5話『ぼろ負け』
『マンティス・ベビー』はこちらを見つめながら、その6本の足を用いて少しずつ近寄ってきていた。
「ちょ、ちょっと、どうするのよ! 私たちじゃさすがに勝てないわよ!」
日本にいた頃のカマキリに見た目は凄く似ているが、大きさがまるっきり違う。『マンティス・ベビー』の成長した姿である『キラー・マンティス』はこれよりももっと大きいらしいが、ベビーでこの大きさという事は、正直成体の姿は見たくもない。
「ど、どうするかな。さすがに逃げれるって感じでもなさそうだし……」
「と、とりあえず私が魔法でなんとかしてみせるわ!!ルイズの名をもって詠唱する。風の精よ、我が魔力を対価に彼の者を切り裂け!【ウィンドカッター!】」
「ば、馬鹿!下手な事すんな!!」
「───────へ?」
ルイズの魔法の威力はお世辞にも強いとは言えない。6歳にしては良いかもしれないが、このモンスターにはダメージを与えるのはおろか、むしろ挑発しているようなものだ。
現に、コントロールが苦手なルイズの魔法がたまたま直撃し、マンティス・ベビーはこちらへと全力で向かってきていた。
「嫌よ!まだ死にたくない!!」
「バカ!早く避けろ!!」
マンティス・ベビーは子供など容赦なく切り裂くが如く、その大きな鎌をルイズへと振るおうとしていた。
近くにいる俺が【身体強化】さえ使えばなんとかなるが、あまり俺が魔法を使えることはバレたくない。
が、さすがに今のこの状況ではそんな事考えている暇すらなかった。
「ちっ。避けろって言ってんだろ!!」
なんとか無詠唱で【身体強化】を発動し、女の子を押すと同時に、鎌を避ける。本当にギリギリだし、今回避ける事が出来たのも殆ど偶然によるものだ。
「ルイズ! 早く立て! 逃げるぞ!領地の冒険者を!……っ!」
「わ、私は死にたく、」
駄目だ。ルイズはどうやら恐怖で腰が抜けてしまっている。今この状況では立つことも出来ず、走るなんて以ての外だ。
「戦って時間を稼ぐしかないか……」
攻撃すらまともに避けることが出来ない俺が戦っても時間稼ぎにすらなるか分からないが、まだこのモンスターは俺たちを甘く見ている。今ならまだなんとかなるだろう。
「【身体強化!】おらぁっ!!」
俺は剣の特訓もしていないし、扱いも分からない。だからこそ俺はそこら辺に落ちていた木の枝で弱点そうな大きな目を狙って突き刺そうとした。
だが、モンスターがそんな簡単に攻撃させてくれるわけがなかった。木の枝が当たるより前に俺はマンティス・ベビーによって吹き飛ばされた。
「ガハッ……い、いてえ……」
日本にいた時にも与えられたことのない痛みが俺の全身を襲う。……いや、この痛みよりも痛いことが日本にいた時にも1度だけあった。その時に比べれば、死ぬ時に比べれば、まだ、まだ戦える。
「近くで戦えないなら、魔法で、【ファイヤーボール!】」
痛みで魔力のコントロールも上手くいかないし、威力もそこまで高くはないだろう。だが、少しくらいなら……
「くっ……やっぱりこの程度じゃ……」
俺の希望などすぐに潰えた。【ファイヤーボール】はしっかりとマンティス・ベビーに当たりはしたが、やはりダメージなどなく、マンティス・ベビーはただその大きな目で俺を狙っていた。