14.ゆうしょくはたのしく
ワナワナと震えて、フェルチェ公爵は立っていました。
「旦那様。」
ツカツカとエルガーは歩き 主人が座る椅子の横に立ち 無表情で待っています。
確かに 公爵が座ってくれないと、扉のところで見えないように立って待機している侍女が 給仕出来ません。
「旦那様。」
もう一度言われた瞬間に、フェルチェ公爵は急いで 椅子に座りました。威厳に満ちた態度に見えるようにしていますが、急いだので チョコチョコっとした感じが見えてしまいました。たぶん 自室で着替えている時に、たーっぷりエルガーに説教されたのでしょう。
さて、公爵も着席したので 給仕も終わり、食事の続きをすることになりました。
「とうさま いっぱいたべてくださいね。」
ガルデニアが、天使の笑顔で 話しかけます。
実は、公爵も話しかけようとしていたですが 格好をつけていたため、ガルデニアのほうが一瞬早く 話しかけたのでした。
「ん? ああ、そうだね いただこう。ところでガルデニア、先ほ「アル様、ニアちゃんが心配してしまいますわ。先ずは お食事をなさってください。」
「ん? 心配? 何故? 」
公爵は、何を心配されているのか分かりません。なので かなり情けない顔で悩むのでした。
アルグーア=フェルチェ公爵は、幼き頃より「漆黒の貴公子」と呼ばれ 社交界では 知らぬものはおりません。二人の子どもがおり、家族をとても大事にしていることも 大変有名ですが、今昔のご令嬢からの人気は絶大でございます。
少し長めの艶のある黒髪を一つにくくり 濃い茶色の目は鋭く理知的で、学生時代は 常に成績トップで テストでも一位で在り続け、同級生だった当時の皇太子にさえ譲らなかったのです。
貫禄のついてきた皇帝と違い、いつまでも若々しく、そして いついかなる時も冷静に対応する頭脳を持ち、これぞ宰相 これぞ筆頭公爵家当主。皇帝とは また違う魅力をもった、帝国の貴重な宝石なのです。
・・・ですが
自邸での扱いは違います。
主人としてたてられているようにみせて 実は 奥様のオルキディアの掌の上で転がされ、代々フェルチェ公爵に仕えている家系で 子どもの頃より世話になっている家令のエルガーには 頭が上がらず、子どもたちを溺愛する 優しくてちょっぴり情けないお父様なのでした。
オルキディアの最近の社交界の動向を聞きながら、妻と娘にすすめられるまま、食事をしてしまっていた公爵は 『はっ!! 』と思い出しました。
「違うよ ニア!! 父様との 『お友達だけ約束』を どうしてやぶったの!! 」
チッ!
ん? 今 舌打ちが聞こえたような?
と思って、公爵は首をぐるんと回してみますが とても舌打ちをするような人間はおりません。
当たり前です。食堂にいるのは、公爵の他に 社交界に舞い降りた妖精とうたわれているオルキディア そして天使のようなガルデニア あとは、マナーに一切の妥協も許さないエルガーとマルニタの二人です。
舌打ちは、小鳥の囀ずりが聞こえてきたのでしょう ・・・ 夜で、雨も降ってますが。
「ねぇ、ニア。なんで お友達以外をつくったの? 」
「とうさま どうしたのですか? ちょっと おかおこわいです。」
悲しそうにガルデニアは言いました。
「あ! おなかすいてるんですね。やっぱり たりないですか。わたしのをあげます。」
今度はニコニコして、慌ててお皿ごと 父親にあげようとします。
そんなガルデニアに ほっこりして、表情は柔らかくなりましたが
「そうじゃなくて、今日の御茶会で お友達しかつくらないで。て 父様お願いしたでしょ? 」
「はい。だから わたし がんばって100にんつくろうとおもったら、かあさまから20にんくらいしかいない。ていわれて。なので おともだち20にん つくろうとしたら・・・
けっきょく ひとりしかつくれませんでした。せっかく とうさまがおうえんしてくれたのに、ごめんなさい。」
しゅん と、ガルデニアは落ち込んでしまいました。
「あぁぁぁ、ニア 哀しまないで! 大丈夫!! ニアなら これからいくらでも、友達はできるから。」
結局 肝心なことは聴けず、オロオロとする公爵でした。