2話『魔法』
予定より遅くなってしまった!
ドタバタと色々な所を走り回っている音を聞き、俺は目を開けた。体も全く自由に動かず、ただ眩しい光と、俺を覗き込んでくる2人の男女しか視界には見えなかった。
「(そうか。転生したから俺は赤ん坊からのスタートか)」
自分の置かれている状況を理解してから、ひとまず俺は赤ん坊としての生活を始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━
そんな赤ん坊の生活も着々と進んでいき、異世界での新たな発見を楽しんでいる内に俺は晴れて6歳となっていた。
初めて見た男女が自分の母親と父親ということも理解したし、この世界が『ゴッドガルド』という世界ということも分かった。
精神年齢的には26歳の会社員だからか、自分が今居る領地の事や、王国、帝国、大まかな国の名前などもなんとか覚える事が出来た。
「やっぱり、新しいことを覚えるのって楽しいな……」
「あら。今何か言ったかしら?」
「んーん! なんでもないよっ!!」
俺と両親が暮らしているの、王都から程近い領地だ。と言っても、領地の息子とかではなく、俺はただの平民の家で産まれている。
それに、死神とやらは日本に似ていると言っていたが、どちらかと言えば、中世ヨーロッパのような街並みだし、日本に似ている部分というのはあまり見つけられない。
「ねぇねぇお母さん! 今日もあの本読んでもいい?」
「んー。お父さんが畑仕事から帰ってくるまでの間だけよ?」
「うん分かったー! 」
「……あらあら。全くあの子は元気ね。誰に似たのかしら」
この世界には死神の言った通り、魔法というものが存在し、生活魔法と呼ばれるものや、戦争やモンスターを倒す為に使われる攻撃用の魔法、また、防御や回復、強化などあらゆる魔法が存在していた。
俺たちのような平民は基本的にはあまり魔法などを使う才能がなく、誰でも使えるような生活魔法を駆使して生活している。だが、お父さんがやっている畑仕事などは、昔からの方法らしく、魔法は使わずに自らの力でやるそうだ。
「もっと魔法を使って効率化すればいいのに」
俺がお母さんに頼み込んで殆ど毎日読ませてもらっている本は、この家に1冊だけある初級魔法士の為の本だ。生活魔法や、初歩的な攻撃から強化までの魔法が記されていて、俺は毎日これを見て勉強していた。
正直、勉強をしていると会社員になる為に死ぬ気で勉強した事を思い出すが、なんていうか魔法を覚えるのはそれほど苦でもなく、むしろ楽しさすらあった。
「のんびり暮らすのも良いけど、冒険者や騎士になって楽させてあげたいよなぁ……」
日本にいた頃は両親が根っからの公務員であり、俺はそれを見て厳しく育てられた。もちろん、何度か殴られたこともあるし、産まなきゃ良かったなども言われた事がある。その度にどんどん嫌いになり、もはや公務員になった時には両親など縁を切りたい存在だった。
けれど、この世界の両親は全く違った。なにをしてもあまり怒らないし、そもそも優しい。子供に無償の愛情を捧げてくれているのを凄く味わえる。この世界にとっては普通なのかもしれないが、こんな風に優しくされると親孝行したくなってしまう。
「とりあえず冒険者になるには強くならないと! まずは昨日の復習からだ! 【身体強化!】」
魔力を練り上げ、自らに纏うようにして魔法を発動させる。本来なら無詠唱するよりも詠唱した方が威力は高まるのだが、両親にバレない為にも今はまだ無詠唱で特訓していた。
「やっぱ魔法はすげえな」
【身体強化】をして腕立て伏せなどの筋トレを開始するが、体が普段とはまるっきり違うくらい軽く感じてめちゃくちゃ捗る。ただ、あまり魔法の才能がないからなのか、俺の魔力保有量は少ないらしく、【身体強化】という初歩的な魔法ですら俺は5分と持たない。
「ま、段々成長はしてきているよな」
魔法の特訓を始めた時はやり方も分からず、出来ても1分くらいでバテていたが、今は5分も持続出来るし、1時間程度休めばもう一度出来るくらいには成長している。
「おー! クレア! クロト! 今帰ったぞー! 今日はお土産もあるぞー!」
クレアとクロト。クレアは俺のお母さんの名前であり、クロトは俺の名前だ。日本にいた頃の黒兎を読み間違えればクロトになるが、偶然似ただけなのだろうか。
「あら、今日は少し早かったのね。おかえりなさい」
「あぁ。なにやら領主様の機嫌が良くてな。どうやら領主様の所で産まれた子が魔法の才に優れているというのが判明したらしいぞ」
「あらあら。そうなのね。確か、クロトと同じ歳だった、かしら? 6歳で魔法が使えるなんてすごいわねぇ……」
「それで、クロトはどこに居るんだ? まさか、また本でも読んでるのか?」
お父さんが思ったよりも早く帰ってきた事に俺は驚きつつも、急いで本を仕舞ってお父さんのもとへと走った。
「お、おかえり。お父さん」
「おう!いい子にしてたか? 本を読むのもいい事だが、たまには外で遊ぶんだぞ? 子供は走り回ってくらいが丁度良いからな!」
「うん! 明日は外で遊ぶよ!」
「そうかそうか! それはいい事だ!」
「クロト。他の子供たちとも仲良くするのよ?」
俺は日本にいた頃からあまり友達というのがいた事がない。数少ない親友は居たが、コミュニケーションというのが正直苦手なのだ。だからこそ、家で1人で特訓しているし、外で遊ぶ時も1人で魔法や剣の練習をしている。
「分かってるよ〜! ねぇねぇー!お腹すいたー! ご飯食べよーっ!」
「はいはい。今ご飯作りますから、待ってなさい」
こうして、夜ご飯を食べて、早めに寝て俺の一日は終わった。
次の日、お父さんに宣言した通りに外で遊びに行くと、俺は女の子が1人で領地から少し離れた森に入っていくのを目撃した。