10.ゆうしょく
お茶会からの帰り道、馬車に乗った途端 ガルデニアは眠ってしまいました。
初めての登城に、初めてのお友達づくり、そして・・・ とにかく初めて尽くしで 疲れてしまったようです。
公爵邸に着いても、家令のエルガーに抱っこされて自室のベッドに寝かされても、侍女のマルニタたちに着替えさせられている時も、気付かぬまま眠っていました。
エルガーやマルニタたちの 気遣いスキルが凄いからなのか、あまりにも疲れすぎたからなのか、はたまた ガルデニアの神経が図太いから寝続けているのか、どれかなのでしょう。
数時間眠っていたガルデニアは、マルニタに軽く起こされ 話しかけられました。
「お嬢様、お起きになりますか?
夕食のご用意が整いましたが、まだお疲れのようなら 後で 軽いものをご用意しますので もう少しお休みください。」
まだ少し寝ぼけながらも ガルデニアは起き上がりました。
「ありがとう。でも、ひとりより かあさまといっしょにたべたいから もうおきます。おきがえ てつだってくれる?」
「かしこまりました。では、楽なワンピースにしましょうね。」
と ガルデニアとマルニタが話している間に、別の侍女が 既にワンピースを用意して立っていました。さすがは公爵家に仕える侍女たちです。
着替えを手伝うといっても、貴族令嬢ですので 本来は 全て侍女に着替えさせてもらうのが当たり前のことです。
ですが、代々筆頭公爵家であるフェルチェ家は 『自らのことが出来ずに、何故 他者のことを慮れるか』という初祖の言葉を教えとしているので、一人でも 色々なことが出来るように教育されます。他家から嫁いでくる場合も同様で、婚約以降は 少しづつ教育され その教えに倣うのでした。
ただ、女性の装いは 独りでは無理ですし、ましてや 3歳のガルデニアには まだまだ ほとんどをお手伝いしてもらうことになります。それでも、フェルチェ公爵家の娘として 日々精進していくことでしょう。
軽いワンピースに着替えたガルデニアは、マルニタに連れられて 食堂に向かいました。食堂の扉のところには、笑顔でエルガーが立っていました。
「お嬢様、お疲れは大丈夫ですか。おつらくなったら 直ぐにおっしゃってくださいね。」
「ありがとうエルガー。かえったときも おへやまでつれていってくれたのでしょう。ありがとうございました。」
恭しく 小さな淑女として 椅子に座らせてくれているエルガーにむかって、ガルデニアがお礼を伝えます。
「お嬢様にふれさせていただける名誉をいただけて、エルガーは 大変 うれしゅうございました。」
そう言って 腰を折った後、公爵夫人の横に立ちました。
楽しい夕食の始まりです。
といっても、宰相である公爵は ほぼ この時間に帰ることはできないので いつも夫人とガルデニアの二人で食事をします。
実は ガルデニアの下に、弟にあたる公爵家嫡男がいるのですが まだ2歳の為 食事は一緒の時間にはとれません。なので この時間が、二人で楽しくおしゃべりしながらの食事になります。
宰相である公爵同様 公爵夫人としてのお努めが多々あります。その中でも 社交が大半を占めているため、日中もあまり一緒にはいられず 夕食も子どもたちとは別々ということも珍しくないのです。
ですから、マナーとしては外れているかもしれませんが フェルチェ公爵家では 食事の時は 楽しく話しをしながら 家族の仲を深める時間としているのでした。
食事も 公爵家にしては豪勢ではなく、量も食べきれる量にしていて ある程度はまとめて出してもらい 給仕の手を必要としないようにしています。家令のエルガーと、侍女のマルニタだけを残し あとは下がって それぞれ交代で食事をとったりしてもらいます。そうすることで、時間を気にせず 気兼ねなく ゆっくりと会話を楽しみながら食事をするのでした。
もちろん 今日のおしゃべりの内容は、お茶会の話になります。
母親である公爵夫人は、皇帝陛下に宣言した前後は 遠目にしか見ていないので いっぱいお話を聞きださなければいけません。とっても楽しそうにです。
「ねぇ、ニアちゃん。どうやって 皇子殿下とお話しするようになったの?」
まずは、鮮やかな彩りの野菜をメインにした前菜にナイフを入れながら 質問します。
「えーっと。はじめは、おんなのこにはなしかけたけど きこえてないようで へんじをしてくれなくて。「「は?」」
「エルガー。マルニタも。」
公爵夫人の言葉に、二人はグッと堪えます。
「そうしたら、そのおかあさまがかわりにおふたりぶんのあいさつをしてくれたのですが きゅうに そのおんなのこは、わたしにぶつかりながらも まっすぐにはしっていって びっくりしました。」
「「お嬢様にぶつかった!!」」
エルガーとマルニタの声が重なります。
「はい。でも あんないをしてくれたきしのかたがささえてくれたので、ドレスはよごれませんでしたから だいじょうぶでした。」
「お嬢様。全然 大丈夫じゃないですよ。そのクソガキの名前は憶えてますか?」
エルガーが、ガルデニアに ニッコリします。
「はい。えっと シ「エルガー、良いから。」
公爵夫人が ガルデニアの言葉を遮ります。
エルガーは、不服そうな顔のまま 腰を折りました。
「それで、ニアちゃん。その後、どうしたの?」
「そのあと、また おかあさまといるおんなのこをみつけて はな・・・
「・・・デ ニ ア ーーーーーー 」
遠くから近寄ってくる叫び声が聞こえ始めました。
と思っていると、
バン!!
ガルデニアの父親である公爵の アルグーア=フェルチェが凄い形相で 自ら扉を開けて飛び込んできました。