27話 『優秀すぎる平民』
グレルとクレアの試合も終わり、順調に模擬戦闘ルームは静けさを増していた。貴族の人達にとって、蹂躙されるのを期待していたのに対し、グレルが思った以上に強かったからだろう。
だが、次の試合の平民は分からなかった。体は俺よりも遥かに大きいが、武器は持たない男。それに対して、相手側はBクラスの貴族で、杖を持っている。武器を持っていない男がどう戦うのか、非常に興味深い。
アナウンスで名前が呼ばれ、平民の男は『シルド』という名前である事も分かった。あとは、試合が始まるのを見るだけだ。
「ふむ。私はここから一歩も動かない。貴方の最強の技でも魔法でも直撃させてみたまえ」
「はぁ? 何言ってんだお前! 望み通り、ぶっ殺してやるよ!!」
男の煽り言葉は貴族達の反感を買い、静かになっていた会場はまたうるさくなってしまった。ただ、貴族の放った魔法が、その男に炸裂した時、会場は一瞬静かになった。さすがに殺してしまったのでは? と思ったからだ。
――しかし、煙が晴れた時には直立不動で立っている男がいた。気絶しているわけでもなく、勿論死んでいる訳でも無い。無傷だ。服だけが消え、露出している上半身は紛うことなき、筋肉の塊だった。
「嘘、だろ? くそっ!! これでもくらいやがれ!!」
「ふむ。この程度か。効かぬな」
「う、うぉぉおおおお!!!」
魔法に対する耐性を持っていると思ったのか、貴族は隠し持っていた短剣を使って、身体強化してから刺しに向かった。けれど、その短剣は男の肌に刺さることなく、当たった瞬間に折れてしまったのだ。
対戦相手の貴族はもはや為す術もないと落胆しており、この勝負は男が勝利となった。
強固な防御力としては非常に面白いが、これはどうやって試験したのだろう。実験台にでもなったのだろうか? それとも、こいつだけ別試験だったのかもしれない。
しかしまぁ、こんな事はどうでも、良くはないが、今回の試合で平民が勝てたことの方が大事だ。これで貴族の人たちも容易に罵倒する事は難しくなっただろう。
「私の勝利か。やはり私の防御を突破できる者は居ないのだな……悲しきことだ」
「くっ、図に乗りやがって……覚えてろ! てめえはいつか絶対殺してやるからな!」
「はははっ。また力を高めてから挑むがいい。いつでも待っているぞ」
貴族が逃げるように去り、シルドと呼ばれる男も高らかに笑いながらその場を離れていった。
シルドが離れてから、すれ違うように今度は平民の女の子が二人現れた。どうやら、今回は二体二の戦いのようだ。
―――二体二の戦い。貴族も決して力的には劣っていなかった筈だ。けれども、やはり選ばれた平民の力は強かった。魔法での攻防だったのが、ほんの数分で決着をつけ、淡々としたまま試合を終わらせてしまった。
「っと、最後は俺の番か」
最後の俺の相手は、確実に強い。クレアと同じAクラスという時点でそれは確定だろう。それに、刀というのがどんな風に戦うのか分からない。クレアの時のように魔法と魔法石メインで戦うことも選択肢の一つと考えといた方が良いかもしれない。
「貴方が本当にクレアを倒したのかは、あまり信用出来ません。しかし、申し訳ありませんが、手加減はするつもりはないと思ってください」
刀の女の子が相当強く、期待されているからか、最後の試合では最初とは比べられないくらいに俺に対する罵倒が酷かった。だか、そんな事を気にしている余裕はない。この女の子相手に油断なんてすれば俺は確実に負ける。そんな予感だけが俺の頭の中にはあった。
「へっ。手加減なんて要らねえよ。全力で掛かってきな」
「はい。それでは、よろしくお願いします」
女の子が一礼し、刀に手を掛ける。構えから見れば抜刀術の類いだろう。しかし、さすがにこの距離を瞬時に詰めること――
「―――っ!! っぶねえな!」
「……考え事は良くないですよ」
クレアの時のように少しの油断が俺の命となる所だった。運良く屈んで躱すことが出来たが、あの勢いのまま当たっていれば気絶は免れなかった筈だ。俺の頭上を通り抜ける風がそれを告げていた。
「あぁ、それと、次は当てますからね。今回は当てないであげましたけど」
「そうかよ。それはありがとな」
俺が避けることを想定して最初の一撃を放ってきたということだろう。手加減しないといいつつも、手加減してきたということはそれ程俺は弱く見えたという事だ。
確かに俺はなにかに秀でている訳では無い。だからこそ、俺はあらゆる作戦を立てることが出来る。その強さでどれだけ抵抗出来るかは分からないが、少しだけでも抵抗するとしよう。




