極寒から至福ベッド
よーし、着いたぞ!降りてこい。
カンテラを持った若い男性に誘導され、
むくじゃらの象が牽く幌馬車を降りた私達は白雪を踏みしめる。
「ふ、うぇくしゅん」隣でリネアスがくしゃみをする。
「ほらーこっちだよー」
玄関先で少年が手を振り私達を招く。
あまりの寒さに声も出ない私達は無言でついていく。
しかしその頬は興奮に染まり、その瞳は期待に満ちて輝いていた。
とは言えふかふかのスカーフに深く埋めた顔は情報量を与えない。
ほかほかと湯気を立てる熱いクリームスープで手を温めながら一息をつく。
薪がパチパチと爆ぜる暖炉は暖かい。
壁を一枚挟んだ極寒と同じ世界だとは思えないほどに部屋は温もりに満ちていた。
「長旅ご苦労さん。リネアス、アカツキ。ようこそ、我らのキャラバンへ。」
「とはいえもう夜も遅い。いくら我ら狩人の体が頑強であろうと休息は必要だ。
部屋を案内するからもう休むといい。詳しい話はまた明日、だ。」
リネアスが目配せをする。私は承知したと軽くうなづく。
「あのっ。」「ん、なんだい?」
リネアスが私のももをぽんぽんと触る。
「「これからよろしくおねがいします!」」
少し目を丸くした若いお兄さんは微笑んだ。
「色々あるだろうがお前らなら大丈夫そうだな。」
2人は向かい合わせの別々の部屋に案内された。
極寒対策のもこもことした服を脱ぎ
簡素なチュニックとゆるいズボンに着替える。
極寒仕様なのかベッドはふかふかでとっても暖かだ。
「うわっふっかふか。ふっかふか。」
人生の寝床快眠No.1だろう。
おでこまで毛布を被る。
今の心境は期待半分不安半分というところだろうか。
ガチャ。
「アキー」小声で私の名を呼びながらベッドに潜り込んでくる何か。
「リア…」寂しくなっちゃったと微笑む彼女の顔は見えないが
声音でわかる。昔から変わらない。
手をつないで寝るのはいつぶりだろう。
「おやすみね。」リアがきゅっと手を握る。
「おやすみぃ。」私も同じだけ握る。
2人分の寝息が聞こえるまでそう時間を要さなかった。