おじいちゃん、その娘がヒロインの一人です。
とうとう始まった、おじいちゃんによる恋愛シミュレーションゲーム!おじいちゃんには理解できないことがいっぱい!
果たしておじいちゃんは無事にゲームを進めることができるのか!?
私の運命は!?
おじいちゃんは慣れない手つきでコントローラーを握る。
「これがこんとろーらーってやつか。これで動かしていくんだな?じいちゃんはこれでも手先は器用なんだ!」
おじいちゃんが意気揚々とコントローラーを握る。手先の器用さは恋愛シミュレーションゲームには必要ないが、そこはあえて黙っておくことにした。
一通りの操作を説明し、実際にゲームを始める。
「まずはおじいちゃんの分身となる主人公の名前を決めて!」
私がおじいちゃんに名前を決めるように促す。おじいちゃんは少し考えて・・・
「よし、そしたら去年逃げ出した犬の名前にしてやろう。名前は五郎丸だ!」
おじいちゃんが主人公の名前を入力していく。
それにしても五郎丸は脱走していたのか・・・道理で姿を見ないわけだ。前におじいちゃんの家に遊びに来たのは小学生の頃だった。その時はまだ五郎丸も元気に庭を駆け回ってたな・・・目がくりくりとしたかわいらしい柴犬だったのに、名前が厳つくて全然合ってないなぁなんて思ってたっけ。
そのころにはもうゲームに明け暮れた子供だったから、おじいちゃんの家に行くのも退屈だなぁなんて感じていたのを思い出した。
そんな思い出に浸りながらおじいちゃんがプレイするゲームに目を向ける。
ちょうどゲームのプロローグが流れていた。
僕の名前は”五郎丸”!先月この池面市に越してきた高校1年生だ。
親の仕事の都合で新しい土地で暮らすことになった。
両親は海外貿易の仕事をしており、長期の海外出張がすでに決まっている。
新生活早々一人暮らしだ!
なんて、ありがちなプロローグが展開されている。
ふいにおじいちゃんが怒りのツッコミを入れる。
「五郎丸の両親は何をやっとるんだ!子供一人おいて海外出張?なにかあったらどうするんだ!けしからん親も居たもんだ!」
確かに・・・現実ならなかなかあり得ないシチュエーションなのかもしれない。
でもね!おじいちゃん!これはヒロインとのけしからんパートを展開するために必要なんだ!
と、心の中で返す。
「おじいちゃん、これゲームだから。今後の展開に必要不可欠なの。我慢して!」
興奮気味のおじいちゃんをなだめ、ゲームを進めるよう促した。
そのあとは王道のヒロインとの初対面だ!少し古臭い恋愛シミュレーションゲームのため、出会いもまた古臭い。パンを咥えたヒロインが曲がり角で主人公とぶつかる。そして2人は……というものだ。
ゲーム画面も2人の出会いに差し掛かった。
ヒロミ「あー遅刻遅刻!きゃあ!」
五郎丸「うわ!急に女の子が角から!」
主人公とヒロインの1人であるヒロミがぶつかった。
お互い文句を言いつつ、学校に遅刻してしまうので急いで向かう……といった流れだ。
そんな2人の出会いを見て、おじいちゃんが口を開く。
「なんでこの娘は食パンなんか咥えて走ってるんだ!行儀が悪い!それに人にぶつかっておいて詫びも無しとは!どういう教育を受けとるんだ!!」
おじいちゃんが大声で叫んだ。
確かに、いくらゲームとはいえ、何かを咥えながら走るのは危ない・・・
でもね!おじいちゃん!これは恋愛対象としてのフラグを立てるイベントなんだよ。王道のパターンなんだよ!
そうでもしないと主人公との会話が始まらないんだよ!
私は心の中で叫んだ。
おじいちゃんには伝わらなかった。
「時間に余裕がないならもっと早く起きたらいいだろう!朝ごはんは家で食べるんもんだ!!まったく!まさか、お前もこんなことしてないだろうな!」
おじいちゃんの怒りが私に向かってきた。
「し、してないよ!私は朝ごはんいつも食べてないから……」
「朝ごはんを食べてない!?育ち盛りなのにいかん!ちゃんと早起きして食べなさい!まったく……」
といった具合にゲームのなんて事ないイベントから私へのお怒りに繋がってしまった。
なんて事してくれたんだヒロミ……
そしてゲームは進んでいき、学校へ登校するパートへと場面転換した。
もちろん、先程出会ったヒロミと同じクラスメイトとして再会を果たすところだ。
先生「はいみなさん!今日は転校生を紹介します。小林君、入ってきて!」
主人公が通うことになる、私立池面高等学校の1年B組の担任で、後にとんでもない展開へと発展するキャラクターであるユリ先生が主人公を教室へ招き入れる。
五郎丸「初めまして!今日からこの学校に通うことになった小林五郎丸です!よろしくお願いします!
」
ヒロミ「あぁ!朝の!私のパンを台無しにした男子!」
五郎丸「あぁ!君は!今朝ぶつかってきた女の子!」
先生「あらぁ、2人とももう知り合いなのね。そしたら席は……ちょうどヒロミさんの隣が空いてるからそこに座ってちょうだい。」
なんて、王道の展開が進んでいく。
そんな展開を見て、おじいちゃんが口を開く。
「このヒロミって娘は、パンを台無しにしたのを五郎丸のせいにしてるぞ!なんて娘だ!まだ謝りもしないし!どういう事だ!」
と、また怒り心頭の様子だった。
しかし、頬を少し紅くしてボソッと⋯
「この、先生⋯ぺっぴんさんだの⋯」
おじいちゃん、先生が好みなのね。