第十四話 仲間はずれ
「! まどか、一旦止まって」
どのくらい道なき道を歩き続けただろう。前方に現れたものと微かに聞こえた声に、私は隣のまどかを手で制した。
それは、大きな沢だった。常緑樹に囲まれた小川と広い川岸は、キャンプでもするのにピッタリだったんじゃないだろうか。
その向こう岸。静かに流れる小川を越えた先。
「……見つけた」
そこに、クラスメイト達はいた。川岸に広く散らばりながら、大声で青柳を探し回っている。
ひとまず木陰に隠れ、クラスメイト達の様子を窺う。向こうは多少の警戒をしている様子は見せたけど、こちらには全く気付いていないようだった。
「どうしようか、陽子ちゃん? 私、陽子ちゃんの言う通りにするよ!」
隣で目を輝かせながら、まどかがそう聞いてくる。……昨日と違って、向こうも恐らく誰か一人だけを取り残すような愚は犯さないだろう。
なら……。
「まどか、飛び道具って持ってる?」
「あるよ! ちょっと待ってて!」
駄目元で聞いてみたけど、どうやら本当にあるらしい。まどかは大きく頷くと、リュックの中を探り始めた。
「はい、これ!」
まどかが取り出したのは、小型のボウガンだった。本当に、殺しに必要なものは一通り揃えてきたようだ。
「これ、どのぐらいの精度で射てる?」
「うーん、急所狙いとかは難しいけど、この距離なら体のどこかには当たると思うよ?」
それだけの腕があるなら十分だ。私はまどかに指示を出した。
「じゃあ体のどこでもいい。とにかくあいつらのうちの誰か一人に矢を当てて」
「どこでもいいの?」
「うん。当たりさえすればそれでいい」
「解った!」
私の指示に大きく頷き返し、まどかがボウガンに矢をセットする。そして慣れた手付きでボウガンを構えると、川岸のクラスメイト達に向けて発射した。
――どすっ。
そんな、分厚いものに何かが突き刺さったような音が聞こえた気がした。まどかの放った矢は、見事クラスメイトの一人の背中を貫いていた。
「キッ……キャアアアアアアアアアッ!!」
「やったあ! 命中!」
突然背中から矢を生やして倒れていく友人の姿に、残りのクラスメイト達が一斉に悲鳴を上げる。それを見てガッツポーズを取るまどかに、私は更に指示を出した。
「まだまだ。あと二人ぐらい射って動きを止めて」
「うん!」
まどかの降らす矢の雨が、次々と川岸にいるクラスメイト達を射抜いていく。そうして立っているのが黄原を含めて二人ぐらいになったところで、私はまどかを止めた。
「そこまで。残りの矢は一応まだ取っといて」
「全員射たなくていいの?」
「弱っている奴らをただ殺していったって、面白くないでしょ?」
「そっか、そうだね! 流石陽子ちゃん!」
私の言葉に納得したように、まどかがボウガンをリュックにしまい直す。それを横目で確認し、私は改めて川岸を観察した。
「皆! 皆しっかりして!」
黄原ともう一人は倒れたクラスメイト達の方に駆け寄り、上半身を抱き起こしながら必死に声をかけている。怪我人を置いて自分だけ逃げるとか、そういった様子はなさそうだ。
――やっぱり。思い通りの展開になったというのに、私の心は重かった。
クラスメイト達は、私以外に対しては強い愛情や連帯感を発揮する。生きているのか死んでいるのか解らない青柳を、危険を承知でここまで探しに来たのがいい例だ。
だから数人を動けなくしてやれば、もうこの場から逃げる事はないと踏んだ。そしてその目論見は、こうして当たった。
でも――私は心のどこかで期待していた。クラスメイト達が、仲間を見捨てて逃げる姿を。
思いたかった。あいつらが一年かけて築いた友情なんてその程度なのだと。
どこまでいっても自分はこの完璧なクラスの異物なのだと――認めたくなかった。
「……まどか、武器貸して。私でも持てるサイズの奴」
胸に沈む重みを吐き出すように、私はまどかに言った。まどかは何かを察したのか、無言で大振りのサバイバルナイフをリュックから取り出す。
それを受け取り、強く握り締める。それなら……この衝動の命じるままに、とことんまで異物として生きてやろうじゃないか。
「……行くよ」
私のその言葉と同時に。私達二人は、木陰から素早く飛び出した。




