35話 『ロイス・ヴァーミリオン』
――『モンスター蘇生』
禁術の一種であり、本来ならば禁止されている魔法だ。そもそも、死体を操ること自体が禁じられており、貴族といえどほかの冒険者や貴族などにバレれば極刑は免れないだろう。
それ程までに禁術というのは重い罪に問われるのだ。まぁ、バレなければ問題ないというのもあるが……。
「にしても、モンスター達動き出さねえな」
「そうですね。攻撃の隙を狙っている。という風にも見えませんし、様子を伺っているとも思えません。死して考える力を失ったモンスターが動かないともなると……」
「――蘇生魔法の失敗。という線も有り得るわね」
復活したモンスターは殺せば塵となって消える。二度目の復活は根本的に出来ないのだ。だからこそ、復活したモンスターが動かないならば、今のうちに完全排除するべきだと思える。
けれど、事はそう簡単にはいかない。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている男がモンスターの近くに居る限り、何をしてくるかは分からない。ずっと睨み合っている訳にもいかないが、俺一人で突っ込むのは安易にするべきではない。ロイス家の奴はそこまでの脅威ではないが、もしもあいつに近づいたときにモンスターが一斉に襲ってくるということにでもなれば、あまりにも危険すぎる。
「クロト。なにかやっぱりおかしい。あの男、まだなにかをするつもりだと思う」
「みたいだな。さっさと終わらせるぞ! ルイズは魔法で援護! 俺とユリウスは突っ込むぞ!」
「分かったわ! 任せなさい!」
俺達が動き出したと同時に、動きのなかったモンスターが何故か俺たちの方ではなく、男へと集まり始めた。一体何をするつもりなのかは分からないが、嫌な予感しかしない。
「はーはっはっは! 私は、私は、人類を超えて、全てを支配してみせるのだ!!」
モンスターに囲まれた男は、高笑いしてから魔法を行使した。ぐにゃぐにゃとモンスターが崩れ始め、男へと吸収されていく。
俺とユリウスが止めようと思い、吸収途中の男を攻撃しようかと思ったが、魔力の障壁が作られていて、俺達の攻撃は届かなかった。
そして、完全にモンスターを吸収した男は、姿形は人間と同じだが、目の色や爪、牙などが生え始めていた。
「凄い。凄いぞ! これがモンスターの力というものか! 今の私なら、誰にも負けない気がするぞ! このロイス・ヴァーミリオンの力を貴様らで試してやろう!」
「二人共! 離れて! 魔法を撃つわ!」
ルイズの中級魔法『大火球』が俺とユリウスの間を通って、初めて名前を名乗ったヴァーミリオンへと飛んでいった。
「ふん。この程度の魔法、効かぬわ」
呆れたように、ルイズの魔法をヴァーミリオンは片手で防いだ。先程の魔力障壁を使ったのか、ヴァーミリオンに対して『大火球』は一切のダメージを与えなかった。
「ロイス・ヴァーミリオン。モンスターと合体するのは、禁忌の中の禁忌。悪いけどここで死んでもらう」
「今の私を殺す? 馬鹿馬鹿しい! やれるものならやってみるがいい!!」
ユリウスが刀に手を掛け、走り出したが、それよりも早くヴァーミリオンへと近付く者が居た。白銀の鎧を身に纏い、双剣を持ってヴァーミリオンを斬り裂いた。
呆気に取られたユリウスも、刀を鞘に納めて俺達の元へと戻ってきた。
「ユリウス。大丈夫か?」
「私は問題ない。しかし、今ヴァーミリオンと敵対している者が少し心配だが……」
「私たちが心配するまでもないと思うわ。あの人、冒険者学校の教師よ。それに、クロトも一度は会ってると思うわ」
「いや、あんな人俺は見た事ないぞ?」
そもそも俺が冒険者学校で会っている教師は数少ない。その中でも、覚えているのはクレアとの模擬戦時に出会った教師くらいだ。
「ロイス・ヴァーミリオン。哀れな男だ……」
教師と言われてもいまいちピンとこないが、それはこの戦いが終われば分かるだろう。とにかく、俺達も傍観していないで少しでも援護をするべきだろう。それくらい、モンスターを吸収したヴァーミリオンは強大な敵なのだ。




