23話 『態度の違い』
ルイズと共に寮へと向かったが、行く途中でも冒険者学校に入学するであろう人達と何度もすれ違った。どの人もあからさまな貴族という感じであり、ルイズへと挨拶はするが、俺への挨拶は一切なかった。
「なんかこうも無視されると辛いものがあるな」
「大丈夫よ。きっと分かってくれる人も居るし、それに、私が居るから問題ないわ」
「将来の冒険者仲間作りたかったんだけどなぁ。ま、確かにルイズさえ居れば大丈夫か!」
「あ、あ、貴方ね! そういう言葉は簡単に使わないのよ!!」
寮は5階建てであり、俺達は5階の部屋にあった。なにやら叫びながら走ってしまったルイズを追いかける為に、階段を使っているのは良いものの、なんていうかどいつもこいつもすれ違う奴ら全員がキラキラした防具や武器を装備していて、本当に貴族達の世界なんだなという事を再認識出来た。更には、ルイズが居なければ俺は更にゴミを見るような目で見られるという知りたくない事まで分かってしまった。
「なぁルイズ。頼むから離れないでくれ。1人になったらいつ何されるか分からねえよ」
「あ、あなたが悪いんでしょ! ……ま、でも、冒険者学校が始まればまた色々変わると思うわよ。実力があればそれなりには認められるだろうし―――」
「―――ほぅ。貴様も私と同じ階層の部屋だったか。えっと、クロトだったか? これからは同じ階層の仲間として頼む」
ルイズの肩を叩き、喋るのを中断させたのは、ついさっき戦ったクレアだった。最初に会った時とは段違いに対応が変わっているが、これも模擬戦のお陰だろう。
「お、おう。こちらこそよろしくな!」
「ふっ。貴様の性格は中々のものだな。冒険者学校でも同じクラスになれる事を祈っているよ」
さっきまで着ていた鎧ではなく、普段使い用のドレスを身に纏っていたクレアはルイズにも耳元でなにかを囁いてから去ってしまった。
「さてと、俺達も早く部屋に行こうぜ」
「そ、そうね! クレア以外はまだ来てないみたいだし、挨拶は冒険者学校始まってからで良いと思うわ!」
クレアからその情報は聞いたのか、ルイズは足早に部屋へと向かって歩き出してしまった。一体クレアはルイズに何を囁いたのだろう……
それから、数日間は特にこれといって大きな問題もなく、魔法石の補充や、武器と防具の手入れ、それとクレアと話したりと、冒険者学校が始まるまでは何も起きることはなかった。
ただ、クレアと話しているとルイズが少し不機嫌になったり、クレアが必要ないという何も付呪されてない魔法石をくれたりするとルイズは更に不機嫌になっていた。
しかし、クレアのくれる魔法石は貴族が使うものだけあってか、質もめちゃくちゃ良いし、貰えるのなら貰っておかないと勿体ない。
「なぁそろそろ機嫌治せって。このままだと試験にも影響出るぞ」
「試験は大丈夫よ! 私の魔力はむしろ高まってるんだから!」
「おいルイズ! 前!」
「はっ? ―――あ、ごめんなさい。見てなかったわ……」
俺の忠告は意味を成さず、ルイズは小さい女の子とぶつかってしまった。腰には刀をぶら下げていたが、身長的に俺たちと同じ年齢だとは思えない。
そんな女の子は、ルイズが謝ったのを聞くと、少し頭を下げてから走って行ってしまった。
「だから機嫌治せって言ったのに……」
「うるさいわね! とにかく、これ以上貴方は学校では調子に乗らない事! 」
「ってか、 冒険者学校って女の子の比率高いんだな。男が数える程しか居ないんだが……」
「全く私の話聞いてないわね……はぁ。女の子が多いっていうのには理由があるのよ。そもそも―――」
「―――ルイズ! 説明は良いから早く行かねえと! 試験始まるっぽいぞ!」
女の子が例え多くとも、数少ない男もいる。俺はそいつらと仲良くなればいいだろう。女の子が多い理由なんて特には気にしない。
それよりも、今から始まる冒険者学校のクラス分け試験の方に俺の意識が向いた。
「へぇ。明日も試験日程なんだな。今日は……」
「―――今日は魔法の威力や適正、それに武器を使う人なら、どの程度扱えるか、最後にこれは少ないだろうけど、付呪がどれくらい出来るか、だね。明日の試験は今日の試験で特に優れた人のみらしいよ」
「お、お前、突然なんだよ。ビックリするじゃねえか」
どうしてクレアといい、俺の後ろに急に立った男といい、冒険者になろうとするやつは背後から急に話しかけてくるのか。
いや、気配に気付けなかった俺が悪いのかもしれない。
「僕の名前はグレル。寮の階層は君と同じの5階。それに、僕は平民出なんだ。君もそうなんだろ? あ、ちなみに、君の同室の女の子と今楽しそうに話してるのが、僕の同室の女の子だよ」
こいつの話を聞く限り、悪い奴ではなさそうだし、むしろ俺と同じ境遇の仲間だろう。俺はルイズという地方の貴族に付いてきたが、このグレルという男も同じで、俺も知らないような村の貴族の女の子と一緒に来たらしい。
「そうなのか。平民出は少ないしな。こちらこそ宜しくな! それで、なんでお前の所の女の子とルイズはあんなに仲良くなってんだ?」
「さぁね。もしかしたら知り合いだったんじゃないかな? 話も長引きそうだし、僕達は僕達で試験を受けに行こうか。君の実力も少し気になるしね」
「んー、それもそうだな。んじゃ行こうぜ」
知り合ったばかりのグレルと共に、俺は試験会場へと向かった。試験会場は3つに分かれているが、俺の場合は全部の試験を試してみたいからこそ、時間が掛かってしまう。もちろん、後から来たルイズは魔法のみの試験を希望していたし、グレルは剣だけを希望していた。みんながみんな、俺と同じように3つ受けるとは限らないみたいだ。
「それでは次! あの的に初級魔法を撃ってみろ。貴様は志望が多いみたいだからな。どうせ弱い魔法しか使えないのだろう?」
俺のプロフィールを見て平民という事を理解したのか、途端に他の人と態度が変わってしまった。その変貌っぷりにはむしろ凄いなと感心してしまうくらいだ。
「別に使えないわけじゃないですけどね。それじゃ、いきます。『ウィンド・カッター』」
的を破壊する程度では詠唱するまでもない。現に、俺の魔法は的を真っ二つにしている。もちろん、まだ剣と付呪の試験もあるからこそ、俺のクラスはまだ判明していなかっま。
「無詠唱で破壊……ま、まぁ良い。次は魔法適正だ。水晶に触れてみろ。もちろん、どんなに適正がなくても口外はされないから安心するといい」
「はぁ。まぁそれは助かります」
むしろ口外されないのなら俺にとっては嬉しいだけだった。ルイズを待たせないようにさっさと試験を済ませたい俺は、水晶に手を置いてから、なにか言いたそうな試験官を無視して剣の試験場へと向かった。




