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 ——「親善試合・二日目」



「……っ」


 ……ものすごーく、ウケている。

 肩を震わせ、だが表立って笑うのは悪いと思っているらしく、一応口元に手を当てて隠す努力をしている。まあバレバレだけども。


 誰が笑いを堪えているか?


 陛下だ。我らがボス。魔王陛下。

 何を見てウケているかってそりゃ、眼前で繰り広げられる四天王第二席と勇者殿のタイマンマッチである。

 話を聞くに、陛下は昨日の俺の試合を観戦している時にも笑いを堪えきれていない様子だったらしい。



「ぶはは! あの祐司の奴が! 溺れてんぞオイ!」


「祐ちゃんをここまで追い込んだのユイちゃんが初じゃないっすか? ふは、ふははは、何だこれ⁉ この映像、魔導ディスク化したら最低百枚積みますわ! 祐司が俺を都合よく使う度にディスク渡してやるぜふはははは!」


 まあ俺と葉さんは何の遠慮もせずに爆笑している訳だけども。


 フィールド上に結界による()を作り出したユイちゃんは、祐司に捨て身の体当たりを仕掛けその中にアイツを閉じ込めたのだ。


 そして箱に魔法で水を注いでの水攻めである。

 一気に満たす方が余程楽だろうに、何故か杖の先からチョロチョロ時間をかけて水を入れていただけでも充分に笑いどころがあったが、あのクールな祐司が踠いている今もかなり面白い。


 しかもユイちゃんは随分とテレビ映えを気にしてくれているようで、注いでいる水にはまるで聖水のようにキラキラと輝く細工を施しているときた。

 輝く水の中で溺れる祐司。絵面が間抜けで面白過ぎる。


「ユイちゃんも中々、ユニークな戦い方をする子だねぇ。確かに結界は内部からの破壊は困難だし……ッ、ふふ、彼があんなにピンチに陥っているのは久しぶりに見たなあ……」


「陛下、もう普通に笑っていいんじゃないっすかね? 昨日なんか俺が戻ってきた途端に爆笑してたじゃないっすか」


「だってトモはよく見たらあの殴打攻撃で着物が破れて下着が見えて——」


「すんませんそれ心の傷なんで勘弁してください」


 予期せぬダメージを喰らってしまった。



「あはは! 葉介の試合も楽しみだねぇ」


「いやいや。俺は華麗に勝ってきますよ」


「いやいやいや。葉さんも空気読んで道化になる所っしょ?」


「そんな事したら全国の俺のファンの子が悲しむだろ?」


 とか言いつつ、葉さんは女性や子供に弱いから、何だかんだ愉快な様を晒してくれそうではある。これは祭りだから、別に無様を晒しても笑って済ませてもらえる訳だし。


 ……まあ、あまりにあまりな姿を見せてしまうと、いっときの笑いで流してはもらえず、昨日の俺みたいにパンツが見えているテレビのキャプチャ画像をネットに晒され笑い者にされる事になるけれども。

 いやはや、あれには困った。ちょいと油断しすぎていた。お恥ずかしい。


「まあ、葉さんの健気なファンは数々のスキャンダルで振るいに掛けられてきた猛者揃いだから何が起きても大丈夫っしょ」


「俺のスキャンダルって何よ。まだ何もしてねえよ」


「パンツ一丁キスマークだらけで救援に行ったり、定期的に間違えて人妻に手ぇ出したり」


 その点、歴代四天王の中でもトップレベルに現役歴が長い我らがリーダーは既に数々の痴態をネットの海に晒されている訳で、ある意味心強い。


「あー。そういうの俺はもう忘れたからお前も忘れた方がいいぞ、トモ」


 この通りに本人の心も強い。


「葉介。遊ぶのは良いけど、他所のご家庭に迷惑をかけるようなことは金輪際しないようにね。君なら異能で嘘を見抜くのも容易なんだから、深酒はやめて——」


「陛下は俺のお袋かよ……」


「あはは。聴こえているよ」


「はは。何がです? 幻聴ですよ」



 試合そっちのけの内容で盛り上がり始めたものの、俺らの目だけは変わらずフィールドに釘付けだった。

 遂に祐司が結界を破った。よく見えないが、プライドの高いアイツの事だからきっと今は口許を引き攣らせているんだろう。


『ユイさん、やってくれるじゃないか……』


 予想を裏付けるように、その声は聴き慣れたトーンよりもだいぶ低かった。


「おいおい祐ちゃん、声がマジだぞ。大人気ないですなあ」


「昨日のお前も似たようなモンだったぞ」


「え? そうっすか?」


「パンツ晒した瞬間から手加減抜きで潰しに行ったろ?」


「……いやまあ、パンツ晒す予定はなかったから焦っちゃったんすよ……」


 まあ、勝負パンツだったのが唯一の救いか……。


「だからアニメキャラの顔が印刷された変なパンツなんか履いてたのか」


「……あれ、俺の勝負パンツなんだけども」


 気まずく呟くと、「お前……マジかよトモ……」と引き笑いを頂いた。



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