24話 『全員同じ』
剣の試験場に辿り着くと、丁度グレルの試験が始まっていて、グレルの実力を少し見ることが出来た。
「それでは、グレルさん。あの的を出来るだけ本気で斬ってください」
試験官の合図の後にグレルは動き出し、目で追うのがやっとな位の速度で動き出した。手に持っているのは、俺やクレアとは違い、2本。いわゆる二刀流というやつだろう。
だが、右手と左手に明確な威力の差がある訳でもなく、1回だけ的に対して行われた斬撃は、見事に的を斬り裂いた。
クレアと直に剣でやり合っていないから分からないが、剣を振るスピードはクレアに劣るものの、足の速さはクレア以上の可能性もある。きっと、数少ない平民の人達は才能に優れているのだろう。
グレルの時はつい見入ってしまったが、その後の貴族達の剣技は特にこれといって見所がある訳でもなく、俺も普通に的を斬って終わらせた。
「ふぅ。あとは付呪の試験だけか。こう見ると、3つの試験を受けてるの俺だけっぽいな」
辺りを見渡して確認するが、適正によって出来ることが限られてるこの世界において、3つの試験を受けている人は俺以外に存在しなかった。
だからこそ、こうして付呪の試験を受ける時にも試験官にホントに出来るのか疑われてしまうのだろう。
「それでは、この魔法石になんでもいいので魔法を付呪してください。出来次第によって、あなたのクラスを総合評価し判断します」
まるで俺が出来ないのに試験を受けてるかのように思っているのか、馬鹿にした態度を示す試験官に対し、俺は質の悪い魔法石にも関わらず、中級の雷魔法『雷撃』を付呪した。本気を出せば上級も出来るが、そこまで頑張らなくても大丈夫な筈だ。
「ほぅ。これは中々ですね。まさか付呪もこれ程出来るとは。驚きですよ。おめでとうございます、貴方は3つの試験を総合評価し、Bクラスとなりました」
この学校のクラス分けには、実力に応じてAクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラスと分かれている。その中でもBクラスとなれば中々の成績と言えるだろう。
「はぁ。ありがとうございます」
「Bクラスは平民のなれる最高の評価です。Aクラスとなると貴族になるか、校長に認められるかしかないですので、学校卒業までBクラスに居れるよう、貴方の頑張りに期待致します」
どうして平民はBクラスにしかなれねえんだよ。っと、言いたくなったが、貴族社会になっている冒険者学校で言っても無駄になるだけだ。
「待たせてるしな。さっさと戻るか」
試験官から試験結果表を貰い、俺は3人の待つ場所へと向かった。
「クロト! 遅いわよ!! グレルさんとケイちゃんをどれだけ待たせるつもりよ!!」
「いやー、ホントごめん。3つの試験を受けないといけないし、事前に説明しとけばよかったな」
ルイズは待ってたことに対して怒ってるのではなく、理由を説明しないで2人を待たせてたことに対して怒っていた。
だが、グレルと、ケイと呼ばれる女の子は、待ってたことよりも俺が3つの試験を受けた事に対して興味を示していた。
「クロト! 3つの試験って、お前どんだけ適正あるんだ?」
「うんうん。しかも、魔法は見てたけどそれなりに威力もあったし……もしかして全部適正あるとか言わないよね?」
ケイって子は俺と初めて話す筈なのに、今はグレルと共に食い気味に聞いてくる。
本当はルイズ以外には話さないつもりだったが、ここまできたらさすがに話すべきだろう。
「あー。まぁ、他言はしないで欲しいんだけど、一応全部に適正あるんだよね。ホントに努力すればなんでも出来るって感じ。けどまぁ、結局は全部なんて不可能だし、出来ることも限られるけどね」
「マジかよ! でもすげえじゃん! まぁでも確かにその適正は他言しない方がいいな」
「そうね。後々はバレるとしても、今バレれば国の研究機関に強制連行される可能性があるわ。なにせ、全能力適正なんて、今までにない例だもの……」
「ま、クロトが凄いのは分かったわ。とにかく、貴方達の試験結果はどうだったの?」
ルイズとしては俺の事よりもクラスについて知りたいらしく、また、自分のクラスを一刻も早く言いたそうにも見えた。
「わ、私はちなみにBクラスよ! どうかしら!!」
しびれを切らしたルイズが俺たち3人に見えるように試験結果表を見せたが、どうしてこんなにもドヤ顔しているのだろう。
「あ、ごめん。俺もBクラスだわ」
「あ、俺もBクラスだ」
「私もBクラスだよ?」
「え、ええええぇぇぇぇ!! 嘘でしょ!? 私が自慢げに見せびらかしたのが無駄になったじゃない! ……はぁ。まぁいいわ。皆Bクラスならそれはそれで良いし、お祝いにご飯でも行かない?」
「それもそうだな! 王都でのご飯も食べてみたいしな!」
グレルもケイも王都に来たばかりらしく、王都でのご飯を食べてみたいようだった。
何処に行くかはともかくとして、俺達は冒険者学校から離れてご飯を食べる良い場所を探しに向かった。




