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——「ふたりの会話・続」



「なあ」


 あの後も先生が戻って来ないのをいいことに私達は泣き止めないまま時を過ごしていた。

 特にこれといった会話はしていなかったけれど、唐突に、ぽつりとアイリが声を出した。


「お前は……これから、どうするんだ?」


「…………」


 尋ねる声は妙に緊張しているように聴こえた。


「ここに残るよ」


 だからか、私の声も少し固くなってしまったかもしれない。


「闇の国が気に入ったのか?」


「……う、ん。まあね」


「…………」


「——アイリ、私ね」


 まだ詳しく聞きたそうな様子は感じたが、敢えてそれを流し、私はずっと彼女に伝えたかった心を今ここで言ってしまう事にした。



「君のこと大好きだよ。かっこよくて、こんな私にも優しくしてくれるしね、尊敬してる」



 ——いつか、ミシロさん達の元から逃げた後。

 私は急に得た自由に戸惑い、しかし浮かれていた。


 これから何をしよう? 何処へ行こう?


 でも、すぐに気が付いた。私に行く宛なんか何処にもないんだ。

 記憶を頼りにパパの家に行ってみたけれど、そこには何もなくて。敷地の端から端まで、立ち入り禁止の看板と共に結界が張られていた。


 私はその結界をこっそり解いて、雑草が風になびくだけの広い広い空き地に侵入した。昔ブランコが掛けられていた大きな木だけは相変わらずそこにあったので、その木陰でしばらくの間ずっと空を眺めて過ごした。


 心細くて、寂しくて、あの人(﹅﹅﹅)の元へ帰りたくて、切なくて。

 誰も来なかったそこに人がやってきたのは何日か後。



 ——“こんなところにいたのか”



 帰るぞ、と。そう当然のように私の手を引き上げてくれたのは、記憶の中のそれと寸分違わぬ青を持つ綺麗な女の子だった。


「あーちゃん。今まで、ありがとう」


「……どういう意味だよ」


「えっ? どういう意味って……どういう意味だろうね?」


「………………」


「や、やだなぁもう。変な意味じゃないよ」


 しまった。ちょっぴり怪しまれているかもしれない。何とか誤魔化せないかなぁとへらへら笑ってみたが、横目で確認した彼女の鋭い視線が緩むことは一切なかった。


「おい。……お前な」


「……は、はい」


「私がピンチになったら、他の誰でもない、今ここで私と話しているお前が、また助けに来てくれるんだろ?」


 「え?」。何か怒られるかと思いきや、彼女が触れたのは少し前の会話について。どうしてこのタイミングで掘り返すのか、分からないまま頷いた。


「忘れるなよ。約束しろ、必ずだ」


「……? うん。分かってるよ。約束する」


 追加で二度ほど頷いて見せると、アイリはやけに深いため息を吐き出してこう言った。


「…………分かってるのかよ、本当に」


 よく分かっていないと言ったら今度こそ本当に怒られてしまいそうなので、私はこれ以上は何も言わずに口を噤んだ。



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