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エピローグ

 海の上を、一(そう)の小型船が走っていく。それを運転するのは、初老に差し掛かった年齢の船頭だった。


「あの嬢ちゃん達は、三日間楽しく過ごしたかねえ……」


 船頭の脳裏に、つい二日前に今から行く島へと送っていったばかりの少女達の姿が浮かぶ。卒業旅行だという彼女達は皆和気藹々として、仲が良さそうだった。

 大人がいないからと羽目を外し、危ない事をしていなければいいが。それだけが船頭は心配だった。


 やがて目の前に、目的の島が見えてくる。こんな辺鄙へんぴな場所に別荘を立てるなんて金持ちのやる事は解らんなと、船頭は一人溜息を吐いた。

 この島の桟橋は、別荘に一番近い海岸線にある一つのみとなっている。それ以外の場所にも泊められない訳ではないが、そうする理由もなかった。

 島が近付くにつれ、桟橋の様子が露になる。だがそこに見えたものに、船頭は首を傾げた。


「ありゃあ……? 何で一人しかいないんだ?」


 行きは二十人を超えていた少女達。しかし今桟橋にいるのは、たった一人だけだった。

 他の少女達は、まだ別荘にいるのだろうか? そして何故一人だけが、ここにいるのだろうか?

 疑問に思いながらも、船頭は小型船を桟橋に向ける。桟橋にいる少女は、どうやらペタリとその場に座り込んでいるようだった。

 もしかして、どこか具合でも悪いのだろうか? そう思った船頭は、船のスピードを上げた。

 そして、少女の様子がハッキリと解る位置に差し掛かった時――船頭は思わず絶叫していた。


「う……うわああああああああっ!?」


 腰を抜かし、反射的に後ずさる船頭。彼がそんな反応になったのも、無理からぬ事だった。

 桟橋にあった少女の姿は――それほどまでに、悼ましかった。


 まず、少女は裸だった。一糸纏わぬ状態で、桟橋に放置されていた。

 その胸から腹までの肉は綺麗にくり貫かれ、中の内臓が丸見えになっていた。それら内臓は、まるで一回取り出して洗ったかのように血の痕もなく綺麗だった。

 そして――少女の右半身には、皮膚が一切なかった。剥き出しになった肉や筋繊維は、少女の姿を殊更不気味に見せていた。


 例えるならば、そう、それは――まるで人体標本のようだった。


「あわわ……な、何で、何であんなものが」


 船頭は暫くの間、恐怖のあまり立ち上がる事が出来なかった。



 ――もう二度と動く事のない少女の死体がどこか誇らしげに嗤っていた事に、気付く者は誰もいなかった。






fin

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