8 家族で食べよう、おうちごはん 4
建設途中の屋敷は、青い屋根瓦と白い石壁が優美なたたずまいをしている。
「あとは内装と、門だけなんだ」
エドワードが簡単に案内してくれると言うので、好奇心にかられたアイナは、カリンやライアンとともに外回りだけ見て回った。
裏庭は広く、井戸もある。そちらは薬草や野菜を植える予定だそうだ。
「それと、家畜と鶏も飼いたいから、あの辺に小屋を作るつもりだ」
「へ~」
なかなか素敵な雰囲気だ。
「しかし勇者様、こんなに塀が低くて大丈夫なんですか?」
心配するライアンに、エドワードはよくぞ聞いてくれたというように、にやりとした。
「家に財宝を置くわけだから、警備はしっかりしないとな。カリンに相談して、王都と似たような結界を張る装置を導入することにした。こっちは地面の下も対応するんだ」
「なんですか、それ。屋敷に見せかけた砦じゃないですか」
「ま、実質、ここが国境間際の前線だもんな。それに盗賊が心配だし、勇者なんてものをしていると、命を狙われることもあるからな。家ではゆっくりしたいだろ」
勇者の言うことももっともだ。
しかしカリンが関わっていると聞くと不安が残る。
「ええと、その装置ってどういう……?」
恐々とカリンを伺うと、カリンはアイナの額を指でつんと突く。
「心外ね。言っておくけど、私、魔法設計は得意なのよ。魔の山岳地帯ど真ん中で、隠れ里が平穏に暮らしていけているのは、父の魔法設計のおかげなんだから。幼い頃から、村の防衛を任せるって言われていたから、真面目に学んだわよ」
カリンの父親が、平凡なわけがなかった。
「でもやっぱり、魔法は砲撃こそロマンだけど~」
楽しそうにそう言い切ったカリンは、簡単に仕組みを教えてくれる。
「まず、魔石に魔力を補充する仕組みがあって、あとは自動で稼働するわ。で、鍵を持ってる人だけは、結界を自由に出入りできるの。万が一、賊に屋敷に立てこもられても、家の住人は出入りできるから無意味よ」
「補充ですか?」
「そう、魔法陣に指を当てるだけよ。少ない魔力を上手いこと増幅させれば、負担にならないでしょ」
「へ~」
アイナは頷いたものの、理解はあきらめた。そもそもアイナは、誰か近付けばにおいで分かるし、武器や防具の音は耳がとらえる。巣に近付く前に、直接殴りに行くのでなんの問題もないのだ。
「アイナちゃん、とりあえず頷いておこうっていう『へ~』でしょ、それ。魔法に興味ない人は、だいたいそんな感じよね」
「すみません」
「別に良いけど~」
そう言っているが、カリンはちょっとすねている。
「まあ、使えればなんでもいい」
「ですです」
エドワードとライアンの返事も適当だった。
「ええと……それじゃあ、私は帰りますね。魔王様に報告しないといけないので」
「あ、そうだったわね。送ってくれてありがとう。ドラゴンの背に乗せてもらったのって初めてだったから、楽しかったわ」
別れを切り出すアイナに、カリンは機嫌を直して礼を言う。
「私は怖かったです……」
「ライアンは高い所が苦手だもんな。俺も爽快だったぜ。ありがとう、アイナ」
エドワードはそうフォローしつつ、アイナに右手を差し出した。友好の握手だったと思い出して、アイナもあいさつを返す。
「それじゃあ、行きますね?」
「うん」
「いや、ですから、行きますってば!」
エドワードが手を離さないので、アイナとエドワードで手の引っ張り合いになる。
「離れがたい……っ」
「どんだけアイナちゃんが好きなのよ、勇者ってば。やめなさいっての!」
「あいたっ」
カリンにパシーンと頭をひっぱたかれ、エドワードはようやく手を離す。
「巣ができたら会いに行くから」
「はい、分かりました。結果は分かりませんけど、頑張ってくださいね」
引きとめられないように、スススと後ずさりしながら、アイナは彼らに手を振る。そしてドラゴン体へと変化して、魔物の国を目指して飛び立った。
結果として、魔王に苦情を言ったブルードラゴンは呼び出しをくらい、魔王をだますとは死にたいのかと魔王に威圧をかけられて、血を吐きながら謝罪したそうだ。
人間や自然との賢い共存についての勉強を徹底させるように命じられ、ブルードラゴンはすごすごと帰っていったようである。