首なし死体"A"
この事件の事は、今では誰も語りはしない。
この事件の情報を、一番はじめに持ってきたのは、事件記者の丸井だった。
「珍妙な事件ですよ…」
丸井の語るところによれば、赤色の、道化た服を着た、首なしの死体が発見されたらしいのだが、その死体に、まったく傷跡がなかったというのだ。"まったく"である。本来ならば、切断された首の傷痕がなければいけない部分は、葉っぱのように滑らかな肌であったというのだ。もちろん、血液が流れたような痕跡もない。
そして、更にその死体は、発見され、調べられた後のわずかな隙に、なんと消失してしまったというのである。
「まるで飛頭蛮だなぁ。ろくろ首」
探偵、新山人志はそう言って笑ったが、もちろんそんな事があるはずもなかった。
………。
それから、幾許かの時が流れた。
次の、その謎の首なし死体の情報源は、新聞の三面記事の一つだった。小さく、噂話として、赤色の服を着た首なしの人間が空を飛んでいたのを見た、という話が載っていたのだ。
もちろん、ただの都市伝説の類で、その信頼性は薄い。しかし、見逃せない共通点がある。
赤色の服……、
首なし……、
突然の消失と、空中浮遊……、
………。
そして、最後の情報が齎された。
この情報を持ち込んだのは、探偵の実弟、まだ小学生の昇君だった。
「僕、お腹を空かせて歩いていたのです。そうしたら、空の方から声が聞えてきて……」
それは、こう言ったのだという…。
"やぁ!お腹が空いているのかい? 僕の顔をお食べ!"
………。
…それ以来、誰もこの事件について触れようとはしなくなった。
交友関係は、愛と勇気だけのもようです。