39話『暗い暗い世界』
―――暗い。真っ暗な海の底にいるような気分だけが続く。既に体から痛みは引いている。生きているのか、死んでしまったのか、それすらも分からない。けれど、俺は確実にヴァーミリオンを殺した。それだけは覚えている。
ヴァーミリオンが教師を殺すために全力の魔力を爪の攻撃へと使った。それのお陰だ。あいつの首は既に人間とほぼ同じ柔らかさとなっていた。だからこそ、俺は念のために抜いておいた剣でヴァーミリオンの首を切り落とすことが出来たんだ。
……でも、ここから先の記憶はない。
きっとルイズは俺の死で涙を流してくれているだろう。最後まで止めようとし、言葉を掛けてくれたグレルも、ルイズの傍に居てくれたケイも、俺の意思を汲み取ってくれたユリウスも、皆がみんな、きっと俺の死を悲しんでくれている。なんとなくだけど、そんな風に思ってしまう。……自惚れかもしれないが。
しかし、俺がヴァーミリオンを殺した事により、教師を含め、本来からあの世界に居た人達が生きていてくれるのはとても嬉しい。転生者となって、大切な人達を死なせないようにする。きっと、これこそが俺の果たすべき役目だったんだろう。
もちろん、俺もあの世界でのんびりと生きていたかった。出来ることならあそこで俺が突っ込まずに死ななければ良かった。そんな考えすらもある。死にたいだなんて、思うわけがない。ましてや、誰かが必死に止めているのに、それを遮ってまで死ぬなんて、最大の罪でもあるだろう。
でも、そんな事を俺はした。純粋に、あの時の俺は助けたかった。死ぬ覚悟もあったし、なんだかんだ異世界に転生したくらいだしチート的な能力で生き残るだろうなーって思ったりもした。……ちょっとだけだけど。
けどまぁ、こんなに考えても、俺が死んだという事実は変わりようがない。それに、段々と眠くなってきた。きっと、眠ってしまえばもうなにもかも忘れてるだろう。とりあえず、俺が死んだ事よりも、生き残った人達が生涯幸せに生きてさえくれれば俺はそれでいい。
「……ト……ロト……クロト!!」
こんなクソ眠い時に誰かの声が聞こえた。誰だっけ? 思い出せない。いや、違う。さっきまで考えていた人の筈だ。誰だ? どうして思い出せない? 俺は、おれは、オレは、オレノキオクハ?
「……ねぇクロト。ありがとね。私は、私達はクロトのこと絶対忘れないからね。そしていつか、私はまたクロトに出会ってみせるから」
「そうだな! 体があれば生き返らせれる可能性はあるもんな!」
「えぇ! 迷宮でもなんでも行って、この世界の理さえも変えてしまいましょ!」
「私も微力ながらお手伝い致しますね。クロトの為にも」
「えぇ。平民だなんて、私は間違っていたわ。きっと、あなたは英雄だったのよ」
色んな人の声が、頭を貫く。あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ。思い、出した。そうだ、この声は皆、ルイズにグレル、ケイにユリウス。そして、クレアじゃないか! なんで俺は忘れてたんだ!!
でも、俺を生き返らせれるなんて、そんなのきっと、無……いや、あいつらにこっからは任せよう。俺はとりあえず、さっきみたいに忘れないようにして、
今はとりあえず一時の休息を得ることにしよう。
エタるよりも良さげに完結させていきます。多分次かもう一話で完結です。




