4話『女の子の魔法』
女の子をなんとか説得し、森の奥にはせめて進ませないようにしていたが、当然森の浅い所などモンスターは滅多に出てこない。
「ったく、モンスターが来ないじゃない。そろそろ待ちくたびれちゃうわ」
っと、このようにそろそろルイズもイライラしてきている。さすがにまた違う対処法を探す必要があるようだ。
だが、ここで問題なのが、俺はコミュニケーションが苦手だ。そもそも女の子と話すことさえ殆どした事がないのに。(日本にいた頃も含む)どうしたら引き止められるかなんて分からない。
「な、なぁ、なんか軽く魔法を見せてくれないか? 魔法の才能があるんだろ?」
「い、良いけど、どんな魔法が見たいの?」
うーん。どんな魔法と言われても、俺の知ってる魔法は家にあった本の中の奴しかない。【身体強化】か初級的な攻撃魔法である【ファイヤボール】、【ウォーターボール】、【ウィンドカッター】、【ストーンショット】くらいか。あとは【ファストヒール】や【ファイトアップ】、防御系だけは初級魔法士の中でも使える人が少ないらしいし、さすがに使えないだろう。
この中で、今使えて危険じゃないのは……
「そうだな。【ファストアップ】とかなら使えたりするか? って、普通に話してるけど、大丈夫だよな?」
「えぇ。それくらいなら私でも使えるわね。それと、別に私が領主の娘とかあまり気にしないで良いわ。同じ子供なんだし、大丈夫よ」
「そうか。それじゃ、1回俺に魔法を掛けてくれ。ちょっと気になることがあってな」
自分でも【ファストアップ】くらいなら使えるが、無詠唱でしか使ったことがない。それに、自分に使うくらいなら【身体強化】を使った方が上がり幅も大きいし、持続時間も長い。さすがに魔法の才能があるというルイズならある程度の身体の強化と持続を期待しても大丈夫だろう。
「えぇ。任せてちょうだい。ルイズの名をもって詠唱する、彼の者の力を向上せよ!【ファストアップ!】」
ルイズから飛んできた魔法が俺を包み、少しだけ体が軽くなる。無詠唱よりも詠唱した方が威力は向上するというが、正直今の状況だと自分で無詠唱で【ファストアップ】を掛けた方が身体が向上している気がする。
「これは、長時間持続する感じ……か?」
「どうかしら!! これが私の魔法の才能よ! それに、私はなんと2属性の魔法が使えるのよ! 火と風! 凄いでしょ!!」
「お、おう。そうだな。って、あれ? もう魔法の効果切れたのか」
2属性の魔法が使えるって凄いことなのか? 俺は練習した限りだと4属性は使えたが、もしかしたらこれが転生する為に与えられた力なのかもしれない。
それに、ルイズの掛けてくれた魔法も数十秒程度だったし、無詠唱の俺の方が強いのでは?
い、いや、過信はしてはいけないか。だが、あまり俺の無詠唱や魔法についてはあんまり言わない方がいいかもしれない。
たかが平民の息子が領主の娘よりも魔法が使えるとなると面倒なことになるかもしれないし、そもそも、この魔法を使う力も努力のものだと願いたいが、死神のお陰の可能性があるしな。
「そうね! 他の魔法も暇つぶしに見せてあげるわ! ルイズの名をもって詠唱する。火の精よ我が魔力を持ってして、敵を燃やし尽くせ【ファイヤボール!】」
ルイズの放った魔法が俺の横にあった木に当たり、少しだけ焦げ目がつく。何故かルイズの目が涙目になり、体がガタガタと震えているが、的を間違えたのだろうか。
「な、なぁ、もしかして俺を狙って魔法を撃つつもりだったのか?」
「そ、そんな訳ないでしょ!! 私は貴方よりもっと離れた木を狙ったのよ! やっぱり私は魔力コントロールの才能がないわ!! 」
「い、いや、魔力のコントロールなんて慣れもあるし、むしろ6歳でここまで使えるのは凄いほうだろ。安心しとけよ」
「そ、そうかしら? そうよね! 私凄いよね! それじゃ、風魔法も見せてあげ、る、わ、」
「ん、どうしたんだ? 風魔法を見せてくれるんじゃ……」
正直この女の子めんどくせえと思いながら、風魔法を少し期待したが、それよりもヤバい事が起きてしまった。
本来なら森の奥の方にいる少しだけ強いモンスター。『マンティス・ベビー』が俺たちのことを凝視していたのだ。