12話『初めての魔石』
ポイズンフロッグは先に食べやすい方を狙っているのか、魔法を詠唱しようとしているルイズへとその長い舌を向けていた。
「させるかよ!【シャドウ・チェーン!】」
ポイズンフロッグの舌が伸び、ルイズへと当たる前に俺の放った拘束魔法が舌へと巻きついた。俺の影から出てきた実体のないモヤモヤとした霧のような鎖だが、ポイズンフロッグの攻撃程度ならなんとか防げている。
「ちょ、あんたそんな魔法まで使えるの!? ずるいわ!!」
「うるせえ! 良いからさっさと魔法を使え!」
舌を封じられたポイズンフロッグは鎖の力に抵抗するように舌へと力を込めているが、一向に鎖が外れる気配がない。
だが、それと同時に俺も油断して動く訳にもいかない。ただでさえ俺の影を使った魔法であり、今俺たちのいる場所は太陽が届きにくい。変に動けば太陽が遮られ、俺の影が消えてしまう。
「ルイズ! お前の魔法と同じタイミングで俺も動く! ……そ、それと、そろそろ魔法が相手に解かれそうだから早めに頼む!!」
「わ、分かってるわよ! ────よし、もう大丈夫よ!!いくわよ!【フレイム・カッター!】」
ルイズの練習していた魔法は合成魔法らしく、火の魔力を風の魔力と練り合わせて上手く調和させないといけないことから、魔導書でも難しいと書かれている。
冒険者になる前から少し詠唱に時間が掛かったが、使えるというのは将来的にもルイズは有望だろう。
「ちょっと! 私の魔法に対して動くんじゃないの!? 早く行きなさいよ!」
「お、おう! すまん! ちょっとお前の魔法に見蕩れてたわ!」
「そ、それなら仕方ないわ!」
少し動くのが遅くなったが、ルイズの【フレイム・カッター】はポイズンフロッグの最大の攻撃手段である舌を燃やし切り裂き、勢いは止まることなくポイズンフロッグへと直撃した。
だが、カエル系モンスターは体の表面がヌルヌルしていることもあり、風の力で切り傷は作れても、炎の力は上手く働いていなかった。
「後はこれで終いだな。我が剣よ、万物を断ち切る力を宿せ!【豪破斬!】」
父親から新しく貰った鋼鉄製の剣を初めて使い、俺はポイズンフロッグを上から両断した。
新品ということと、普段使ってた鉄よりもいい素材の剣だからか、途中で剣が止まることもなくモンスターは真っ二つになって息絶えた。
「さて、こいつの死体はどうっすかな」
真っ二つになったカエルのどこが素材になるとかは今の俺達には分からない。といっても、このまま放置すれば腐って環境を破壊する可能性もある。
「魔石だけ持っていきましょ。そうすればあとの処理はここに居るモンスターがしてくれるわ」
「そうか。んで、魔石ってどの辺りにあるんだ?」
一瞬モンスターでもカエルだけあって食べられんじゃないかと思ったが、さすがにルイズも嫌がるだろうし、そこまで食料は枯渇もしていない。
今回はルイズの言う通り、他のモンスターの食べ物にするという形で大丈夫だろう。
「そうね。心臓部が基本だけど……」
俺は無言でルイズへと小さいナイフを手渡した。もちろん、俺が解体したくないとかそういう理由ではない。分かってる人がやった方が早いからだ。そう。決して、やりたくないとかではない。
「なに!? 私にやれっていうの!? 貴方がやりなさいよ!」
「ばかっ! 大声出すな! 他のモンスターが襲ってくるだろ!」
現に、ポイズンフロッグの死体を狙って他のモンスター達が陰から狙っている。
大声を出してしまい、更にモンスターを呼び寄せた可能性がある以上、もはや嫌とは言ってられない状況だろう。
「分かったよ!俺がやるよ! 」
「そうよ!それでいいの! 魔石の場所は教えるから手っ取り早くやるのよ!」
ルイズの言葉にナイフを片手に持って「はいはい」と呟き、俺はポイズンフロッグへとナイフを突き刺した。
解体などしたことはないが、幸いにも両断された面から心臓部が近いこともあって、すぐに魔石を取り出すことが出来た。
「へぇ。綺麗な魔石じゃない」
今回はたまたま紫色の綺麗な丸い形の魔石だった。そんなに大きくはないが、欠けたり、変な形をしていないからこそ初めての魔石にしてはとても良いものだろう。
「さ、早くここから抜け出すぞ」
「えぇ! そうね。それがいいわ!」
今にもモンスター達が襲ってきそうな中、俺達は走り出した。
もちろん、ポイズンフロッグがその後どんな風に食べられたのかは知る由もない。
また次回もお楽しみに!




