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1話『死神』

「おーい! 起きてくださーい! 早くしないと殺しちゃいますよ〜?」

 たまにしかない休日を折角ぐっすり寝ているのに、人を挑発するかのような声が耳元から聞こえてくる。


「酷いですね〜。挑発なんてしていないのに〜。ま、とにかく考える暇があるなら早く起きて起きて!」


「……ちっ。うるせえんだよ。こっちは散々働いてんだから寝させるよ」

 イライラしながら目を開け、イラつきを抑えようとタバコを手に取ろうとするが、いつも置いてある場所にタバコは置かれていなかった。というよりも、辺り一面が何故か真っ黒な先が見えない空間になっていた。


「はい!起きましたね! えーっと、『不知火 黒兎(しらぬい こくと)』さん? かな? まぁ名刺? でしたっけ。これを見る限りそうっぽいので黒兎さんって呼びますねー!」


「あ? 誰だよお前。ってかここどこだよ」

 なんだこの人が不機嫌な時にムカつく喋り方する奴は。

 それにタバコもないし、どこに自分が居るのかも分からねえし、2度寝しようにも何故か眠気が吹っ飛んでるし、イラつく事しかない。こんな奴にイライラをぶつけても仕方がないが、俺を起こしたのはこいつだし、人の名刺見てるし、……って、名刺!?!?


「あ、あの、すいません。俺、もしかして取引先で寝ぼけてした? あはは。良くないですねー。普段からあんまり寝てないからかなー? いやー、ホントにすいません」

 会社の会議すら出た覚えはなく、取引先に来た覚えはないが、俺の名刺をマジマジと確認しているのを見るに、会社関係の人である可能性が高い。


 ……だが、正直目の前に居る真っ白な服を着た小さい女の子なんて会社の取引先の人の中に居ただろうかという疑問もある。というか、そもそも本当にここは何処なんだろうか。


「あ、えーっと、あなたはまだ色々理解してなさそうなので、単刀直入に言いますね」


「はい。申し訳ございません。お願いします」

 ここに来てからの記憶が殆どないからか、何を理解していないのかハッキリと分からない。だからこそ、下手に出て説明してもらわないといけない。


「『貴方は死にましたっ!』」


 「…………は?」


 「いやー、そんな不思議そうな顔されても困りますよ。そもそも、あなたも覚えているでしょう? あの最後に見た優しいオッサンの顔を」

 オッサンの顔? なんだそれは。会社関連の人なら大体顔は覚えているが、優しいオッサンなんて見たことも……ん? あれ?


 「思い出してくれましたね! そうです! 貴方は会社に行く前にトラックに轢かれて死にました! それも、自分の足で道路に出て轢かれたんですからね! 暑さにやられていたとはいえ自業自得ですっ!」


 「あぁぁぁっ!!!そうだった! やべえっ! こんな所で話してる場合じゃねえ!会社行かねえと! 会議に遅れちまう!!」


 「いや、だから、貴方は死んだんですよ。会社もなにもありません。あなたが根っからの公務員? というのは分かりましたから、1回会社のことは忘れてください。そして、死んでるということを受け入れてください」

 正直、目の前に居るこいつが何を言っているのか理解し難いが、とりあえず俺は会議に急ぎ足で向かっている間に死んだらしい。

 ん? って事は、俺はもしかして会社にもう二度と行かなくて良いのでは?


 「なぁ、俺は会社から解放されたのか?」


 「えぇ、まぁ一応そうですね。ただ、その代わりにまた違う世界で頑張っていただきますけどね」


 「やったぁぁぁぁぁ!! あのクソ会社から解放された!! それだけで俺は最高だ!! ありがとう! 本当にだれかもわかんないけど、君に感謝する!!」


 「はぁ。まぁどっちでもいいですが、人の話聞いてます? 貴方はこれから違う世界に行くんですよ? それと、私は一応死神ですからね。あんまりウザいともう一度殺しますよ?」


 「あ、はい。なんかすいません」


 「まぁ分かってくれたならいいです。それじゃ、本題に入りますよ。黒兎さん。貴方は死にました。それは理解出来ましたね?」


 「はい。とりあえずは理解してます。なにやら死んだらしいですね俺は」

 自分の頭の中ではあまり理解出来ていないが、あの日死んでブラックな会社に行かなくても良いという事実から俺はもはや自分が死んだとかどうでも良くなってきていた。


 「少しは理解したならそれでいいです。それで、貴方はこれから日本とは違う異世界に転生します。もちろん、私からも少しは力を与えますが、今回貴方は名目上、私たちの中では『自殺』と認定されているので、限りなく弱い力が与えられると思います。そこら辺も理解してください」


 「はぁ。まぁ大体分かりましたけど、その、『異世界』ってなんですか? アニメとか、ファンタジーの世界っていう認識でいいんですかね?」

 突然異世界に転生させると言われても正直ピンとこない。違う世界に行けるのは少し楽しそうだが、日本と殆ど変わりない世界でもう1回同じような道を辿れと言われたらそれはそれでめんどくさい気もする。


 「うーん。そうですね。一応魔法や剣などのある世界ですが、時間や季節、天候など、その他諸々は割と日本に似ていると思ってくれて大丈夫です。まぁ剣と魔法があって、モンスターとかもいる変わった日本と思ってください」

 いや、剣と魔法、それにモンスターも居るとかもはやそれは日本じゃないだろっ!って突っ込みたいが話がまたこじれそうな気がした俺はとりあえず黙って聞いておくことにした。

 それに、何となくそっちの世界で暮らすのも楽しそうな気もしてきたし。


 「それで、俺はその世界に転生して何をすれば良いんですかね?」


 「あぁ、特にないですよ。自由に暮らしてください。魔王とか勇者とかも存在しますが、基本的には貴方はそこら辺の平民とあまり変わらないように転生させますし、特に私たち死神からの使命とかはないですね。干渉とかもする気ないですし、有名になりたればご自由に鍛えれば良いですし、のんびり暮らしたいのなら適当に暮らしてください」


 「の、のんびり暮らせるのか!! そんな嬉しいことが出来るなんて! ……あ、そういえば今の記憶とかはどうなるんだ? 出来ることなら俺は引き継いで転生したんだが」


 このなんの楽しみもなく、ただただ疲れきった生活を強いられていた記憶があれば、新しい世界でのんびり暮らす事にも嬉しさというのが出てくる。それに、案外モンスターと戦ったりするのも楽しくて、日々のストレス解消とかにもなりそうだし、是非とも記憶は引き継いでおきたい。


 「はいっ! それなら特に大丈夫ですよ! 初めからそのつもりですし! 喜んで下さりこちらとしても嬉しい限りです! それでは、そろそろお時間なので転生致しますね!」


 「お、おう。急だな。まぁ了解した。俺は目でも瞑ってれば良いのか?」


 「はい。目を瞑っていて頂ければ次に開けた時には新しい世界ですよ! もちろん、異世界での言語や読み書き等も諸々は覚えやすくしときますのでご安心くださいね!」


 こうして、どんな能力が俺に対して授けられるのか全くもって分からないままに俺は異世界へと転生した。

次の更新は夕方ですよ〜

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