29話 『覚悟』
新人賞用の小説を作成している為、更新頻度が遅くなると思います。ご了承ください。
俺の手に出現した燃え盛る火を見て、女の子は必死に抵抗しようとしている。俺も自分の手がどんどん燃え続けていることに耐えることのほうが厳しいが、今はこれを当てて勝つことの方が優先だ。手の感覚も段々と無くなっていくが、なんとか女の子をこちらへと引き寄せて当てようと力を加える。
「自爆行為をするつもりですか!?」
「そうだけ、ど、なんか文句あんのか?」
「くっ……さすがは、冒険者になろうとしてるだけはありますね……」
俺の方が力自体は強いらしく、女の子の体はどんどん俺へと引き寄せられていく。女の子が俺の魔法に近付くに連れて、女の子の顔は恐怖で引き攣りはじめていた。なんていうか、その表情だけを見ていると、俺がめちゃくちゃ悪い奴になった気分だ。
「あなたの覚悟は分かりました。今回は私の負けです」
「そうか、なら離れていてくれ。こいつを消さないといけないからな」
火魔法が女の子にあたる直前で、女の子は降参し、負けを認めた。これで試合自体は俺の勝ちだ。だが、俺の手にはまだ火魔法は残っている。ここ迄魔力を込めた今、安全に消すというのが無理なのだ。
「どうするつもりなのですか?」
俺の掴む手から離れた女の子は、俺の手を見ながら訊ねてきた。どうするかなんて、方法は1つしかない。どっちみち俺の体には衝撃はくるだろうし、そもそも何処かに当てないと消しようがない。
「地面に当てるしか、ないだろ」
熱い。熱い熱い熱い。今の俺の顔は苦痛に満ちた表情をしているはずだ。仕方ない。魔法が暴走して抑えきれないからこそ、火魔法の熱さが伝わってきてしまう。
「私に任せてください。その魔法、消してみせます」
「はっ? お前、何言って――」
「――ユリウス流剣術秘伝『陣破壊!』」
刀を構え、女の子は俺の手へと刀を一度だけ振った。見事としかいけない一撃は、俺の手の中で燃え続けていた炎だけを消したのだ。もちろん、俺の手にダメージはなかった。
「お前、こんな事も出来るのかよ……」
「刀さえ使えればの話です。先程のように掴まれてしまえば、私は無力と化しますから」
「そっか。ありがとな」
「感謝よりも早く治療を行ってください。あと数分であなたの手は壊死します。急いだ方が良いと思いますよ」
女の子がなんで助けてくれたのか分からないが、確かに今は治療を優先するべきだろう。手の感覚が全くない。
それからすぐに、先生による本日の学校終了の合図があり、今日の学校は終わった。貴族達も俺の焦げている手を見て、罵倒する気も起きなくなったのか、ルイズが急いで駆け寄ってくるまで特に何も言われなかった。
もちろん、ルイズがなんとか回復魔法で治してくれた時には『卑怯』だとか色々言われたが。
まぁ、もちろんそんな貴族の言葉など無視して俺達は普通に学校を出たのは言うまでもないだろう。
「それにしても、回復魔法ってホントすげえよなぁ。こんなに手が綺麗になるなんてよ」
寮へと着いてから、俺は自分の手を見ながら呟いた。もう少しで壊死する程の手が綺麗に治るのだ。凄い以外の言葉が見つからない。単に、俺のポキャブラリーがないだけかもしれないが。
「回復魔法を褒めるのは良いけど、次からはあんまり無茶しちゃダメよ? 模擬試合で体張るなんて前代未聞よ?」
ルイズが俺の呟きを聞いていたのか、お茶を持ってきながら反応した。
確かに、ルイズの言う通り今回は少しやりすぎたかもしれない。負けたくない一心からの行動だが、端から見れば模擬試合に体張るなんてただの馬鹿としか思えない筈だ。けれど、俺は、
「模擬試合でも負けたくないんだよ」
「あなたならそう言うと思ったわ。でも無茶ダメ。分かった?」
「……了解」
こうして、ルイズに怒られた後、俺はご飯を食べて眠りについた。明日は学校で何をするのかをちょっと楽しみに思いながら。
一週間に2回から3回は更新しようと思っております。




