9話『最初の1日』
ドアを開け、待っているルイズの元へと急いだが、どうやらルイズとしてはもう少し時間が掛かると思っていたらしく、座り込んで道端の花を弄っていた。
「あら、もう良いのかしら?」
俺の姿を一瞥すると、花を弄るのをやめて立ち上がり、俺の元へと近寄ってきた。
「あぁ! 俺の方は問題ないぜ! ルイズの方は大丈夫だったのか?」
ルイズが何故冒険者学校に行くと言ったのかは分からないが、領主としては長女をそんな危険な所へと向かわせるのは良い顔をしなかっただろう。
「えぇ。こちらも問題ないわ。お父様もなんとか許してくれたし、貴方の存在を言ったら、『冒険者の息子が一緒なら問題ないか』と言ってくれたわ。それにしても、少し疑っていたのだけれど、あなたって本当に冒険者の息子だったのね」
領主様と俺の両親はそれなりに仲が良い。ルイズが1人で行くとなれば別だが、冒険者の息子であり、鍛えられた俺も一緒だからこそなんとか許されたんだろう。って言っても、正直装備とかの観点から見れば充分ルイズも強そうではある。
「まぁな。俺の装備を見れば分かるだろ? 大体は親父の当時の装備だよ」
ルイズの綺麗で新品な真っ白のローブと杖などとは違い、俺の装備で新品なのは剣くらいだった。鎖帷子もなんとか新品だが、鎧などは全てお父さんから譲り受けたもの。そこそこ傷んでいるが、使えるものは使った方が良いだろう。
「そうね。けど、なんかそんな装備も中々似合ってるわよ。既に冒険者みたいじゃない」
「おう。ありがとな。ルイズも似合ってると思うぞ」
「な、な、何を言ってるのよ!! 早く行くわよ!!」
思ったことを正直に言い、ルイズを褒めたのだがなにか間違っていたらしく、ルイズは早足で領地から逃げるように歩き始めてしまった。
こうして、領地の人々や、数少ない領地の学校に通う同い歳の人達から見送られ俺と既に少し遠くに行ってしまったルイズは王都へと向かい始めた。
━━━━━━━━━━━━━━━
王都へと向かい始めて初めての夜になり、モンスターとの戦闘もなく平和に俺達は夜を越そうと準備していた。
「やっぱりまだこの辺りにはモンスターは少ないみたいね。出来るだけ経験を積んでから冒険者学校に入りたいのだけれど……」
「まぁそう焦るなよ。どうせ王都に向かってる間に嫌でもモンスターとは戦うさ。それに、モンスターは夜に活発になるから今から襲われるかもしれないしな」
「ちょっと、不吉な事言わないでよ」
「ははっ。すまんすまん」
王都に向かうまでにモンスターと戦い、素材や魔石を少しだけでも入手しておきたい。夜のモンスターは活発で強化されていたりするが、その分魔石は純度の高いものとなる。初日にはさすがに戦いたくないが、王都に着いてからの資金や、武器を作るのに魔石や素材を使う事から夜のモンスターも王都に向かうまでに戦っておいた方が良いだろう。良い経験にもなるだろうし。
「それでなんだけど、貴方はとりあえず周囲を見張っててもらえるかしら? 私は今から結界魔法を張るからその間だけ頼むわよ」
「あぁ。任せとけ」
ルイズは火と風、それ以外にも回復と、希少な魔法である結界魔法というのにも素質があった。
夜にモンスターや野盗に襲われない為にも結界を張るのは必須ではあるが、その分結界魔法を発動している間は術者は何も出来ないというのがネックな所だ。
「ルイズの名を持って詠唱する。我が敵から身を守りし結界をここに展開し、全てから守る盾となれ【シールドバリア!】」
ルイズが魔法を詠唱し、結界を展開し始める。これが完成すれば、夜を超える間程度ならば結界は維持されるだろう。
だが、ルイズの張る結界も耐久値というのが存在する。当然、モンスターや野盗が攻撃を続ければ結界は壊れ、意味を成さなくなる。その為にも、結界が展開された後に俺にもする事があるのだ。
「ルイズ。あとどれ位で展開出来そうだ?」
「そうね。今回は楔を使わない簡易的な結界だし、5分程度で展開出来ると思うわ」
「そうか。それなら大丈夫そうだな」
辺りを念の為警戒し、探知魔法を掛けておいたが、反応する個体は存在しなかった。
何事もなく5分が経過し、俺とルイズを軽く包み込む程度の結界が完成した。
「やっぱり結界の中は安心するわね」
「それもそうだな。中々の広さだし、それなりには安全だしな」
「それじゃ、私はテントを張っているから、後の事は任せたわよ。それと、後でちゃんと私のテント張りを手伝いなさい」
「もちろん。分かってるって。そんなの言われる迄もないさ」
ルイズから離れ、一旦結界から出た俺は、結界に対して隠蔽魔法というのを掛けはじめた。
「クロトの名を持って詠唱する。身を守る結界よ、あらゆる敵から身を隠せ【ミスト!】」
結界を包むように霧が出始め、包み終わると霧が消えてなくなる。けれど、これで簡単な隠蔽魔法の完成だ。
隠蔽魔法は敵からの認識を阻害し、そこにあるはずなのになにもないように錯覚させる魔法だ。今回の隠蔽魔法は中級の魔法故に、上級の探知魔法などによっては見破られたり、魔力の高い人が探知魔法を使うか、高レベルのモンスターや知能の高いモンスターが違和感を感じてしまえばバレてしまうが、ある程度のモンスターや野盗からはこれで結界がバレることはなくなった筈だろう。
「ルイズ。これで今回の結界も大丈夫そうだぞ。それで、テントは……」
ルイズがどれくらいテントを張り終えた見たはいいものの、当然の如くルイズは何一つ出来ていなかった。
「な、なによ!テントなんて張ったことないんだから分かるわけないじゃない!! だからそんな目で見るのはやめなさい!!」
「そ、そうだよな! 俺が悪かったよ。テントは俺が張っとくからルイズは食べ物の準備をしといてくれ」
これ以上ルイズを怒らせるとめんどくさそうな事になると思った俺は、ひとまずルイズにも出来そうなことをやらせ、テント張りを始めた。
「ん? そういえば王都に着くまでの間はルイズと一緒に寝るわけだが……まぁいいか」
ルイズも所詮は俺相手だしなにも思わないだろうと思い、俺は一心不乱にテントを張り始めた。




