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第四話 悪魔の契約

 ……は? 私は思わず固まった。

 この子、今、何て言った? この島にいる人間を、全員殺す?


「これね、卒業試験なの」


 女の子が言う。どこまでも朗らかな声で。


「私の学校ではね、卒業する為には今日から三日以内に十人以上を殺さなきゃならないんだ。だからここに来たの。ここには今、一杯人がいるんでしょ? 私知ってるよ」


 何なの、これは。悪い冗談? そんな無茶苦茶な学校があるなんて話、聞いた事がない。


「あ、あの、それ……本気で言ってる?」


 恐る恐る、私は聞いてみた。どうか「冗談だよ」と笑って欲しい。けれど。


「? 本気だよ、どうして?」


 逆に女の子はそう聞いて、不思議そうに首を傾げるだけだった。その様子は、とても演技をしているようには見えない。

 ……やばい。言ってる事が現実か妄想かはともかく、この子間違いなく頭おかしい。

 だって普通本気で言える? 学校を卒業する為に人を沢山殺すだなんて。

 助けて貰ったのはありがたいけど、これ以上は関わり合いにならない方がいいかもしれない。何か理由を付けて、さっさと別れよう。それがいい。


「そうだ! えっと、あなた、名前は?」

「えっ……黒井……陽子……」

「陽子ちゃんだね! 陽子ちゃんにいいもの見せてあげる!」


 反射的につい名前を答えてしまった私の目の前で、女の子が再びリュックサックを探り始める。そして、星明かりに鈍く光る何か・・を取り出した。


「ひっ!」


 それ・・が何かを認識して、私は反射的に後ずさる。女の子が取り出したのは、刃渡り五十センチ程はある大きな鉈だった。


「これね、今日の為にわざわざ特注したの! よく切れそうでしょ?」


 女の子が嬉しそうに、鉈の背の部分に頬擦りする。その様子は、可愛いぬいぐるみでも自慢しているかのよう。

 やばい。やばいやばいやばいやばいやばい。

 こんな物まで持ってるなんて、口だけじゃなく実際に殺す気満々じゃない。駄目だ。下手に逃げようものなら後ろから襲われる!

 私、死ぬの? ここで? こんな頭のおかしい奴に殺されるの?


「陽子ちゃん? どうしたの?」


 パニックになりかける私に、心配そうに近付く女の子。嫌だ。私はまだ死にたくない――。


 ――そう思った時、突然、悪魔の閃きが降りた。


「……ねえ、卒業試験って、十人以上を殺せばいいの?」


 私の問いかけに、女の子は一端動きを止めた。そして大きく頷き、肯定を返す。


「うん! あ、でも殺した人数が十人より多ければ多いほど優秀な成績って事になるから、なるべく逃がさないよう頑張らないと!」


 それが解れば十分だ。私は思わずほくそ笑んだ。

 十人以上を殺せれば、後は必ずしも皆殺しにしなくてもいい。この子が満足出来る人数を、殺させさえすればいい。

 そう、あいつら。この一年間、私をいじめ抜いてきたあいつら。

 今度は私が、あいつらを生贄にすればいい。私を抜かした、三年B組計二十四人。この子の餌食になるには、申し分ない人数の筈だ。

 これは復讐だ。輝かしい青春の一ページをどす黒く塗り潰した、あいつらへの復讐。

 あいつらを全員この子に殺させ――そして私一人が生き残ってみせる!


「……なら、私も手伝ってあげる」

「え?」


 女の子が、驚いたような声を上げる。そこに畳みかけるように、私は言った。


「この島にいる奴らの事ならよく知ってる。私があなたの殺しやすいように手を貸せば、きっと効率良く全員殺せると思う」


 さっきとは逆に、大きく身を乗り出してみせる。今だけでもこの子の味方になっておけば、きっと私を殺そうとはしなくなる筈……!


「……でも……」

「?」


 突然の私の申し出に、流石の女の子も困惑しているようだった。女の子は少し困ったように、私の目を見て言った。


「いいの? 皆お友達なんじゃないの?」

「……お友達……?」


 その言葉に、沸々と怒りが沸き上がってくる。友達? あいつらが……友達?


「……友達なわきゃねーだろ! あんな奴ら!」


 衝動のままに、足元の砂を思い切り叩く。途端に傷が痛んだけど、それを上回る怒りが私の全身を支配していた。


「何がクラスを纏める為だ! あのクソ女共! 私が! 私が!! どんな思いで一年間過ごしてきたか解るかよっ!!」


 何度も何度も、拳を砂に叩き付ける。今まで押さえ付けてきたものが、一気に噴き出す感じがした。


「私はクラスの一員じゃないとでも言うのかよっ!! 皆して人を馬鹿にしやがって!! あんな奴ら、あんな奴ら……!!」

「――それ以上は駄目、陽子ちゃん」


 不意に、降り下ろした手が誰かに掴まれた。前を見ると、いつの間にか女の子が目と鼻の先にいた。


「傷がまた増えちゃうよ。だからもう叩いちゃ駄目」

「……あんた」

「よく解ったよ、陽子ちゃん。何があったかは解らないけど、陽子ちゃんがずっと辛い目に遭ってきたのはよく解った」


 女の子が――白石さんが私の手を両手で包むように握る。そして暗がりでも解る、真剣な表情で言った。


「一緒に殺そう、陽子ちゃん。陽子ちゃんを苦しめてきた人達、皆殺そ?」


 それは、私達の間に契約が結ばれた瞬間だった。

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