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7 戴冠式と、黄金苺のミルフィーユ 3



 圧倒されるほどに高い塔を持つ城は、白く壮麗な造りをしている。

 青い布と白い花があちこちに飾られ、華やかな雰囲気だ。

 馬車を降りると近衛騎士の一団に迎えられ、そのまま玄関ホールへと入る。豪奢なシャンデリアが釣り下がるホールには噴水があり、水が静かに流れていた。

 そこで、次期女王自ら出迎えてくれた。


「アイナ、我が友よ! 長旅お疲れ様でした。よくぞ来てくれました!」


 真紅のドレスに身を包んだお姫様が、青い目をキラキラと輝かせて歩み寄ってくる。彼女が歩くたびに、ドレスを飾る宝石や真珠が揺れて、光を弾く。

 お姫様のあまりの可愛さに、アイナはくらっときた。


「……巣にお持ち帰りしたい」

「駄目ですよっ」


 すかさず神官に怒られた。

 ちぇっと思いながら、アイナは旅装のままお辞儀を返す。


「このたびは、貴国の慶事にお招きくださり、ありがとう存じます。皆様、魔物の国より参りました、レッドドラゴン族がアイナと申します。勇者様方のご教示があるとはいえ、文化の違いゆえに間違いを犯すこともあるかと存じます。その際は指摘していただけるとありがたいですわ」


 よそ行きの態度で丁寧にあいさつすると、あちこちから息を飲む声が聞こえた。

 どうやら魔物が礼儀を示したのが意外だったようだ。


「姫殿下、旅装を解いてもよろしいですか?」

「ええ、もちろんです。あなたへ無礼な態度をとる者がいた時は、すぐに教えてください。きちんと処分し、正させますから」


 お姫様はふんわりと微笑んだが、最後は意味ありげに周囲を見回した。

 アイナがマントのフードを下ろすと、頭に生えている二本の角が現われる。


「殿下、こちらが契約書です。魔力を用いた正式なものですから、私は名を聞いても悪用できません。安心してくださいね」


 アイナは周りにも聞こえるように言って、お姫様に契約書を差し出す。お姫様は受け取ると、すぐに内容を確認した。


「ええ、確かに。では改めて、わたくしはリリーアンナ・ジールと申します。どうかリリーとお呼びになって」

「よろしくお願いします、リリー」


 顔と同じで、可愛らしい名前だ。


「姫、我らの立場の保護に感謝します」


 後ろで勇者があいさつすると、お姫様ことリリーは微笑んだ。


「お父様が随分無礼な真似をなさって、こちらこそ失礼しました。勇者といえど、人間ですもの。物扱いするのはどうかしています。どうかこれからはわたくしの友として、たまに顔を見せにいらしてくださると嬉しいわ」


 リリーと勇者が友人として笑みをかわしていると、リリーの後ろから長身の美青年がずいと身を乗り出した。金髪を後ろでゆるく結んだ、白皙(はくせき)の美貌の持ち主だ。だが、こはく色の目は冷ややかである。


「姫。どうか私にあいさつの栄誉を」


 そう言いながら、勇者を疎ましげににらんでいる。


「ええ、許します」

「私はテオドール・クライオンズ。公爵の位を頂いております。先日、姫と婚約いたしました」

「ごあいさつありがとうございます。俺はエドワード・クロスです。婚約とは、喜ばしいことですね。結婚式はいつ頃です?」

「戴冠式を終え、一ヶ月後の予定ですよ」

「どうか姫君と末長くお幸せに」


 勇者が丁寧にあいさつを返す横で、アイナはまじまじと勇者エドワードの顔を眺める。


「勇者さんってエドワードっていうお名前なんですね」

「ん? そういや、まだ名乗ってなかったか」

「うっかりしてたわ。契約書にサインしてもらって、人間の国に入った時点で名乗っていいんだった。アイナちゃん、私はカリン・ナルバよ。砲撃の魔法使いとは私のこと!」


 魔法使い改め、カリンが茶目っ気たっぷりにウィンクする。


「砲撃の魔法使い……。さすが、細かいことが苦手なだけありますね~」

「どういう感心の仕方よ、それ」


 アイナの感嘆に、カリンはうろんげな顔になる。神官の少年もにこっと微笑んだ。


「私はライアン・レーシスです。ライでよろしいですよ、アイナさん」

「分かりました。ライには二つ名があるんですか?」

「え……ありますけど、恥ずかしいので」


 頬を薄らと赤くして、ライアンは目をそらす。すると、勇者が笑いながら暴露する。


稀光(きこう)のライアンだよ。信心深くて、神に愛されて、俺ほどじゃないけど加護もある。子どもの頃は神童とも呼ばれていて、武術にも通じているから、俺の仲間になったんだ」

「ちょっと、やめてくださいよ、勇者様! 私なんてまだまだのひよっこです! 旅に加わったのは見識を深めるためですよ。本気にしないでくださいね、アイナさんっ」


 ライアンが必死なので、アイナはひとまず頷いた。周りもなんだか微笑ましいものを見る空気になる。


「姫様、アイナは慣れない馬車で疲れている。部屋に案内していただけませんか」

「大変。こちらですわ。アイナ、良かったらお部屋で一緒にお茶をしましょ」

「ええ、構いませんよ」


 リリーアンナ姫の先導で、姫の護衛や侍女もぞろぞろと動き始める。後ろをついていきながら、エドワードが思い出したように言った。


「俺のことも、エドでいい。ライアンだけずるい」

「え、ここは私も短くすべきなんですか? アイ? イナ? 人間の作法って変わってますね」

「うーん、あえて縮めるならアニーだろうけど、アイナはアイナでいいと思う。作法じゃなくて、親しい人のことを愛称で呼ぶんだよ」

「ああ、そういうことですか。それならアイナが良いです。慣れていないので、呼ばれても反応できません」


 ただでさえ慣れない異邦の地で、小さなストレスを抱えるのは避けたい。


「分かった。なあ、呼んでみてくれないか?」

「呼ぶ? ……エド?」


 エドワードはぐっと拳を握った。


「ありがとう! 俺、今日はこれだけで生きていける」

「はあ」


 なんて大袈裟な。

 アイナが気の抜けた返事をする後ろから、カリンがエドワードの腕をバチンと叩いた。


「勇者ってば、馬鹿やってないで行くわよっ」

「馬鹿じゃない。大真面目だ」

「どうでもいいわぁ」

「なんだと」


 剣呑な空気になったところで、ライアンが割り込んだ。


「こんな所で喧嘩しないでください。仲良く!」


 一番年下のはずのライアンにたしなめられ、二人は気持ちを静めたが、どちらも不満げな顔をしている。


「なんだか魔法使いさん、ピリピリしてません?」


 アイナがこっそりライアンに問うと、ライアンは苦笑した。


「私もですが、お城は苦手なもので。でも、私達を頼りにしてくださいね」


 にっこりと善良な微笑みを浮かべるライアンに、アイナは頷き返した。


 ・稀光……造語です。「稀なる光」って意味でつけました。

 

 この話、後編にするには分量が多すぎるので、数字分けにしました。すみません。

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