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俺の飼い主 僕の異能力ペット  作者: 一つの装置
怪物獣道ファング 願いを求める500チーム
86/93

81 腕も骨も噛み分ける



ヤモリが倒される少し前、サシミとソウルの戦いは中盤戦に向かっていた。


「触れた部分を磁石に変える異能力ペット。追尾でも、張り付いているわけでもねぇ。引き合ってただけなんだな!」

「・・・うん・・!」


能力が磁石であることがわかったサシミは口角を上げ、ソウルを睨みつける。


「ならぁッ!」


拳を怪物化させると、ソウルが触れた部分の木を殴り、削り取った。


「部位だけが変化するんだったら削り取りゃあ自由だ!ボケガァァ!」

「・・・・・」


木の破片はサシミの腹にくっついたままだが、先程まで木に固定され、身動きが取れなかったサシミは自由に動けるようになった。少しよろけ腹を叩くと、真後ろのソウルに殴りかかる。


「候補の右腕を肉に・」

「ゴフッ!」


ソウルが呟くとサシミの右腕が腹にくっついている木の破片にぶつかった。ソウルがサシミの右腕を磁石に変えたのだ。腹に凄まじい痛みの衝撃が走り、体勢を崩す。自身で自身の腹を遠慮なく殴ったのだ。痛いに決まっている。


「引き合う力も、魂は変えられる・・浅いな・・」

「ドフっ!」


間髪入れずに、ソウルが頰を蹴り上げる。まともに攻撃を喰らい、サシミは真横に吹っ飛んだ。


「木を解除」

「ガァァーーーッ!!」


またソウルが呟くと、くっついていた木の破片はただの木に戻った。すると腹と腕をくっつけていた間の磁石であった木がなくなり、同じ極である腹と腕は反発しあった。腹は押し込まれ、腕の関節がメキメキと嫌な音を立てる。


「・全て解除・・・・・・・さぁ、どうする?この後は・・」

「ガァァァァァァァァァァ!!決まってんだろうがッァァァァァァ!」


ソウルの能力が解除された腕は動かすことができず、だらんと重力に従い垂れている。尋常ではない痛みが、その腕を襲っているが、サシミは歩みをソウルに向けて進めた。


「テメーを・・ぶん殴るんだよ!」

「心の配より戦いか。好敵手ポイント10点を加える・・」


よろける足取りでソウルに近づくサシミ。怪物化させた左拳がソウルの頰に迫る。


「グルァァッ!」

「・・・・」


しかし、動きが鈍いサシミの攻撃は当たることはなかった。ソウルは身体を低くし、拳を避ける。


「勢いだけか・・・5点減「なんちゃってぇぇ!!」ッ!」


攻撃を透かした拳の怪物化を解除すると、サシミはゲスい顔で鼻を鳴らし嘲笑った。その様子を不思議に思い、ソウルが顔を上げるとサシミの股下から何かが目の前に向かってきた。


「グフっッ!!」


それはソウルの顎にあたり、後ろに軽く吹き飛ぶ。


「初めてだがうまくいったな・・・全身痛ぇがいい気分だ」

「それって・・・・」

「うぉぉぉ!!でっかいでちゅ!!」




『怪物化 尻尾』



ソウルを吹き飛ばしたものの正体は、サシミの怪物化した尻尾だった。通常の尻尾より遥かに長く太い。素早く股下に自身の尻尾を通し、不意をついてソウルの顎に先っぽを突き出したのだ。


「・・・やるな・・10点・・加える」

『候補の腕を剣に、魂を盾に』

「ぐぅっ!!」


ソウルは起き上がり、こちらに歩みを進める。地面を蹴り上げ浮き上がったと同時に能力発動の言葉を呟く。するとソウル自身と、サシミの腕が磁石に変わった。サシミの動かなくなった腕は自由を奪われ、ソウルの元に引きずられていく。ソウルもハサミを前に構えながら同じく空中で素早く近づいてくる。


(クソ!また来る!やるしかねぇ!!)


ソウルに向けてピンと伸びている腕に顔を近づけるサシミ。口を大きく開けて自身の伸びている腕に噛み付いた。


「ーーーーーーーーーッ!」

「ッ!?」


牙に力を込めると自身の腕を、骨もろとも噛みちぎった。血が断面から心配になる程噴き出る。


「サシミ!?」「何やってるんでちゅか!あの馬鹿は!!」


驚きを隠せない禎達。ちぎられた腕は磁石になっているのでソウルに近づいていく。血しぶきがソウルの顔にかかる。


「解除!」

「グゥッ!ガァァァアア!!」


能力を解除するとその動きを止め、腕もその場に落ち、辺りに血が飛び散る。サシミはというと、声を荒げながら鋭い爪でソウルに触れられた部分の腹の皮をえぐりとった。歯を食いしばり、汗をかきながらやってやったという顔でソウルを見やる。


「木と同じだ・・!削り取る!噛みちぎる!俺の思い通りにならない身体なんていらねぇ!」

「いいぞ・・!なんという自己犠牲の選ぶ択!好敵手ポイント20点加える。そして10点、減だ」

「あ・・?」




『木を陽に、候補の尾を隠に』

「何ッ!?」


サシミの尻尾が浮き上がり、真後ろの木に向けて引っ張られていく。それに伴い、サシミの身体も引っ張られる。


「やるなら最の後まで行うものだ。可能性全て」

(クソっ!あの時に触れられていやがったのか!?)


サシミは地面に片手の爪を立て、動きを止めようとするが、ズルズルと少しづつ引きずり込まれていく。その様子を見つめながら、ソウルはハサミを振り上げながらゆっくりと近づいてくる。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ううぅぅ・・・まだかな、ソウル・・・・」


そんな中、草むらの後ろでは蒼がソウルに言われたことを律儀に守り、未だに座ったまま目を瞑っていた。すると蒼の肩を何者かがチョンチョンと叩いた。


「ソウル、終わったの・・・?」


蒼は肩をビクッと震わし、一息吐くと後ろに振り向いた。




「呪呪呪殺・・・」

「ッーーーーー!!」




するとそこにはマスクを被り、赤ん坊から完全復活を遂げた火星ちゃんがゼロ距離で佇んでいた。蒼は声にならない叫び声を上げた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「グッ!?」

「っでぇっ!何が・・・起こった・・」


ハサミが迫る次の瞬間、サシミの尻尾の引き込まれる違和感がなくなり、地面から爪を離した。ソウルは身体全身に痛みが走った。突然何が起こったのかその動きを止め、視線を蒼に向ける。


「ハ・・・・・ハハ・・」

「呪?」

「・・・・ノミの・・心の臓」


蒼は白目をむけ、気絶していた。火星ちゃんは何が起こっているのか分からず首を傾げ、気絶した蒼をつついている。


「マーズ!?忘れてた!」

「あそこにいたんでちゅね!というか、あの子気絶してるでちゅ!!能力が消えたんでちゅ!」

「「呪呪殺呪殺!!」」


ソウルが能力でなんとか繋ぎ止めていた骨が、蒼が気絶したことにより解除され、骨にヒビと痛みが走る。万歳と火星ちゃんはそんな様子に空気を読まず、謎の言葉を発した。


「気を取られすぎた・・全く・・・すまない、主・・・・・近すぎたな・」

「で?どうすんだよ。テメー」


するとサシミゆっくりと体を起こし、冷や汗をかいているソウルを睨みつける。


「仕切り直し・・・だ・・魂の主の目が覚めるまで、そのボロボロの体を休めろ・・腕も止血してもらえ・・」

「ありがてぇな・・じゃあそうするか・・・」


サシミは噛み切った腕を押さえながら、ソウルに背を向けた。同じように、ソウルも蒼の元に歩みを進めたその時、


「ゴバッ!!」

「嘘じゃボケガァァァァァァァァァァ!!」


サシミの怪物化させた拳がソウルの背中をぶん殴る。ソウルはクルクル回転しながら蒼の倒れている草むらの中まで吹っ飛んだ。


「ずるっ!」「最悪最低な不意打でちゅ!!」「ひどーい」「呪呪」

「やかましいぞ!!俺の戦い方に文句つけんな!近くにいたアイツが悪いね!外野は黙ってろ!」


禎達は先程のサシミの行動に口を揃えてブーイングをしたが、サシミはその様子にムカつき、指を下に向けた。


「聞こえてるかサソリ!今の拳でいい分だ。そのまま飼い主を連れて逃げても構わねぇぜ・・・でもな、もしまだ戦う余力があるんならよぉ・・・・俺と今すぐ戦え。必ずな!」


すぐさまその指をソウルの消えた草むらに向けて、そのまま拳を怪物化させた。草むらが小刻みに揺れているのがわかる。


「まだ出会って一時間も経ってねぇけどよ、俺はお前が嫌いって自分で確信してる。だがな・・・楽しいんだよ。強いテメーとの勝負は心が躍る。また両者万全の状態で一から戦いたいって思ってるし、今すぐにでも嫌いなテメーをぶっ飛ばしたいとも思ってる。だからテメーが選べ」


草むらが揺れ、数秒の静寂が訪れた次の瞬間、


「魂がここで逃げると、本の気に思ったのか・・・」

「思ってねぇよ・・・だから嬉しんじゃねぇか!」


草むらの中から、甲羅に亀裂が走りまくっているソウルがマフラーを巻き、現れた。ソウルは瞳を光らせ、サシミは噛み切った腕から血を垂れ流しながら笑みを浮かべた。









次の一撃で、この山最後の勝負が決まる。








残り・401チーム







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