3話『女の子との会話』
森に入っていく女の子を見つけ、誰かを呼ぼうかと思ったが、その間に見失う危険性を考慮して俺は後を追うことにした。
「あの子、どうしたんだろう」
領地から出て森に行くのは別に禁止されているわけではないが、子供だけで行くのはあまり良いことではない。あまり大きい森ではないが、弱いモンスターも現れるし、下手したら迷子になる危険もある。
だからこそ、森の入り口には普段から領地の自警団の見張りが居るのだが、何故か今日に限っては居なかった。たまたま用事があって居ないという事も考えられるが、それにしては女の子が森に入るタイミングが良すぎる。
「ねぇ、森の中は危ないよ? 戻ろうよ!」
もはや後を追うよりも引き返させた方が正しいと思い、俺は意を決して女の子へと話し掛けた。
当然、女の子は誰にもバレずにここまで来たと思っていたからか、俺の言葉に対して体をビクッと跳ねさせていた。
「だ、誰かしら。わ、私が領主の娘、『ルイズ・ヴァレンシア・レイド』であり、魔法の申し子と知って話し掛けてるんでしょうね!……って、なによ!私と同じ子供じゃないの!」
1人で恐る恐る振り向き、まるで虎の威を借る狐のように自己紹介した後に、俺が子供だと気付いて脱力していた。もしも大人が付いてきていたなら領主の娘という権限を使っていたのだろう。
「うん。君が領主様の娘だったんだね! 確か、魔法の才能が凄いんだっけ! でも、どうして森に来たの?」
領主の娘に魔法の才能があるということは昨日のお父さんの話を聞いて分かっていた。魔法について興味があるから是非ともどんなものか見てみたいが、それよりも今は連れ戻すのが優先だろう。
「煩いわね。私の勝手なのよ! 私は自分の魔法の才能をモンスターに試しに来たのよ!!」
「で、でも、ここで僕が見逃したら領主様に怒られちゃうよ!!」
「知らないわよ!貴方は私を見なかった、私は貴方を見ていない。それでいいでしょ! だから大人しく家に帰って貴方は寝ていなさい!」
女の子は俺を一瞥すると森へと向かって歩き始めてしまった。
だがしかし、ここで女の子を止めないでもしも森で怪我をされてしまえば最悪止めなかった俺の責任になる。女の子は俺を見なかったことにすると言っているが、世の中そんな甘くはない。というより、もしもモンスターに女の子が殺されたら俺は罪悪感でめちゃくちゃしんどい。
「ちょ、ちょっと! モンスターが出るから危ないって!」
「うっさいわねー。だったらあなたも付いてくれば良いじゃない。そしたら私の魔法の腕の証人にもなるし、モンスターを倒す勇姿も見れるわよ? 光栄な事じゃない!」
なんだろう。どうしてこいつはこんなにも俺に対して上から目線なんだ? 領主の娘だからあんまり手荒には言えないが、少しイライラしてきたぞ。タバコがないから短気になっているかもしれない。
「ちょっと落ち着かねえと……」
「何してるのよ。早く行くわよ。あなたの足がノロマだと夜になっちゃうじゃない!」
「はぁ。良いからさっさと戻れって言ってんだろ? 聞こえねえのか? 領主様の娘だから俺はここで責任を感じたくねえんだよ」
やべえ。つい反抗してしまった。素が出て強い言葉を使ったけど、女の子の反応は……
「って、泣いてる!? なんで!?」
「う、うるさいわよ! そんな風に強く言われたの初めてだからちょっと怖かったのよ! それと、私のことはルイズと呼びなさい!」
「えぇ……まぁ良いけど。んで、モンスター出てきたらどうせ倒せないんだからルイズさんも領地に戻った方が良いんじゃない?」
「それは無理な相談ね! あ、それとあなたの名前も教えておきなさい! 初めて私と対等に話す人なんだから!」
「はぁ。俺の名前? クロトだよ。領主様の娘さんに対等とは思えないけどな」
「クロトね! 分かったわ!それじゃ、モンスター退治に行きましょ!!」
駄目だこいつ。人の話全く聞いてねえ。口調の変化にも気付いてないし、こいつ、ホントは馬鹿なんじゃないか?
「って、だからせめて森の奥には進むなって!」
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