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夜の隙間

作者: トラトラ

 深夜の学校はどこか不気味だ。非常出口の緑の光、火災報知機の赤い光、それらが不気味に混ざり合いどこか不安な気持ちにさせる。しかし、せっかくここまで来て引き返したら、僕はもう2度と学校へは来ないだろうと思った。

 

 僕は来週に大学院を辞める。

 大学院は結構あっさりしている。辞めるとメールで伝えたとき、教授に少しは止められるかと思ったが、そんなことはなかった。

 元々、コミュ力があったわけではないのに内部進学を蹴り、他大学の院に行ってしまったのが運の尽きだった。そして、昨今、流行っている感染ウイルスのおかげもあり、僕が大学院で孤立するのはそう難しいものではなかった。そこから、見事に不幸が重なっていき、結局は大学に行かない、バイトもしていない、などの見事な引きニートになってしまった。

 僕は、そのまま引きニートを1年間続けた。そして大学院2年生の後期になり、僕はやっとこれからどうするかをまじめに考えた。そして結局、大学院を辞めるという決断がでた。判断をするのに1年かかったが、決まれば行動は早く、3日ですべての準備が整った。渋っていた教授へのメールも昨日、日本酒をがぶ飲みすることで何とか送れた。後は、書類を大学側に郵送するだけですべてが完了だった。

 しかし、なぜ、僕は深夜に学校へ行くハメになったのかと言うと、それは、僕が使っていた実験器具の存在を思い出したからだ。学校から借りた実験器具を使ったまま、そのままにしていることに僕は気づいてしまった。

 最初は、忘れたふりをして、そのまま去るつもりだった。しかし、立つ鳥跡を濁さずということわざがあるように最後ぐらいはしっかりしようという思いと、後で陰口を言われるのが嫌だとい気持ちがあり、僕は学校へ向かう決心をした。

 しかし、学校に向かうにあたって、絶対に人と会いたくなかった。なので、向かう時刻は絶対に人がいない深夜ということになった。

 案の定、学校に人はいなかった。僕が手早く実験器具を綺麗に洗った後に、ふと、自分の向かいの席にある綺麗な正方形の形をした小包に目がいった。小包の周りには、誕生日おめでとうというメッセージが添えられていた。それもたくさんのだ。

 僕は、それを見たときになぜか涙が出た。しかし、それは悲しみでも、悔しさからでもない。ただ、何とも許しがたい何かを感じた。

 僕は、その小包を誰も知らない夜空の下に捨て去りたいという思いにかられた。

 今思えば、なぜ自分がそのような感情に支配されたのかもわからなかった。

 気づけは自分の手の中にその小包があった。自分の手の中にある小包を見た瞬間に衝動を抑えることができなかった。静かに窓を開け、窓から身を投げ出すように下を眺めた。どの辺に投げるかを決めるためだ。その窓からは普段は見ることはない学校の裏側の土地を見ることができた。あえてそうしているのかは知らないが、学校の裏側はあまり手入れが良くない。街灯の優しい光からでも草や木がだらしなく伸びきっているのが分かった。そんなことを思いながら眺めていたら、窓から体を支えていた手が滑り、思わず落ちそうになった。あわてて体を持ち上げ、なんとか教室側に体を持ってきた。

 自分の無事を確認すると、さっきまでの衝動は消えていた。

 次第に落ち着きを取り始め、小包のことを思いだした。急いで自分の左手を確認すると、しっかりと小包を握りしめていた。握りしめた手を優しくほどき、小包を急いで机の上に戻した。

 さっきまで綺麗な形をしていた小包はもうどこにもなかった。いびつな形をした小包を見たときに、僕は自分が今やろうとしたことに対して冷や汗が止まらなかった。

 その後、僕は急いで学校をでた。学校から家に向かう道中、穏やかな気持ちではいられなかった。僕は夢中で走り続けた。1年間引きこもっていたせいで、体がだいぶなまっているので、走っている最中に体のいたるところから悲鳴が聞こえた。それでも僕は走り続けた。暗い夜の隙間を縫って、走り続けた。

 家に着いた後も、落ちつことはなく、ずっとベットの端で震えていた。しかし、朝日が差すころには、眠気に負けていた。

 眠りから覚め、スマホの時刻を見ると、昼過ぎになっていた。不思議と気持ちは落ち着いていた。ベットから出て、深夜のことを思い出した。

 しかし、不思議と感情に変化は見られなかった。現に今僕は、そんなこと気にも留めずに、今日のお昼は何を食べようか考えだしている。

 僕の日常も非日常もやがて、すべて消えていく。結局無駄なことなんてないのだ。全てが等しく消えていくのだから。

 

 

 



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