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幻想の魔界劇場 ~魔王ダイアーク物語~

作者: アル


 魔界……そこは、我々人間の住む世界とは別次元にあり魔族という異種族が住む世界である。 

 そして、その頂点に立ち世界を治めている魔王も存在している……。

 城壁に囲まれた大都市の中心部に聳え立つ不気味な雰囲気を醸し出す巨大な建築物がその魔王の居城であり、主人の名をダイアークと言う。


「……来たか……」


 いかにもRPGのラスボスの部屋風な作り、そこにまさにラスボス風に玉座に鎮座しているのは、見た目は初老の男であるが、大柄な体格で、額から生えた二本の黒い角と尖った耳は明らかに人間ではない。

 分かる者には分かるが、強大なる魔力を感じさせすさまじい威圧感を放つ彼こそ魔王ダイアークである。

 そんなダイアークの見据える先にいるのは二十代半ばに見えるメイド服の女性であるが、彼のそれに比べれは少し短い角と尖った耳は、やはり彼女が人間ではないと教えてくれている。


「はい、エクシア……参りました」

「う~~む……」


 ダイアークが急に難しい顔で唸ったのに「どうなさいましたか?」とエクシア。


「いや……な……仮にも魔族の娘に天使の名エクシアというのもなと……まあ、今更ではあるが……」

「まあ、お父様の趣味・・ですし……アシュタロンやヴァサーゴやベルフェゴール……バルバトスとか女の子らしくない名前よりはいいかと思っていますわ」


 実際天使の如き穏やか笑みで肩を竦めてみせるエクシアに、そうなのかも知れないと魔王の称号を持つ男は思えた。

 ちなみに立場的には”お嬢様”な彼女が何故に従者のような服装なのかというのは一言で言えばエクシア自身の趣味・・である。 

 社会勉強にとバイトをした喫茶店の衣装が気に入り、それ以来好んで身に着けるようになったのだ。


「……あら? どちらかといえばあなた・・・の趣味ではないのですか?」


 不意に天井を睨みながらエクシアはそう言った。


「……? まあ、いい。 それでな、かつての副官で友でもあるゲドーの娘である君を呼んだのは他でもない、我が息子の事なのだ」

「はあ……リオル君……じゃなかったリオル様ですか?」

「うむ……君にはあいつの教育係というか家庭教師というか……を頼みたいと思ってな?」


 予想もしていなかった事にエクシアは首を傾げた。 そういうものであれば専門の人材はいるし、そもそもリオルにも専属の人物がいたはずだった。

 なにより……。


「リオル様は知識も豊富で武術にも優れており、十分な品性も備えたお方……しかも正義感も強くまさにヒーローともいうべき立派なお方。 特に問題もないかと……?」


 ……なのである。


「……いや、最後! 最後がめっちゃ問題ありなのだ!」 


 困惑気味に「はい……?」と首を傾げるエクシアの様子は、ダイアークには天然ともわざと惚けているようにも思えた。


「仮にも魔王の息子、つまり後継者が正義感の強いヒーローじゃいかんだろ? 魔王とは悪の存在であるのだからな。 確かに、この魔界は核戦争で崩壊した世界の修羅の如き国ではない、一定の法と秩序はある……がだ! ものには限度があろう!」


 もっともな理屈ではある、このダイアーク自身も敗れはしたがかつては人間の世界を侵略しようとした事があるのだ。


「八百屋の家系は野菜を売る、肉屋は肉を売る。 ならば魔王家の者は人間界の征服を目指してなんぼだと思わんか?」

「どういう理屈なんですか……」


 力説に対して苦笑したエクシアは、次には「しかしです……」とグリーンの瞳で魔王たる男を見据えた。


「それは少々時代遅れな考えかと? 正直な話、今は魔王だとか怪獣だとか侵略宇宙人より地球人の方がよっぽど性質の悪い時代です。 しかも昭和の時代ならともかく、令和の世の腐敗した人間世界など侵略する価値がありましょうか?」


 天使の如き笑顔で悪魔のように辛辣の人間を語る黒い長髪の女性に、魔王は少し気圧されながら、「まあ……そうなのだがな……」と答える。


「と、とにかくだ。 君には息子の面倒をみてほしいのだ、こうして呼びつけて置いて何もさせぬまま帰ってもらうわけにもいかんしの?」


 今更自分が面倒を見なければいけない子供とも思えないが、魔王であり子供の頃からお世話になっている”おじさん”の頼みであれ引き受けたいとは思える。


「承知いたしました、リオル様の従者としてお世話をするというようなものであればお引き受けいたします」

「おお! やってくれるか」


 喜ぶダイアークに対して頷いたエクシアは、「では早速……リオル様は今どこにいらっしゃるのでしょう?」と尋ねた。 

 すると魔王の表情が困惑したものに変化し、「う、う~~む……」と唸り出す。


「おじさん……じゃなくて魔王ダイアーク様?」

「……あやつは今は人間界にいるはずだ。 その……最近少し性質の悪い友人と付き合い始めてな……」

          

           ―――――――――――――  

 

 人間の世界での魔族の行動は隠密に行い決してその存在をひけらかしてはならない、無用な犠牲は出すような事をして大きな騒ぎを起こしてはならない。 それが魔界の重要な掟のひとつであり、どんなに極悪非道で頭の悪い三下であっても基本的には従う。

 ”斬骸骨ざんすかる”という名のこの暴走族もそんな魔族の集団である。

 見た目は人間に化けてはいるが、もちろん全員が魔族であるため警察の敵う相手ではなく、取り締まりをすることも出来ていない。 総勢三十人程である彼らの行為により現在のところ死者は出ていないが暴走行為で怪我人は出てしまっているし、騒音で一般市民の方々には大迷惑を掛けているという悪党だ。

 そんな彼らが今日も今日とてストレス発散の為に暴れるべく夜の公園に集合した直後だった、「あんたらの悪行もここまでよっ!!」という叫びと共に一人の少女が突撃してきたのである。

 年齢は十代半ばだろうか、セーラ服を身に纏い、炎のような赤い色の髪をなびかせながら駆ける少女に対し「なにもんだぁぁああああっ!!」と声を上げながら跳び出したのはドゥカという名の男で、その後にイクも続く。

 

 「ユナっ!!」

 

 名乗る少女の右手にはいつの間にか武器が握られていた、少女の身長の半分ほどの柄の先端に赤い円筒形の物が付けられたその形状は……。


「ピコピコハンマーだと……あべっ!!?」


 躊躇なく振られたそれは、可愛らしい音と共に大の大人であるドゥカの身体を軽々と吹き飛ばしたのである。


「……玩具でっ!? どういうパワー……ひでぼっ!!!?」


 続いてイクも吹っ飛ばす、例えプロレスラーの一撃のあってもびくともしないはずの魔族をいかにも弱そうな女の子が易々と倒すなどあり得ないはずだった。


「聖剣《エターナリア》っ!!」

「聖じゃねえぇぇええええええっ!!!?」


 続いて襲い掛かって来たピッピを倒すと、「そうか! 勇者少女かぁあああああっ!!!!」と鉄パイプを振り上げるニーデンは、「勇者少女のユナだよ!」と振られた聖剣……いや、聖音槌《エターナリア》に吹っ飛ばされてしまう。

 勇者少女とは、この世界とも魔界とも違う別次元の世界で勇者として活躍した者達の魂と力を受け継ぎし少女である。 何がどういう原理でそうなるのかは誰にも分からないのだが、元の世界で在りし日の武器を召喚し人知れず悪しき存在と戦う事を宿命づけられた存在である。


「……だが何故ピコハンなのだっ!?」

剣のまま・・・・だと痛いし! 死んじゃうかもでしょうっ!!」


 フォーンセの問いに答えながら彼を吹き飛ばし、その勢いのままにカガッチの大事なところに一撃を叩き込めば、「あぶぁぁああああっ!!!?」とカガッチは崩れ落ちる。


「いや! 十分痛そうだしっ!!?」

「当たりどころ悪いと死なねえかっ!!!?」


 ツッコミの叫びを上げたムッターとマズガンも瞬殺される。 

 なお言い忘れたが、元の世界での性別にかかわらず女の子として生まれてくる。 そして魂と力は受ついでいても人格は前世のそれではなく、この世界に生まれ存在する”ユナという少女”のものである。


「おぼぉぉぉおおおおおっ!!!?」

「ひぃぃいいいいいいいっ!!!?」


 更にはレンとダーの顔面にピコハンを叩き付けて気絶させる。 少女の強さに怯みながらも跳び出しかける仲間達を制して「俺が相手だ!」と進み出たのは、リーダーのクロノックである。

 元の姿に戻ったクロノックの手には切れ味の良さそうな刀が握られている。


「聖剣でも音槌でもいいが、そんな玩具でこの妖刀《雀蜂》に勝てると思うな!」

「思うよっ! 魔力集中……〈ユナ・インパクト〉!!!!」


 両者同時に武器を振るえば、《エターナリア》と《雀蜂》がぶつかり、火花ならる魔力の光を放ち、そして……。


「……おい!? 《雀蜂》が折れただとっ!!? パワー負けだとぉぉおおおおおっ!!!?」


 ……起こった現象に驚愕し、「……やったな勇者少女っ!!」と後ろへ跳ぶクロノックを、ユナは追撃しなかった。

 それは降伏を呼びかけるためだったが、彼女が口を開くより早く「そこまでにしておくといい!」という男の声が響いた。 

 ユナを含めた全員が声のした方へと視線を動かすと、滑り台の天辺に長身の男が立っていた。

 外灯や月の明かりで照らされる銀髪を持ち、白いワイシャツをラフに着ている十代後半くらいの魔族であると分かる。 


「もう一度言いますよ? 悪さはそこまでにしておきなさい……」


 ゾッとする金色の瞳に睨まれ”斬骸骨”の面々は凍り付いた、それほどの威圧感を放っていたのである。

 しかし、ユナは「おっそい~~~!!」とそんなものは感じてないように不機嫌な声を上げた。


「……遅いって……君がフライングしたのだろう、ユナ君?」

「あんたが遅いから先に行ったのよリオル!」


 痴話げんかめいて交わされた会話に、「リオルって言ったっ!!?」とクロノックが反応すると、他のメンツも驚き顔を見合わせ合う。


「いかにも、我が名はリオル。 魔王ダイアークの息子リオルだ」


 誰も一言も言葉を発せなかった……いや、「遅刻してえらそーに……」というユナは例外だが。

 クロノックのような三下魔族には魔王クラスの魔族の存在とは縁がないが、魔界にもあるテレビのニュースなどで多少は目にする機会はあった。 その朧げな記憶と、目の前で放たれる強大な魔力とすさまじい威圧感を合わせればまず疑う余地はない。

 そして、”おのれ~時期魔王様がこんなとこにおられるはずがない!”とか言ってやぶれかぶれの特攻をするような根性もクロノック達は持ち合わせていなかった……。


           ――――――――――


 暴走魔族達が立ち去って静かになった公園のベンチには、ユナとリオルがならんで腰かけていた。 ユナの髪は赤から黒へと変わっており、リオルもまた黒髪の人間の姿になってはいたが。


「ふ~~~ごちそうさま~♪」

「まったく……時間前行動もいいが、限度があるよユナ君?」


 リオルの買ってきていたバーガー・セットを平らげたユナが満足そうに笑う。

 戦いの前の腹ごしらえにと買ってから行った待ち合わせの場所に彼女の姿がなかった事に、遅刻よりも先に行ってしまった事を疑い、探してみたら案の定ターゲットとすでに戦闘中だったのだ。


「どんな時でもね、女の子を待たせる男の子の方が悪いのよ?」

「どういう理屈なんだか……」


 肩を竦めながら自分の分の紙袋にユナから受け取った包み紙等を入れるとそれを放り投げれば、ベンチの傍のごみ箱に吸い込まれるように入った。

 魔界の時期魔王と勇者少女……この妙なコンビの結成の経緯を今は語る時間はない。

 しかし、二人は邪悪な存在から力なき者を守るという目的を持って共に行動している事に間違いはなかった。 



             ―――――――――――



「……成程、そういう事情ですか」


 エクシアは少し遅めの夕食を魔王親子と共にし、その席で今日の出来事を聞いたのだ。

 本物・・のメイド達が食器を下げ始めているなかで「それで、その暴走族はどうしたのリオル君?」と尋ねるエクシア。


「今回は見逃しましたが、次に同じ事をするなら捕まえますよ、エクシア姉ぇ」


 ダイアークが二人に咎めるような視線をむけているのは、やはりこっちの方が落ち着くとラフで親し気な口調で会話しているからではない。 二人が幼なじみであり姉弟のような関係なのは彼も好ましく思っているからだ。


「まったく……”魔王”が”勇者”と人間を守ってどうするのだ……?」

「人間も魔族も関係ない、俺は悪から弱者を守るんですよ?」

「うふふ、リオル君も立派になったわね?」


 姉に褒められてまんざらそうでもない息子に、魔王は溜息を吐く。

 実のところこうなってしまった原因は分かっていた。 リオルが幼少の頃に悪たるものの何たるかを教えようと人間界にある様々な特撮スーパーヒーロー番組を見せたのだ。

 それらに登場する敵は、まさに魔王たる存在の見本になる悪役ではあったが、リオルは何故かヒーローの側に染まってしまったのである。 

 今となっては失敗と思い教育のやり直しをしようにも、力技では自分の方が負けてしまうかもと思えるくらい息子も成長しているし、反抗期にでも突入しつつあるのか素直に言う事を聞いてくれなくなっていた。

 エクシアを呼んだのはそんな事情もあり、”姉”の言う事であればシェインも素直に聞くのではないかと考えたからだったりする。


「……まあ、さっきも言ったけど、これからしばらくリオル君のお世話をする事になったからよろしくね?」

「俺としては少し不本意ですが……」


 リオルは父親を恨めしそうに睨んだ後に再びエクシアを見るその表情は笑顔だった。


「俺の我儘でエクシア姉ぇを困らせたくもありませんし、よろしくお願いします」

「うふふふ……あ、そういば話しにあったユナって子なんだけど、今度私にも紹介してね?」

「ええ、もちろんですよ」


 ”姉弟”の微笑まし気な会話を、魔王であり父親であるダイアークは先行き不安な気持ちで見つめていたのであった。   

 


                    ―終わり―   

     

 


呼んでくれた方、ありがとうございました。

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