6話『ぎりぎりの逃亡』
俺の魔法ではやはりダメージなど与えられない。けれど、詠唱なんてしてる暇は今ここにはない。威力を底上げするには無理矢理にでも魔力を込めるほかないだろう。
「ル、ルイズの名をもって詠唱する。彼の者の傷を癒せ【ファストヒール】」
「これは……」
ルイズの恐怖が少しだけ薄れたのか、ルイズは俺に回復魔法を掛けてくれた。これで少しは痛みが消える。魔力を扱うのもまだなんとかなるだろう。
「ルイズ! まだ魔力はあるか! あるなら俺に強化魔法を頼む!」
【ファイヤーボール】は確かにモンスターにダメージを与える事は出来ない。けれど、小さいとはいえ爆発はする。そして、今はここは森の中だ。俺とルイズにも危険が生じるが、賭けに出るしかないだろう。
「も、もちろんよ、けど、これが最後ね。ルイズの名をもって詠唱する。彼の者の力を向上せよ【ファストアップ】」
「よし、これなら!」
ルイズの強化魔法は持続時間が短い。だが、その短い時間でも強化魔法は魔法の威力も向上してくれる。俺の魔力がどれくらい持つか分からないが、試すしかない。
「いくぞ! 【ファイヤーボール!】【ファイヤーボール!】【ファイヤーボール!】【ファイヤーボール!】【ファイヤーボール!!!】」
連続で火魔法を放ち、マンティス・ベビーではなく、周りの木々を狙う。マンティス・ベビーは連続の火魔法が自分に来ると勘違いしたのか、少しだけ距離を取り、防御の姿勢を取ってくれていた。
「助かった。あとは逃げるだけだ! 行くぞ!」
「で、でも私まだ立て、」
マンティス・ベビーと俺たちを遮るかのように、木々は燃え始め、炎による盾を作り出してくれた。これでも追ってきたら死ぬしかないが、モンスターも自らダメージを負ってまでは追ってこないようだった。
「仕方ねえな!! しっかり掴まっとけよ!」
「えっ? あ、あなた、本当に私と同じ歳なの!?」
「うるせえ! 良いから黙っとけ!」
念の為残しておいた魔力で【身体強化】を使い、ルイズをお姫様抱っこして走り出す。
今回の戦闘のせいで色々疑われたかもしれないが、命を危険に晒すよりはマシだろう。それに、ルイズには後で口止めをしておけば問題もないはずだ。
「おい!森が燃えてるぞ! 早く誰か消しに行け!」
「魔法が使える奴ら!行くぞ!!」
「「「おー!!!!」」」
領地に全力で戻り、なんとか大人達にバレない場所へと避難する。
森が燃えていて、俺達が居たなんてバレたらどうなるかなんて考えたくもない。
「で、大丈夫か?」
「え、えぇ。私は大丈夫よ。少し魔力切れでフラフラする程度ね」
「そうか。それならちょっと休んでおけ。魔力切れがどうしたら治るかなんて分からんが、休んどけばなんとかなるだろ」
「そうね。それよりも、あなた、本当は何歳なの? 私と同じ6歳にしては大人っぽいし、そ、それに、私より魔法が使え……」
「えっ? ちょっと俺なんのことか分かんないわ。ごめんな。それと、俺も6歳だ」
よし。とりあえずルイズに対してははぐらかす作戦でいこう。大人に対してだったらこんな作戦が上手くいくわけもないが、6歳ならなんとかなるかもしれん。
「え、えっ? 私が幻覚でも見てたのかしら。ま、まぁ魔力切れも起こしてるし、う、うーん……」
「さて、そろそろ俺は帰るわ! じゃあな!」
「ええ! またね!クロト!」
無理矢理ルイズと別れ、俺は家へと帰った。モンスターとの戦いで気付いていなかったが、そろそろ日が沈む時間だったようだ。
「ただいまー!!」
「あらおかえりなさい。今日はどこに行ってたの?」
「あのね!領主様の娘のルイズさんって女の子と遊んできた!」
「あらあら。あんまり粗相のないようにね。それじゃ、手を洗ってきなさい。お父さんもそろそろ帰ってきますし、ご飯を作りましょうか」
「はーい!!」
モンスターと初めての戦闘があったが、なんとか生き延びることが出来た。
そして、それと同時に俺の中にモンスターと戦うことの楽しさが少しだけ芽生え始めていった。