10話『難所への到着』
テントを張ること自体は、お父さんに教えて貰っていたからかそこまで苦労せずに張ることが出来た。
だが、料理の方が問題だった。
テントをなんとか張り終え、中に1度入り、広さを少しだけ体験してからルイズの元へと行ったのが、なんとも予想していた通りの事が起きていた。
「な、なぁ、一体何を作ってるんだ?」
「なによっ!! 見てわからないの!? シチューよ! 見れば分かるでしょ!?」
いやいやいやいや。見れば分かると言いますが、きっとこれは誰が見てもシチューとは思わないはずです。なによりも、ホワイトシチューなら分かるのだが、ブラックシチューなんて見たことも聞いた事もない。
「そ、そうか! そうだよな! けど、なんかシチューにしては少し黒くないか?」
「……ふむ。それもそうね。ならこれを入れてみましょ」
「ちょ、ちょ、ちょーっと待った!! ルイズ! お前今何入れた!? なぁ!」
「なに、なんなの!? そんなに近寄らないで! 危ないでしょ! 普通にゼラチンを入れただけじゃない! これできっと白くなるわよ!!」
……終わった。今日の夜ご飯は確実に死を覚悟しなきゃいけない。なにが悲しくて俺はゼリー状になったシチューを食べないといけないんだ。
というより、どうして日本にもあったような食材や調味料、料理があるんだよ……
「あら。色が変わらないわね。まぁいいかしら! さ、ご飯にしましょ!」
「───────待て。丁度ピッタリ俺はお腹がいっぱいなんだ。先に食べててくれないか?」
「……えっ。そ、そう。1人で食べるのね……分かったわ……」
なぁ、どうしてこういう時だけそんな寂しそうな顔するんだよ。罪悪感を感じてしまうじゃないか。
だがしかし、さすがに今回ばかりは食べる訳にはいかない。これを食べれば確実に俺は初日から生死を彷徨う事になる。
「ほ、ほんとに食べないのかしら? 」
「あ、あぁ! 今はちょっと要らないかな!」
ルイズは少しだけ俺の顔を見つめた後、真っ黒でもはや固まり始めているシチューを見て、衝撃的なことを呟いた。
「明日用に私も今日は我慢しようかな……ダイエット中だし!」
「ちょーっと待て! な、ルイズ。お前は別にダイエットなんてしなくて大丈夫だ! 問題ない! うん! 大丈夫! だから、大人しく食べような?」
「クロトも一緒に食べてくれる?」
くっ……まさか男が最も弱いという涙目での上目遣いを使ってくるなんて、ルイズのやつ、さては俺に食べさせようと狙って……
「あ、あぁ! そうだな! 食べようか!」
「うん! あ、それと、さっきは褒めてくれてありがとね!」
「お、おう。まぁ事実だしな」
こうして、俺は男として生まれた運命に逆らえず、ルイズの作ったシチューを食べる事となった。
……結果。食べて、飲み込んだ直後から俺の意識は失われた。
「……ん、なんだ、良かった。生きてるのか俺」
「あら。起きたのね。夜ご飯の途中で倒れたからビックリしちゃったわ。それに、私の作ったシチューもクロトが蹴飛ばして食べれなくなっちゃったし」
「そうか! それなら仕方ないな!うん! あ、ルイズ。明日からは俺が料理も作るよ! ルイズは魔法の勉強でもしてていいよ!」
やばい。今日は奇跡的に生きていられたが、正直意識を失っている時に死神がこちらを見ている気がした。だからこほ、これ以上ルイズにご飯を作らせるのは非常に危険だ。
「ふーん。ま、いいわ。あなたの料理も私が確かめてあげる。それじゃ、今日は寝ましょ」
「あ、そういえば言い忘れてたんだが、テント1つしかないし、寝る場所一緒なんだが大丈夫だよな?」
こいつは割と長い付き合いだし、一緒に寝る程度じゃなにも思わないだろう。
「は、はぁぁぁぁ!? なによそれ! 」
「なんだ、嫌だったのか。ならまぁ、俺は外で寝るよ。結界なら安全だしな」
ルイズもやはり年頃の女の子のようだ。さすがに成人した男と寝るなんて恥ずかしくて無理なのだろう。
「べ、別に嫌じゃないわよ!ちょっと驚いただけ!! 良いから早く寝るわよ!明日も歩くんだから!」
「お、おう。なんかすまんな」
2人が寝転んでも充分なスペースがあるテントに俺達は入り、明日のことを考えながら眠りへとついたのだった。




