24.公爵邸
案の定、ガルデニアが皇后陛下と御会いをした金曜日に フェルチェ公爵が自邸に帰ってきたのは、皆が寝静まり 家令のエルガーのみが出迎える時間になってからでした。
その為 週末の二日間、公爵は 領の仕事をそっちのけで ガルデニアにくっついて離れません。
「いいか、ニア。嫌なことは嫌!! と言っていいからな。
したくないことは、しなくていい。
『そんなことでは婚約を破棄するしかない。』と言われたら 大成功だ。
父様が もうなんでも 山程 好きなもの買ってあげるからな。」
「何を言っているんですか。
奥様がお止めしなければ、いつだって山程 要らないものを 買うではありませんか。」
冷めた目で、エルガーが横やりをいれます。
「今、小声で 別のことを言わなかったか? 」
「いいえ、何も申しておりませんが。
旦那様、もう耄碌されましたか!! 」
隙のない雰囲気のまま こたえます。
「それにだ。ルディだけじゃなくて、お前も止めるだろうが! お前は 止めるどころか、返品する!! 」
「人聞きの悪いことを おっしゃらないでください。フェルチェ公爵家ともあろうものが、返品など そのような品のないことをしてはいけません。
いつも ちゃんと最高級のものに替えているだけです。価格的にも 上乗せしているものですから、店側からも感謝されています。」
「ああー。とにかく 俺が言いたいのは、ガルデニアにいつでも婚約は破棄していい。と言いたいだけだ。
不敬だ。と言われるなら、いつだって宰相なんか辞めて、領地に引きこもればいいだけだ。
領地や爵位を没収するならしてみろ。ていうんだ。そんな帝国、さっさと捨てて他の国で暮らすだけだ。」
・・・
エルガーもマルニタも 何から突っ込んでいいのか思案中です。
ガルデニアは いつも以上に情けない父親の姿に、思考停止中です。
「いつの間に、私は ルティの下に 赤ちゃんを産んだかしら。駄々っ子ね。」
公爵夫人の登場です。
「良かったわぁ。ルティにお昼寝させて。
未来の公爵に、現公爵のこんな阿呆な姿見せられないわ。」
オルキディア=フェルチェ公爵夫人は、おもいっきり 溜息をついてみせます。
「領地に籠るのも、国外へ出るのも どーでも良いけど ・・・
『『奥様 どうでも良いんですか!! 』』エルガーたちが心でツッコミます。
破棄は駄目よ。
凄い人に略奪されるか、婚約者が死なない限り ニアちゃんの経歴に傷が付くでしょう。」
・・・
『『奥様。それ 言っちゃダメなヤツです。』』
「やっぱり 私は、第一皇子殿下と仲良くなってはダメだったの? 」
今まで黙っていたガルデニアが、言いました。
大人たちは 無言で公爵を見ています。
冷たい目で、見ています。
「違うんだ。ニア ごめん。
ニアを哀しませたいわけじゃないんだ。
父様が悪かった。さっきの言葉は 忘れてくれ!」
俯いている 小さな娘に謝っているため、外野から見れば 土下座しているようにしか見えません。
というか ・・・
土下座 してました。
ルナルコバリ帝国の最高職である宰相であり
筆頭公爵家であるフェルチェ公爵家の当主
社交界では、漆黒の貴公子と呼ばれ
帝国の貴重な宝石の二つ名を持つ
アルグーア=フェルチェ
やはり、公爵邸では 情けなさ過ぎます。




