13.宰相閣下の忙しない一日 2
「我は フェルチェ公爵が当主 アルグーア=フェルチェだ! 邪魔をすると跳ねるぞ! 」
城門前の騎士に対して 大きな叫び声が聞こえてきました。
騎士たちは 何事だ!? と思いながらも、騎乗の公爵(らしき人)を確認し、急いで左右に別れました。
城を守る騎士として それでいいのか?と疑問に思いますが、それをも凌駕するほど 鬼気迫るものがあったのです。
宰相のあの行動。絶対に国の一大事。もし 止めてしまっては、帝国の平和を脅かすことに違いない。
と、騎士たちは即決したのでした。
筆頭公爵家の当主であり、帝国の宰相という立場でありながら、霧雨が降る中 アルグーア=フェルチェ公爵は 単騎で城門を駆け抜けていきました。
「くっそぉぉぉーー!! ムーロの野郎ぉぉーーー!! ・・・ ・・・
そんな事を ぶつぶつ言いながら、走り去っていったとも知られずに。
今日は 絶好の御茶会日和だったのに、何故か今は どんよりとした厚い雲と 嫌な霧雨が降っていました。何方かの心情が反映したのでしょうか。
霧雨。それは、幸福な時は 気持ちいいのですが、心が疲れている時は 大したことないと思ってたのに 気付いたらかなり濡れて いやーな気持ちになるものです。
実は、急に天気が変わったわけではありませんでした。
茶会が終了した直後だ。と ムーロから話を聞いた時 執務室を飛び出していったフェルチェ公爵ですが、その後数時間 執務室に監禁状態でした。
自邸に帰ろうとすることを見越していた 宰相補佐のムーロは、先ず 『公爵家の先触れと馬車の従者に 連絡しないように!』 と、宮殿の門番に伝えてあったのでした。
ですので、ムーロは 宮殿の入り口で待っている宰相を捕まえて また 執務室へと引きずっていけたのでした。
「この書類を今日中に進めていただかないと、業務が滞ってしまいます。」
有無を言わせぬ勢いで 執務机の椅子に座らされたフェルチェ公爵の前に、ドサッ ドサッと 二つ 書類の山を置かれ 睨まれました。
「ムーロ! 私は急いで帰らないと「仕事をしてください!!」
「そんなことよりも 俺は い「終わるまでは、何があろうと 帰しませんよ。」
結局、にらめっこで迫力負けした宰相は 驚異的なスピードで 書類を処理していくのでした。
- 約三時間後 -
「これで文句ないだろぉーーーーーー
と、本日 何度目か分からない 見えなくなる現象を起こして フェルチェ公爵は帰っていきました。
≪≪いつもそんな風に死ぬ気で働けば、毎日早く帰れるものを≫≫
と、過労死を奨めるようなことを思いながら 確信犯のムーロは 久々に早く帰れる今日という日を満喫するべく 颯爽と 処理した書類を片付けにいくのでした。
自邸の門前で、また 公爵は
「開けろ!! 私だ!! 」
と怒鳴りました。
「だ、旦那様!!」
びっくりした門番は、慌てて開門します。
「なんで、旦那様は お一人で馬に乗って帰られたんだ? 」
「!! 何者かに襲われた ということか!!
直ぐに召集だ! 」
バァーン!!
「だ、旦那様!! どうなさったんですか。」
エントランスにいた執事見習いのオネストは慌てました。当主がびしょ濡れで いきなり現れたのです。
「表に馬がいる。」
公爵はそれだけ言いながら 食堂に向かって走っていきました。
「う 馬? あ!! 旦那様どちらへ!! 先ずは お召し替えを・・・」
「ガルデニアーーー!! 」
バン!!
「旦那様!!」
「とうさま?」
「アル様。」
三者三様の対応です。
「だ、旦那さ ヒッ!! 」
追いかけてきた執事見習いは、家令であるエルガーの冷気に何も言えなくなりました。
エルガーは、かなりお怒りモードです。
「先触れも出さずにお帰りになるとは どうなさったのですか。
公爵家当主でいらっしゃる旦那様が、よもや馬車に乗らずに帰られた。なんてことはないですよねぇ?
しかも、雨の中 供も付けずに単騎で走って帰ってくるなど ありえませんよねぇ?
もしも、そのようなご様子でお帰りになったなら よほどの大事でないと。
まさか、まさかですよねぇ? 」
うぐぐぐ。と、フェルチェ公爵は蛇に睨まれた蛙のようになっています。
「オネスト。騎士たちに有事ではない。と伝えなさい。」
「旦那様、先ずはお召し替えを。」
「 」
何かを言おうとした公爵ですが、結局 おとなしくエルガーと自室に向かうのでした。
二話かかってすみません。
次から、本編に戻ります。