28話 『弱者の知恵』
屈んだ状態で出来ることは少なかった。相手は俺の行動を読もうとしているのか、追撃はしてこない。しかし、その一瞬の隙こそがこいつにとっては命取りとなったのだ。
「こいつで、どうだ!!」
クレアからどれくらい話を聞いたのかは分からないが、もしも何も知らないとなれば、魔法石を使うことなど想定出来ないだろう。だからこそ、俺はそれに賭けた。あまり持ってない魔法石だが、この場を切り崩すには最適な筈だ。
「――くっ! こんな技まで使ってくるなんて!」
予想通りだった。クレアは俺の情報を話していない。正直それは助かったと言える。お陰で、女の子の足元を凍り付かせる事が出来た。ほんの少しの間でもこれで時間が稼げるだろう。
「汝の名は光の神ルー。ルーたる力を我が敵を滅ぼすために貸したまえ『光神の槍!』」
この魔法は本来この世界にない魔法だ。俺が独自に作り上げ、完成させた唯一無二の魔法。光系魔法の魔法石を幾つも使い、それを触媒として魔力を込める。準備に時間は少し掛かるものの、威力は上級の魔法を上回る筈だ。
――しかし、それは当たればの話だ。威力が絶大だとしても、当たらなければ意味は無い。だからこそ、俺は女の子の足場を凍らせたのだ。
「なんだこの魔法は!? この威力、耐え、きれるか……っ!」
作戦は上手くいき、女の子は動けない状態で俺の魔法を刀で受け止めている。まさか受け止められるとは思わなかったが、逆に考えれば今の女の子は隙だらけだ。魔力は今の魔法を使うのに殆ど込めてしまった為、中級も使えない。それ程魔力消費もデカいのだが、それに見合った分の力は発揮してくれているみたいだ。
「終わらさせてもらうぜ」
自身の体に【身体強化】の魔法を掛け、俺は女の子の背後へと回る。あとは木剣で首元を叩くだけのはずだった。
「私は、この程度ではやられないよ。ユリウス流剣術奥義『百花繚乱!』」
俺が木剣を降った瞬間だった、勝利を確信した瞬間だ。その時、俺は確実に女の子を見据えていた筈だった。なのにも関わらず、女の子は俺の方を向いて、刀を構えていた。――当然、『光神の槍』も消されている。
「終わりだよ。私の斬撃は魔法をも斬る。しかし、この威力の魔法は初めてだね。中々の威力だったよ」
「……っ!!」
俺は木剣を振るのをやめ、女の子から距離を取った。今この場で女の子を攻撃していれば確実にカウンターでやられていただろう。本能が俺に回避行動を取らせたのだ。
「へぇ。良く分かりましたね。でも、その距離だと手遅れですよ!」
本能的に回避行動を取ったのはいいが、その距離が甘かった。否、俺には限界の距離でも、女の子にとっては容易に到達出来る距離だったのだ。回避直後の俺のバランスは悪く、今攻撃されれば防げても倒れるか、良くて武器を吹き飛ばすだろう。
「―――まだ、終わらせねえ!」
こんな簡単に負けるわけにはいかない。今手元に持っている魔法石はどれも初級程度の魔法だが、相手が脅威と判断して避けてくれるのを祈るしかない。上手く避けてくれれば、俺は体勢を立て直す事が出来る。
「……こんな子供騙しの魔法なんて聞きませんよ。残念です」
やはり、と言うべきか、女の子にとって初級程度の魔法では意味を成さなかった。そのままの勢いで何事もなかったかのように走り抜け、俺の首へと刀を当てようとした。
――しかし、そんな事を俺はさせない。自ら剣を捨て、俺は女の子の持っている刀を掴んだ。一か八かの賭けだったが、なんとか上手くいって助かった。もちろん、手から身体に伝わる衝撃はとてつもなかったが。
「へへっ。捕まえたぜ」
「くっ! 離してください! これ以上傷を増やしたいのですか!?」
「今回勝つのは俺だ……っ!!」
俺に出来る残された手段は一つだけだった。魔法石ももう無く、剣も地面に転がっている。あるのは少しの魔力だけだ。自爆行為と言われればそれまでだが、俺は、自らの魔力を無理やり全部火魔法である【大火球】に込め、掴んでいない手へと出現させた。
込められた量が不自然に多すぎるためか、飛ばすことも出来ない炎は、俺の手で燃え続けている。あとはこれを女の子へと当てるだけだ。
――そうすれば、俺の勝ちだ。




