも終わってしまうだろう。嫁入り道具で家具を買う文化も消えてしまうかもしれない。南無。


 帰宅後。私はずっと父の看病をしていた。

 お医者さんが言うには心因性の体調不良らしい。


「このままどうにもならなければ、どうにもなりませんね」


 そんな言葉を残して去っていったお医者さんの代わりに、部屋に見舞いがやってきた。


「どう? 親父さん元気?」

「あ、リアム。来てくれたんだ……」


 よぼよぼになっている私に、見舞いのリアムが苦笑いする。


「親父さんだけじゃなくて、ヤドヴィガもボロボロだね」


 リアムはうちが取引をしている工房を営む魔法家具職人だ。年齢は23歳、今日も銀糸の長髪を無造作に一つにくくって、木屑に汚れた着古した作業着を着てやってきた。分厚い瓶底丸眼鏡の奥の瞳は綺麗な青い瞳なのだけど、それにお目にかかることは滅多にない。

 眼鏡を外すと睫毛が長くてぞっとするほどの美形なのだけど、それを知るのは私の家族と、家具の工房の人たちくらいだ。


「また作業着でうちに来て……。私はいいけど、お母さんにまた怒られたでしょ?」

「木屑落とすなって、ガムテープでペタペタコロコロされたよ」

「そりゃそうだわ」


 彼は、ベッドでうなされる父を見て眉根を寄せた。


「……あまり良くなさそうだね、親父さん」

「本当にどうしようもないわ。貴方の工房から仕入れた高級ドレッサーもどうしよう……」

「待って、あれもう既に完成してるけど?」

「そうよね~~まずいわ……」


 頭を抱えて突っ伏す私に、彼は「お疲れ……」と労ってくれた。


 彼が言う高級ドレッサーとは、顔認証で開く魔法錠がついた最高級品。その魔法錠はなんとリアムが開発した。

 こんなボロボロの姿だけど、彼は天才魔術師なのだ!

 ……ただ、あくまで本人は家具職人を名乗る変わり者。魔術師として宮廷に飼い殺される生活が嫌で家具職人となったのだとか。


「まあ、今日は親父さんを見に来ただけじゃないんだよ」


 リアムは父のうなされる寝顔を眺めながら言う。


「どういうこと?」

「婚礼家具の発注、全部消えなきゃ問題ないんでしょ?」

「そうは言っても、王太子様、実際婚約破棄しちゃったし……」

「でもさ? いきなりの破棄なんだから、やっぱりなしで! もいけるんじゃない?」

「そんな簡単なものかしら」

「婚約破棄が簡単になったこのご時世、婚約破棄の破棄も簡単だと思うよ」


 あまりに簡単に言うものだから、私も「なんとかなるかも」の気持ちになってきた。


「そうね、諦める前にまずはやってみないと!」

「うん、その意気だよヤドヴィガ。取り持とう! 王太子と公爵令嬢の婚約!!」

「ええ! やりましょう!!!」


 えいえいおー!

 そんなわけで私はリアムと共に、キャロライナ・マーズクリス公爵令嬢の元に向かった。

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