37話 『合流』
ヴァーミリオンと教師の戦闘区域から離れた途端、俺は何もない場所で転んでしまった。隠蔽魔法を使っていたとはいえ、流れ弾で即死の危険性もある戦場だったのだ。力の差が歴然と分かるからこそ、俺は恐怖で足を震わせてしまっていたのだ。
死の恐怖というのは、近くで味わえばやはりそれなりのもののようで、その場に残してしまったユリウスは分からないが、ルイズも俺と同じように少し足が震えていた。
「……あれが力の差ってやつか……」
「そうね。禁忌の魔法を行使しているのは初めて見たけど、まさかあれ程までとは思わなかったわ」
ルイズの手をかり、俺は体を立たせてから、また走り出した。
「なぁルイズ。今回の遠征にゴールド以上の冒険者なんて居たか?」
「いえ、あまり見てないのだけれど、恐らくは……居ないと思うわ」
「そう、だよな」
ただでさえ全冒険者の中でゴールド以上は少ない。むしろ、今回の遠征に一人でも居たことの方が幸運だろう。シルバーの冒険者なら何人かはさすがに居るだろうが、その人たちでヴァーミリオンに太刀打ち出来るかと聞かれたら、きっと無理な気がする。
今も尚戦場にいるユリウスに流れ弾とかが当たっていないことを祈りつつ、俺は探知魔法に引っかかった近くにいるグレル達の元へと向かう事にした。
「グレル!」
「お、クロトじゃねえか! どうしたんだ? そんな血相変えちまって」
「やっほールイズ! こっちはモンスターを何体か倒したよー!」
「ふむ。お仲間が来たようだね。それでは、私はここら辺で失礼させてもらうよ」
俺達がグレルの元へと向かった理由は二つほどある。一つは、単純にグレルとケイにも他の冒険者を探してもらうため。もう一つは、探知魔法に引っかかったグレルとケイの他にその場に居たもう一人の男に少しの期待をしたからだ。
それから、俺達はヴァーミリオンについての説明と、グレル達と一緒に居た男に救援を求めた。
「済まない。話を聞く限りじゃ私では力不足かもしれん」
しかし、男はシルバー級の冒険者であり、ヴァーミリオンとの戦闘では足手まといになる可能性が高いようだ。やはり、ゴールド以上の冒険者の力が必要なのかもしれない。
「グレル、ケイ。ルイズにも聞いたんだが、今回の遠征にゴールド以上の冒険者は何人居た?」
「いや、俺は殆ど見てないから分からねえな」
「私もグレルと一緒。そもそも、ゴールド級冒険者が遠征に居ることの方が珍しいんだよね……」
「そうだよな。やっぱりせめて俺達が行くしかねえか」
「待て。君たちが行くというのなら私も付いていこう。こう見えて私はもう少しでゴールド級冒険者に昇格出来る程度の実力はあるんだ」
「クロト! 時間がないわ! この人にお願いしましょう!」
「あ、あぁ! それじゃ、案内するのでお願いします!」
冒険者として生徒を死地へと向かわせることに抵抗があったのかもしれないが、それでも冒険者が助けてくれるのなら心強い。藁にもすがる思いで俺達はシルバー級の冒険者である男をヴァーミリオンの元へと案内した。
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一方、ヴァーミリオンとの戦闘を見続けているユリウスは、自分が何も出来ない歯痒さに耐えながら刀へと手を掛けていた。
「くっ、私にもっと力があれば……」
今自分が戦闘に参加しても無駄死にするだけ。分かっているからこそ、ユリウスの表情はとても悔しそうだった。




