76話 月夜に首を切られる
よろしくお願いします!
お久しぶりです!
まだ寒いですはい
「好敵手・・?候補・・?何じゃ、それは・・?」
「好敵手・・・つまりはライバル。共に力を認めあい、己の命をかけて戦い、そして時には協に力する。それが魂の探している好敵手・・・好敵手を見つけた時、魂の道は広がりそして始まる!お前達が魂の好敵手かどうか・・・それを今から決める。100だ!魂と戦って好敵手ポイントを100ポイント集めた者が魂の探している好敵手・・・・だ!クッ・・・・!」
「う・・・っ!」
ソウルは奇怪なポーズをとり、将也を踏みつけながら銀を見つめた。足でぐりぐりと体重を加えている。
「今まで戦った候補達は好敵手ではなかった。抵し抗うこともできずに気を絶っていった。だがお前達はあの時の候補達とは違う。ここまでこの山で戦い、生き残っているのだ。確に!実に!お前達の中に、魂の好敵手はいる。楽しみだぞ!好敵手の能の力を見るのが・・・な!」
(此奴・・マサヤを・・・踏みつけおって・!)
唸り声を上げている将也を一瞥すると、今度は自身の真後ろに目を光らせた。
「やっと・・・来たか・・・」
「ホ・・ウ・・・?」
「紹に介そう・・・魂の主だ・・」
「ヒィッ!」
すると草むらが信じられない程揺れた。全員の目線がその草むらに移る。顔だけ出したソウルの飼い主は、青髪のツインテールで整った人形のような顔立ち。左目には眼帯をつけており、チラリと見える服装は黒を基調としたゴスロリであった。
「姓を七村、名を蒼。目は気にするな・・・全てを見て通す邪な瞳。生まれつき、選ばれた瞳なの・・・だ」
「えと、ソウルゥゥ・・・」
震えた弱々しい声で顔を真っ赤に染めている。手をアタフタさせながら、何かを訴えようとしているようだった。
(絶対違う・・・)
(ゼッテェ違う・・)
(カッコいい・・)
「カッケェでちゅ!!」
「フン!」「あうぅぅ・・・」
万歳とハリちゃんが目を光らせながら蒼を見つめると、顔から煙が出て、ゆでダコ並みに赤くなっていく。ソウルは飼い主が褒められて気分が良いのか鼻を鳴らす。
「うぅ・・・・・」
「マサヤ!」
「覚めたか・・脳が・・」
ソウル達が騒がしかったのか、将也は声を出しながらシワシワの目を開けた。
「はっ!?な・何だお前!?」
「よし、老いた猛の禽よ・・傷を戻せ。戻し終えれば、開に始めだ・・」
「ホ・ウ・・・わかっ・た・・」
何が起こっているのかわからない将也を尻目に銀はソウルに命令されるまま、震える翼を顔に添える。
(やった!生き延びた!生き延びた!生き延びたぁぁ!切り抜けた!我ながらしぶとい。最後に勝つのは正義ではない!最後に勝つのは生に縋ったもの!生義じゃ!!)
すると一瞬にして銀の、崩れたクチバシ、剥がれた鉤爪、抜け落ちた羽根が全て元に戻っていく。
「そんな・どんどん戻っていく・・」
「でちゅぅぅ・・」
「・・・・・・」
(クソッ!!やっと、能力が使えなくなるところまで追い詰めたのに・・また振り出しじゃねぇか!)
歳もどんどん戻っていっている為、身体が大きく逞しくなっていっている。
「クッ!もうすぐ・・・か!見て極めさせてもらうぞ。好敵手候補」
(戦って決める・・・じゃと?折角生き延びたのに、お主の相手をするわけないじゃろ馬鹿馬鹿しい・・・身体の痛みもなくなってきた。取り敢えずここは引こう。マサヤを赤ん坊にして逃げるんじゃ。じゃが・・・その前に・・)
(あ・・・?)
三十代に戻った銀は、横目でチラリと木に拘束されているサシミを見やり、薄気味悪く新品となったクチバシを釣り上げると、次の瞬間、
「動けなくなっているお主をここで・・・・・殺すとしようかのぉぉ!!」
「ッ!」
翼を広げ飛び立つと、目線の先。つまりサシミに向けて、迫って来た。眼は血走り、恨みと憎しみと喜びが入り混じっている。
「もうヤモリの元には連れていかん!散々コケにしやがって!ワシが殺す!!」
(グォォォォォ・・・!!動きやがれぇぇ!!こんのクソ腕ぇぇ!)
息を荒げ、頭に青筋が立つほど必死に手をマフラーから抜こうとするが、かなりキツく縛られている為、ピクリとも動かせない。
「ホウホウッ!!」
(マ・マズイ・・・!)
「サシミィィィィィ!!!」
気づいた時にはもう銀はすぐ側まで近づいていた。一瞬にして、銀の綺麗な翼が顔の前を覆い始め、禎の声と共にその翼がサシミに近づき大きくなっていく。サシミは腕に力を込めてただ翼を睨みつけることしかできなかった。流したくもない嫌な汗が流れる。翼が顔に触れようとした、その時、
「フッ!」
「ホボォウッ!!」「銀!?」
(何!?)「ッ!」「でちゅ!」「おおー」
ソウルがロケットのように突っ込んでくると自身のハサミをボクシンググローブのように使い、銀の頰を殴り地面へと叩きつけた。そのスピードは尋常じゃない速さであり、通常のジャンプではまず不可能な速さである。能力を使ったのは確かであった。
「ガハッ!ゴハッ!」
「わかった?わかっただと?矛に盾だ。全くわかってないじゃないか。今ので好敵手ポイント25点の減である。いいか、お前が攻める撃を向ける対の象は魂だ。そいつも魂の好敵手候補なんだから、触れることも、気を絶たせることも、ましてや殺すことも絶の対に許さない」
叩き落とされた銀は、羽根を落としながら地面を転がる。流れ出た血。そして、割れたクチバシのカケラが辺り一面に散らばっていた。
「逃げ走ることも許しはしない。お前は魂の好敵手候補だ。背を向けずに、魂と戦うしかないんだ・・・・よ」
「ハァ・・ハァ・・・」
ソウルが綺麗に着地する中、銀は息を荒げながらよろよろと立ち上がる。顔に減り込むくらい翼を頰に添えて割れたクチバシと噴き出した血を元に戻す。サシミを確実に殺せたのを邪魔したソウルに対して怒りを込めながら。
「ワシはお主に構う気は無かったんじゃ・・・戦う気なんて無かったんじゃ・・あの猫を殺し、顔を見合わせ笑顔で、あぁよかったね・チャンチャンでよかったんじゃ・・・じゃが・・どうやら手間が増えてしまったようじゃのぉ・・・」
傷を戻し終え体勢を低くすると、翼を広げた。その威圧は凄まじかったが、ソウルは腕組みをして全く動じていない。銀は怒りの表情を見せながら、鉤爪を地面から離して飛び上がる。
「お主を先に・・・!殺さないといけなくなったではないかぁ!!」
「いいぞ!その速さ。好敵手ポイント、30点加える・・・!」
すると銀は、地面スレスレの低空飛行でソウルに突撃した。いつでも掴むことができるように翼を顔より前に構える。ソウルは嬉しそうに腕組みをやめ、ハサミから手を出すと、銀と同じように手を前に構えた。
「ホウッ!」
「クッ!!」
案の定、銀がソウルの手を。ソウルが銀の翼をガッチリと掴む。銀は空中からソウルを押し潰そうと体重を加え、ソウルは翼を押し返そうと、手と足に力を入れて体を支える。両者が相手を押し合う形になっていた。
(ッ!掴みやがった・・!?)
「ホホウ!?ワシの能力を知っておいて!何故避けん!何故ワシの翼を掴んだッ!」
銀が触れた者は時を進ませたり、戻すことができる。それが銀の能力。ここにいる全員がもうわかりきっている能力。だがソウルは、わかっていたにもかかわらず、銀の能力を自ら受け入れた。銀の翼に触れたソウルの歳が戻っていき、身体が徐々に小さくなっていっている。
「候補の能の力がどのほどの物か見たかったからだ。コレはいい能の力。好敵手ポイント25ポイント加える。そして・・・・」
「ホッ!!」
ブスリという音が銀の胸から聞こえた。ゆっくりと顔を下ろし、自身の胸を見つめる。すると長く鋭い尻尾がソウルの股から飛び出て銀の胸に刺さっていた。
「銀ッ!」
「こうやって確に実に・・・魂の能の力を、お前の体のど真ん中に残すことができる」
「候補の体を闇に、魂の体も闇にッ!」
「ホボゥゥ!!」
「なッ!」「でちゅ!?」
ソウルが呟いた瞬間、掴み合っていた両者が有り得ないスピードで自身の真後ろに吹っ飛んだ。銀は木に背中を激突させ、弱々しく地面に伏せる。ソウルはハサミを地面に突き立てて勢いを殺した。
(何じゃ・・・・今のは・・!何をされたのか分からん・・・気づいたら吹き飛ばされていた)
「魂の体を光に変更・・・」
「ホボゥゥ!!?」
ソウルがまた呟く。すると考える暇もなく、引っぱられるかのように今度は反対に、銀とソウルの距離がどんどん近くなっていく。
(本当に何なんじゃ!?離れたと思ったら、何で今度は彼奴に近づいておるんじゃあ!!)
銀は鉤爪を地面に立てようとするが、そのスピードは一向に変わらない。同じく銀に近づいてくるソウルはハサミを力強く構える。
「解・・」
「ボフゥッ!」
目の前まで近づくとソウルは、銀の腹をハサミで殴った。それと同時にソウルが呟くと、銀がまた遠くに吹っ飛んだ。
(勝・・勝てん・・理由はわからないが、勝負を受けてまだ数十秒・・・脳の片隅で負けを認めるほど追い詰められている・・・情けない・・情けない・・)
「反する撃を飛ばせていない。好敵手ポイント10点減・・・」
翼をつきながら、自身の抜け落ちている羽根を見つめる。口から吐いた血が口内に広がって気持ち悪い。
(この状況・・どうすれば・・・ホ・・ウ・・・?)
「ん・・・?」
負けの二文字が頭をよぎり、諦めかけていたその時、滴った血の中から白く細い物がウネウネと出てきた。ソウルも銀に近づいていた足を止める。
「まさか・・・・コレは・・!」
「ッ!」
「ホホウ!!コレはぁぁ!」
それは一度見たら忘れない。そう、それはヤモリの糸であった。糸は凄い速さで、ソウル目掛けて突っ込んできたが、顔を斜めにして糸をかわす。当たらなかった糸は銀の真横に戻っていった。
「ホホウ!間違いない!!ヤモリの糸じゃ!!触れていない場所からでも!糸を出せるようになっておる!勝てる!この能力があれば!ワシの勝ちは・・・・!」
「銀・・・!?」
「「ッ!」」「うっ!」
「・・・・・・」
それは一瞬だった。立ち上がり翼を広げた銀の動きと発言が止まる。真横の糸が今度は銀の首を一刺しした。貫通した糸には銀の血がこびりついている。
「ホ・・・ウ?ゴハッ!バカ・・・な。ヤモリめ・・・それは・・・ワシじゃぞ・・大馬鹿者め・・」
「そんな・・・!嫌だ・・!銀・・!」
将也は目の前の光景に動けずにいた。糸がゆっくり、骨が切断される音を出している。
「コレで終わりなのか・・・?折角ピンチを脱したのに・・・・・まだ・・ワシは・・生き残る・・死にたくない・・・手に入れるんじゃ・・ワシの・・・不老不・・死・・・・ッ!」
「ギィィィンンッ!!!」
「ッ!」「そんな・・でちゅ・・」
「うぅぅ・・・」「・・・・・」
「なんだと・・・・」
すると呆気なく、糸が銀の首を切断した。銀の首が地面を転がり、残された身体はその場に倒れる。血が大量に池を作るかのように広がった。
「は・・ははは・・・コレで・・お終い・・ガッ!!」
将也は涙を流し乾いた笑いを上げると、首から血が噴き出し、銀と同じように首が地面を転がり銀の首の真横に止まった。気づけば周りには沢山の糸が再度張り巡らされていた。
この裏山の地獄は、終焉に向かっている。
残り・401チーム
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