36話 『傍観』
ロイス・ヴァーミリオン。モンスターを吸収する前はそこまでの力を持った男ではなかったが、今はまるで別人のように力が増していた。
爪が伸び、魔法の威力すらも上がっている。木々を軽く粉々にするほどの腕力も持ち合わせており、到底俺たちのような生徒では勝てそうにはない相手だった。
「あなたたちは下がっていなさい。無駄に死にたくはないでしょう?」
「いや、一人じゃ危ね……」
「――あなた達では足手まといなのよ」
その言葉を聞き、俺達は素直に戦いを見守る事にした。もちろん、距離は取り、いつでも逃げるか戦闘に参加できるようにはしているが、教師とヴァーミリオンの戦いを見る限りでは、俺たちに介入する余地はなさそうだ。
教師の攻撃は、剣を主体とした攻撃であり、魔法は殆ど使っていない。唯一『身体強化』の魔法なんかは使っているのかもしれないが、それを考慮したとしても、剣を振るスピードや、ヒットアンドアウェイを主軸にした戦い方は見事だった。
対するヴァーミリオンも、教師の攻撃がまるで効いていないのか、ひたすら魔法を繰り出したりと反撃していた。
「クロト。もうちょっと下がった方がいいわ。あと、念の為隠蔽魔法の準備をお願いしても良いかしら?」
「あ、あぁ。俺たちじゃ流れ弾に当たっても死にそうだしな」
「……っ!」
俺は隠蔽魔法をルイズとユリウス、そして自分に使い、ヴァーミリオンから身を隠すようにした。
しかし、ユリウスは腰の刀に手を掛け、今にも飛び出していきそうな位で戦闘を凝視している。
「ユリウス。今は落ち着け。力の差を理解するのも冒険者にとっては大事だと思うぞ」
「……分かってる。だから、我慢してる」
「あぁ。俺たちじゃどうしようもないからな」
確かに、ただ見てるだけというのも気持ち的には歯痒いし、援護だけでもしたいと思うのは分かる。けれど、俺たち程度の援護ではただ邪魔をするだけであり、余計に隙を与えてしまうかもしれないのだ。
「ねぇクロト。これ、他の冒険者の人とかも呼んだ方が良いんじゃないの? そろそろやばそうよ?」
確かに、戦闘を見ていて感じたが、最初こそ教師の方が優勢であり、ヴァーミリオンはされるがままに攻撃を受けていた。しかし、現状は既に変わってきている。魔物としての知能も得たのか、教師の攻撃パターンなどを読み、反撃したり、また、驚異的な再生能力で教師の与えた傷などとうに塞がってしまっているのだ。
「それもそうだな。ユリウス、念の為お前はここで戦闘を見ていてくれ。最悪の場合の判断はお前に任せるが、無茶だけはするなよ?」
「もちろん。それくらいは弁えている」
「よし、ルイズ。行くぞ!」
「えぇ。行きましょ」
教師も反撃にやられ、体や顔に目に見えて傷が出来始めている。息も上がり始め、俺の予想では持ってあと十五分程度という所だろう。なんとかそれまでに援軍を呼ばなければ、最悪俺たちで対処するしかない。焦りと緊張が俺の足を少しだけ震わせていた。




