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38話『自己犠牲』

 グレル達と共に、ヴァーミリオンの元へと向かっている時、俺はヴァーミリオンがどんな攻撃をしてくるのかを出来るだけ説明した。もちろん、見ていただけだからこそ、分からないことも多いが、戦闘に参加するであろうシルバー級冒険者には確実に知っておいて欲しかったのだ。


「……あの、その、一応お名前だけ聞いてもいいですか? もしこの場を切り抜けた時、学校側に説明するのに助けてもらった人のことをちゃんと伝えたいので……」


 俺の説明が終わった段階で、ルイズが恐る恐るシルバー級冒険者へと訊ねていた。


「あぁ、構わないよ。私の名はマルクスだ。覚えておいてくれると助かるよ」


「あ、ありがとうございます」


 ルイズとマルクスが少しの雑談を終わらせた時、俺達の視界の先には、激しい戦闘音が聞こえてきた。相変わらず近付くにつれてなんとなく精神状態が悪くなっていく気がする。他の人たちと表面上は大丈夫みたいだが、恐らくはヴァーミリオンの汚染された力の余波に当てられているはずだ。足がもつれて転んだりしなければ良いが……


「ルイズ! 気を引き締めろ! そろそろ着くぞ! 他の皆も自分の身は自分で守れるように準備しとけ! 」


 ヴァーミリオンの元へと辿り着いた俺達は、念の為武器を取り出しておき、いつでも戦えるようにしておいた。当然だが、俺やグレルのように、生徒がヴァーミリオンと戦えるとは思わない。でも、それでも、武器を出しておけば最悪の事態だけは防げる可能性があるのだ。


「くっ……やはり強いな……」


 ヴァーミリオンと教師の戦いは、既に最初とは比べ物にならないくらい変わっていた。ヴァーミリオンが一方的に攻め、教師は守ることで手一杯。ヴァーミリオンが勝つのも時間の問題だろう。


「―――っ!? まずい!」


 教師がヴァーミリオンの攻撃に集中し過ぎた為か、足元にに注意が及ばなかった。だからこそ、本来なら絶対に転ばないような石にすらつまづいてしまったのだ。


「っ!? 行かなきゃ!」


「待ってクロト! 死ぬわよあなた!」

「そうだ! 君はここに居るんだ! 私が!」


「この距離は俺しか間に合わねえだろうが!!」


「クロト! ちょっと待てよ! 落ち着け!感情で動くんじゃねえよ!!」


 既に俺は走り出している。俺を追いかけて止めようとしてきているマルクスや、グレル、そして必死に俺を止めようとしているルイズを慰めているケイ。振り向けばそんな光景が見えた。

 確かに怖い。このまま俺が教師の前に出てヴァーミリオンの攻撃を受け止めれば、ほぼ確実に死ぬ。だが、教師も生き残り、他のみんなも生き残る確率は格段に上がるだろう。そもそも、俺は一度死んだ身だ。ここに居ること自体が間違ってる。けど、こんな世界でも、俺は、


「……楽しかった、な」


「―――クロトー!!!!!」

「ルイズ! あんた、本気でクロトを殺す気!?」



 ルイズの魔法が俺の横を通り抜けていく。ヴァーミリオンを狙った訳でもない。俺を止めるために無理やり放たれた魔法だ。しかし、当たらなかった。だからこそ、俺が止まることはない。


「クロト! いい加減にしろ! ここはお前の出る幕じゃねえ! 引き下がれ!」


「……グレル殿。もういいのではないか? 既にクロトの意思は固まっている。今更誰に何を言われても止まることはないだろう。今は、あいつが生き延びることと、あいつの勇姿を見届けてやろうではないか」


「で、でも、それじゃあクロトは!!」


 ルイズの言葉に対し、誰一人として返事をする者はいない。そう、みんなわかっているのだ。俺の生き残る可能性が皆無なことを。でも、最後にユリウスがみんなを止めてくれたからこそ、俺は前を向いてしっかりと自分の役目を果たせるんだ。


「ヴァーミリオン!!! お前にこいつは殺させねえぇぇぇ!!!」


 教師の前に出た俺は、ヴァーミリオンの殺意と魔力の込められた爪を真正面から庇うように受けた。痛みでそのままぶっ倒れそうなくらい痛い。


 ―――だけど、今ならヴァーミリオンを殺れる筈だ。

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