20.狐と狸と人間と
ジェントーレ殿下が公爵邸を訪れた日から 三日が経ちました。
今日から、ガルデニアの御后教育が開始します。
といっても、今日は 公爵夫人と一緒に、今後の教育計画についてと 教師陣との挨拶になっています。
本当の御后教育は 明日からとなるでしょう。
三日前のことですが・・・
ジェントーレ殿下が 公爵家の馬車に乗って帰ってきた時、誰にも気付かれないように自室に戻らなければいけません。そして その間に、公爵家の従者が小芝居をする。
はずが!!
馬車停めの処に 何故かフェルチェ公爵本人が待っていました!!
これでは、小芝居が出来ません。殿下と騎士が気付かれずに降りることも出来ません。
呆れた従者が 公爵を追っ払ってくれました。
・・・
やはり フェルチェ公爵の扱いは、宰相と当主の立場で 雲泥の差があるようです。
「掌の上 ・・・ 」
ジェントーレ殿下が 微妙な顔でつぶやきましたが、護衛の騎士には聞こえませんでした。
無事 自室に戻り 着替えを済ませたジェントーレ殿下は、皇帝への謁見を申し出ました。すると 直ぐ許可が下り、しかも何故が回答は 『いいから、早く来い!! 』でした。
皇帝の私室へ向かいながら 予想はしていましたが、案の定、皇帝の私室には 我が物顔の公爵と 呆れ顔の皇帝が待っていました。
「お待たせして申し訳ありませんでした。」
これぞ第一皇子!! 息子としてでなく、皇子として皇帝へ挨拶します。
ですが、返ってきた言葉は 父親からでした。
「ああ、今はいい。まあ 座れ。」
と言って、公爵の真正面の場所を示します。
内心『えー やっぱりそこ? めんどくさいなー。』と思っているなど微塵も感じさせず
「失礼します。」
皇子スマイルで 腰掛けました。どこかで試合開始のゴングが鳴った気がします。
「あー・・・。公爵家はどうだった。ガルデニア嬢に会えたかな。」
皇帝は、幼馴染の顔色を見ながら 息子に問いかけます。
「はい。皆様に 大変良くしていただきました。あまりにも居心地が良くて、帰りたくなかったくらいです。」
「そうか。それで ・・・ 」
「本当に皆さん優秀で、城に引き抜きたいくらいです。」
「う うむ。そうか。」
息子がわざと引き延ばしているのが分かった皇帝は、もう諦めました。
・・・ ・・・
我慢しきれなくなった公爵が、口を開いたその時
「 「了承してくれました。」
殿下は言いながら、一瞬 ニヤリッとしたような?
「「 ・・・ は? 」」
「ガルデニア嬢が、私との婚約を了承してくれました。
御后教育も すすんで受けてくれると言ってくれました。」
「 ・・・ ウソだ! まだ3歳のニアが「アル 落ち着け! 」
立ち上がりかけた公爵を、皇帝が止めます。
「ジェントーレ。大丈夫なのか。
お前は 5歳なんて間違いだろう!? と思う5歳だが、ガルデニア嬢は 正真正銘3歳だ。
本当に 彼女が了承してくれたとしても、真に理解しているとは思えない。ましてや、前回のようなことは 二度と許さないぞ。」
皇帝は前回の茶会での騙し討ちを、いまだに根にもっているようです。
ジェントーレ殿下は、悠然と微笑みながらこたえました。
「父上、その言葉こそ ガルデニア嬢 ひいてはフェルチェ公爵家に対する侮辱ですよ。
そもそも、そんなことを言い出すのでしたら 今日の訪問自体 意味を成さないじゃないですか。
大丈夫です。彼女はちゃんと理解した上で、了承してくれました。
ガルデニア嬢は 見目麗しいだけでなく、慈悲深く賢い令嬢です。
私の方が恥ずかしくなるくらいでした。」
『まさか、そんなはず・・・』と、どちらかが呟きましたが 小さすぎて分かりませんでした。
「どうしても お疑いになるようでしたら、フェルチェ公爵家の家令に訊いてみてください。侍女の方や護衛もいましたが、彼が一番適任でしょうから。」
そう言って、優雅にお茶をする5歳児の殿下でした。
公爵は、挨拶もせずに退室していきました。
「あまり アレをいじめるな。妻子を溺愛しているだけで、それ以外は 国になくてはならない男だ。」
「もちろん、十分解っているつもりです。」
真面目な顔で殿下は頷きました。心の中で『ただ公爵邸ではな・・・』と思っていましたが。
その後、公爵邸への確認と皇后陛下への報告。
そして、教師陣の選定に教育方針の確定。
超特急で進められ、たった3曰で すべてが整っていたのでした。
ただし、まだまだ幼い二人ゆえ 正式な婚約は時期を見て。ということになりました。
そのため 秘密裏に行動するようなことはありませんが、敢えて 公式発表もしませんでした。
「フェルチェこうしゃくのだいいっし、ガルデニア=フェルチェともうします。これから よろしくおねがいいたします。」
いよいよ 御后教育が始まります。