19.こんやく
ガルデニアが ぽや? としていた間に 言い切ったジェントーレ殿下は、テーブルの上に置いていた ガルデニアの手を両手で包んで持ち上げます。
手越しに魅せる わざと体勢を低くしての上目遣い、あざといです。意識してやっていたら、あざと過ぎます。
でも、3歳児には通用しません。
「わたし、おしろにすむの? 」
「そこ? まあ いいか。
城に住むのは嫌? 」
「ここがいい。だいすきなみんなが いるもん。」
お嬢様!! 空気たちの目に 涙が浮かびます。
「大丈夫だよ。公爵邸と城は『お隣さん』だから。ウチより公爵邸に近い家は無いよ。」
まぁ、ある意味事実だが・・・
御城をお隣って。御城を家(ウチ)って。と、心でツッコミます。
「城に住むのは まだまだ先だよ。僕たち二人ともが 大人になって、結婚してからしか一緒に暮らせないからね。
だから、今は先ず 婚約。」
「う~ん。『こんやく』して どうするの? 」
「いっぱい会って もっともっと仲良くなっていこう。」
「もっともっと?」
「そう。デーに 僕のこと、もっと好きになってもらいたいんだ。」
「ぅ ん ・・・ 」
ガルデニアには ピンとこなくて、せっかくの可愛らしい顔から笑顔が消えてます。小さなお口が 少し尖っています。
「うーん。じゃあ 今までと違う分かりやすいことだと、御后教育かなー。」
「おきさき きょういく? 」
「うん。デーに 城に来て、勉強してほしいんだ。」
「おべんきょう?」
「そう。まだ3歳のデーには大変だろうけど、僕は皇子だから。成人してからは 皇子である僕と一緒に公務を行うから、色々と勉強して 覚えてもらわなければならないことが沢山あるんだ。」
「ぅ~ん・・・ 」
「勉強の中には、淑女教育もあるんだ。」
「しゅ くじょ きょういく? 」
「デーのお母様みたいに、素敵なレディになる勉強だよ。」
「かあさまみたいに! 」
やっとガルデニアに笑顔が戻ります。
殿下の顔も、ホッとします。
「そうだよ。公爵夫人みたいに、美しい所作で社交界にデビューするんだ。
そして、それまでに 二人でいっぱい練習して 公爵夫妻のようにダンスを踊りたいな。」
「ダンス!! 」
ガルデニアの目は、キラキラ輝いています。
「そう、ダンス。デーはダンス好き? 」
「まだダンスしたことないの。
でも、かあさまと とうさまがおどるのをみたことがあるの。とってもきれいだった。」
想いだしているのか、目を閉じていますが 幸せそうです。
「そうか、それ「だから おべんきょうする! 」
「・・・ え? 」
「おべんきょうして、かあさまみたいになる。」
「待ってデー。お勉強は ダンスだけじゃないんだ。どちらかというと、頭を使って覚えることの方が ほとんどだよ。」
勧誘しようとしていたはずの殿下の方が、慌てます。
そうですね。このままじゃ、今回は そんなつもりはなかったのに 『また、騙し討ちか!!』 と怒られそうです。
「先生達は、できるだけ解りやすく教えてくれると思うけど それでも難しい勉強はいっぱいあると思うんだ。いくつもの国の言葉も覚えなければならない。
それを これから何年もしてもらわなければいけないんだ。」
3歳の女の子に強いようとしている自分自身に、殿下の後悔がうかがえます。
ところが
「ほかのくに!! すごい!! わたし おおきくなったらおべんきょうさせて。て、かあさまにおねがいしてたの。
それに、こうしゃくけのむすめなら いっぱいおべんきょうしなければいけないんだよ。だから もうはじめられるのうれしい。
フィー ありがとう! 」
ガルデニアが 大喜びして、興奮したまま ジェントーレ殿下に抱きつきます。
抱きつかれて ビックリした殿下でしたが
「喜んでくれるなんて。僕の方こそ ありがとう。」
殿下は、ガルデニアの髪に顔を埋めながら 抱きしめます。
エルガーたちに殿下の表情は見えませんが、泣いているようにみえました。聡明過ぎる殿下には、まだ気付かなくてよいことまで 考えが及んでしまうのでしょうか。
一国民でしかない自分たちでは 不敬になりそうですが、大人として どうしても申し訳なく思ってしまいます。
「じゃあ デー。
僕と婚約して、もっと僕のこと好きになってくれる? 」
抱きしめていた力をゆるめて、少しだけ離れて 殿下は 上を向いたガルデニアの目をしっかり見つめて伝えました。
殿下の琥珀色の目は、いつものキラキラした輝きはなく 不安そうです。
その視線をしっかり受けたまま、深い翠色をした目の奥に光を魅せながら ガルデニアはこたえました。
「うん。こんやくする。
だって、このまえのおちゃかいよりも、きょうあったばかりのときよりも、いまのほうが もっとフィーのことすき。
だから、あうたびに もっともっとフィーのことをすきになるもん。」
殿下は、固まってしまいました。
空気たちは『『お嬢様、小悪魔。』』と思いました。
復活した殿下が、マルニタが入れてくれた紅茶を飲んで 落ち着いたころ ガルデニアが 思いだしたように言いました。
「そういえば! ねぇ フィー。
レディになれば、かあさまみたいに わたしもフィーのことを 『てのひら のうえ でこ ろがす』? になれるんだよね? 」
デー。
いったい誰に、何を教わってるの?
申し訳ございません。
週末は、またお休みさせていただきます。
皆様、台風など くれぐれもお気をつけください。