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私が駅のホームで会う女の子の話を聞いて欲しい。

 私が駅のホームで会う女の子の聞いて欲しいの。

 なんて言うか、このままだと、自分の中で上手く消化出来なくて気持ち悪いままだから。

 別に大した話じゃないって言うか、ううん、私の考えすぎで、そもそも何も起こってないのかもしれない。

 それでも、誰かに聞いて欲しい。


 私は、毎朝高校に行くために電車に乗ってる。部活はしてないから、朝は割と余裕があるタイプ。

 7時20分ぐらいに家を出て自転車で最寄り駅まで5分、それから7時45分発の電車に乗ってる。

 問題は電車待ちの時間なんだよね。私のお母さんは「遅刻は許しません!」派でとにかく時間に厳しいの。だから、当然余裕を持ってい家を出る……というか、追い出されて、駅で20分も待つことになる。

 20分だよ、20分!そこそこな田舎の駅で立ちっぱなしで電車を待つの、結構メンタルにくるし、女子高校生の朝の数分の貴重さを分かってないよね、ほんと。その時間さえあれば、彼氏と電話ぐらい……ごめん見栄張った、彼氏いないし無理。でも、ちょっといつもより凝ったヘアアレンジぐらいは出来ちゃうよね。

 まあこんなこと言っててもしょうがないし、もうそろそろ私も慣れちゃってて、最近はどうやってその時間を潰すか、が大切になってきた。

 それで、私はホーム内を見回してみたの。その時ギガがピンチだったから、スマホも使えなくてさ。

 でも、私の右には嫌そうな顔したサラリーマン、後ろには木製の椅子に座って青いイヤホンで音楽聞きながらなんかひとりごと呟いてる高校生。以上。毎朝同じ電車に乗ってる、名前を知らないけど知ってる人たちだけ。面白いことなんて全くない。

 しょうもな、と思ってすぐ辞めようとした時、向かいのホームに立ってる子と目が合った。

 少女マンガだったら、火花が散って、恋が始まっちゃう系のやつ。

 とにかく、その……Aちゃんと目が合ったの。そしたら、Aちゃんは、にっこり笑って、こっちに手を振ってくれた。

 それがもう、すごく可愛くて!

 なんだろう、Aちゃんは黒髪のセミロングで、いつも俯いて青色のイヤホンで音楽聴いてる、地味な見た目の子のどこにでもいるような女の子。でも、それを上回るぐらい、笑顔がすっごくかわいい子だった。


 とにかく、私はあわててAちゃんに手を振り返した。その直後、駅に電車が滑り込んできたからそれ以上は何もなかったけど、私はすごくドキドキしてた。


 それから私は、毎朝Aちゃんと手を振りあうようになった。疲れた顔したサラリーマンやイヤホン付けてるひとりごと高校生なんてもう目に入らなくなった。

 Aちゃんが先に私の方に手を振って、私はそれに振り返す。

 それが終わったら、Aちゃんはイヤホンをつけたまま、私に言葉を伝えてくれる。

 駅はうるさいから、Aちゃんの言葉は聞こえないけど、口の動きだけで、「おはよう」「今日は体育があるんだ」とか、「大好きだよ」って言っているのが分かるの。それに私も、「体育ってめんどくさいよね」「Aちゃん大好き!」とか、口パクで返す。

 たったこれだけ、20分間だけのコミュニケーションだけど、私はAちゃんが大好きになった。

 Aちゃんって天然というか、ちょっと笑いのツボがズレてるところもあってさ、たまに私の話聞いてるの?ってタイミングで急に笑い出したりすることがあるの。でも、そんなところもかわいい。

 そうそう、学校が代休の日でも、駅に行ってAちゃんとお話しすることもある。そのくらい魅力的な女の子なんだよねぇ。


 でも、私は気が付いてしまった。Aちゃんのことを好きになったのは、私だけじゃなかった。

 毎朝、私と同じ電車にのってる青イヤホンのひとりごと陰キャ高校生。そいつが、ずっとAちゃんを見てた。

 じーっと向かいのホーム見つめて、私の方に手を振ってるAちゃんにこいつも手を振りかえしてんの。気持ち悪くない?

 その上、ボソボソひとりごとを言ってる。「おはようあおい」とか「今日の授業は……」とか、挙句の果てに「俺も好きだよ」って!


 Aちゃんは、私に言ってくれてるのに!

 私に毎朝手を振って、私とおしゃべりしてるのに!

 私に大好きって言葉をくれたのに!

 私のAちゃんなのに!


 まあでも、Aちゃんに惹かれる気持ちは痛いぐらい分かる。

 だから、私は電車に乗る時に、そいつの背中を……あ、ごめん。話が逸れちゃってた。


 もういない人の話なんかどうでもよくて、聞いて欲しいのはここからなんだよね!

 私はこれでAちゃんをひとりじめできる!って思ってたんだけどさ、Aちゃんは、私に手を振ってくれなくなっちゃった。

 もちろん、おしゃべりしてくれることもなくなったし、なんだかここ最近ずっと暗い顔をしてるみたいなんだよね。

 嫌われるようなことをした記憶はないし、もしかしたら、Aちゃんに何か悪いことが起こったのかも。

 飼ってる犬の体調が悪いとか、身内の不幸なんかもありえるよね。

 私の考えすぎで、何も起こってないのかもしれないけど、とにかくAちゃんの笑顔をまた見たいから、明日あたり、向かいのホームに行って直接お話ししてみようかな、って思ってるんだよね。

 ……あ、ごめん。別にアドバイスが欲しいわけじゃないの、ただこのAちゃんが心配で、このモヤモヤを誰かに聞いてほしくてさ……

 え、違う?Aちゃんの名前?

 知らない知らない、だからAちゃん、って仮の名前呼んでるんだよ。

 笑顔のAだからピッタリ──え、なに、Aちゃんの名前を知ってる?うっそだぁ。

 ……あ、わかった。さてはあなたもAちゃんのこと好きなんだね。


 私が背中、押してあげようか?


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