26話 『最速で最高の剣技』
模擬戦闘ルームへと辿り着いた俺たちを待ち受けていたのは、やはり、というべきか罵詈雑言の嵐だった。
平民を蔑むような視線と、Bクラスという実力を疑う言葉。ルイズやケイの姿も見える。しかし、ルイズやケイのように俯き下を向いて何も言わない者は少なかった。権力の弱い貴族ほど俯いている。しかし、どうにもクレアの姿が見えなかった。
「待っていたわ。クロト、貴方ならもう分かっているのでしょう?」
「あぁ。分かってるよ。Aクラスが俺達の相手って訳だろ? そして、俺がお前の相手で良いのか?」
「違うわ。私は貴方とは戦わないのよ。私の相手は、そっちの二刀流使いよ」
「申し訳ありません。貴方様のお相手は私がさせていただきます。クレア殿に勝利したというその実力、お試しさせていただきます」
刀を持った小柄の少女を筆頭に、俺たち以外の平民を相手にする人達が現れた。けれど、Aクラスの紋章を付けているのは二人。クレアと刀の少女。後の人達は全員Bクラスの紋章を付けている。
「おいおい。なんで敢えて俺の相手がAクラスなんだよ。今日はただでさえ頭が痛いんだ。もうちょっと配慮してくれても良くねえか?」
「申し訳ありません。これも学校側が決めた事。しかし、クレアに勝利した貴方を弱者の平民だとは思いません。私も少しばかり本気で戦います」
「ははっ。そうかよ。んじゃ、俺の試合だけ最後に頼むぜ」
「かしこまりました。私も本気の貴方と戦いたい。頭痛の回復及び身体的な回復を考慮し、貴方は最後の試合と致します」
ありがとよ。っと言おうとしたその時、出揃った俺たちに対して、クレアとの試合の日にも出会った先生のアナウンスが聞こえてきた。
『それでは、これより平民の実力検査に並び、本日の授業を始めます! 第一試合の参戦者以外は試合場からの退室を!!』
第一試合の平民は、グレルだった。真剣を使う事は許されないからか、グレルには2本の木剣。クレアには1本の木剣が渡された。
「グレル。クレアの剣の腕は俺もまだ分からない。そして、分かると思うが、負けた平民はおおよそ……」
「そんな心配すんな。クレア様には負ける気がしない。剣の腕だけは、俺は誰にも負けないからな」
「クレアに負ける気がしないなんて、大きくでたな。ま、頑張れよ」
俺を含めた平民がその場から離れ、観客席へと向かった時、グレルの試合が始まった。
しかし、グレルの実力は思った以上にあった。どれ程平民が剣の腕を磨けばあそこまでいけるのだろう。適性がある俺が今までの期間を剣に費やせば同程度までいけたかもしれない。いや、それでも追い付けないだろう。努力の差が違いすぎる。
「貴様。平民の割には剣の腕が達者だな。シンプルな攻撃にして速い。ま、私も速さには自信がある。果たして貴様に付いてこれるかな?」
「余裕だねぇ。さすがはクレア様だ。けど、俺も剣だけは貴方には負けませんよ」
「やはり今年の平民は面白い。まさか私にそんな口が叩けるとはな。驚きだ」
「俺の技はただ一つ。素振りを極めた故に覚えた俺ただ一人しか使えない技。クレア様、試させていただきます」
「良いだろう。受けてやる。『剣盾!』」
お互いに速く動きながら攻撃を繰り出し、観客の目はもはや追い付いていない。第一試合の平民がここ迄クレアと渡り合えるとすら思わなかったんだろう。さっきまで罵詈雑言を飛ばしていた貴族さえも呆然としながら見ている。
しかし、クレアは突然立ち止まり、俺の時にも使った防御の技を使った。グレルもクレアの前に立ち、深呼吸をして息を整えている。今回で第一試合は終わるだろう。
「ふぅ……いくぜ、クレア様。最速にして最高の斬撃を見せてあげます。『妙技 乱れ斬り!』」
両手剣を使用し、ただの斬撃すらも速さを極めたのだろう。両手から4回繰り出された斬撃は、並列世界から同時に斬撃を放たれたかのように、同一時刻にてクレアを襲った。
四方を囲むように放たれた斬撃を避けることは難しく、クレアのような盾を展開しなければ難しいだろう。しかし、グレルの技の恐ろしさは4回の斬撃の後にあった。
「これは見事だ。―――しかし、私には及ばない」
グレルの4回の斬撃はクレアの盾を破壊した。だが、それだけだった。
「まさか全部防がれるなんてね。俺の負けだ」
「いや、私の木剣も貴様も木剣も折れている。この勝負、引き分けだ」
俺には4回の斬撃にしか見えなかったが、クレアの盾を破壊したその後にグレルの技の恐ろしさが判明した。グレルは合計で同一時刻にて7回の斬撃を放ったのだ。四方を囲む斬撃の中心を円弧を描くように3回の斬撃が襲う。
確かにこれ程の腕があれば、クレア相手に大口叩けるのも納得が出来る。しかし、木剣での試合だったお陰で今回は引き分けに出来た。ただ、真剣での試合ならばグレルが引き分けに出来たかどうかと聞かれたら、俺には到底分からなかった。




