64話 能ある犬は夜吠える
早くて早くてびっくりん!
お願いします!!
「サシミ!早くこの壁を壊さないと!僕たちは!!」
「んなことぁわかってんだよ!!もっとだ!もっと近くでかまさないと、威力が出ねぇ!」
壁に押されながらサシミは握りしめた拳を前に構えた。サシミと禎達の距離がどんどん縮まり、逃げ場がどんどんなくなってきている。
「ワオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
(・・・・これが最後のチャンスだ。アレだけ殴っても壊れなかった。止まりもしない。この壁の勢いを利用して更に強い力を壁に与える!)
「呪ッ!!」
「嫌だぁ!死にたくないよぉ!!」
火星ちゃんとロージはずっと騒ぎながら壁を叩いている。もう目の前まで壁とサシミが来ていた。恐怖と緊張で心臓の鼓動が破裂しそうだった。
「サシミ!!早く!潰れちゃう!」
「まだだ・・・」
サシミは真正面の壁を睨みつける。禎達の顔がはっきりわかる距離まできている。しかしサシミはまだ拳を怪物化させない。
「サシミくん!!」
「スゥゥゥ」
更にその距離が縮まる。サシミは息を吸い始めた。心の心臓の鼓動が緩やかになっていくのがわかる。
「サシミィィ!!!」
「お前ら!顔を伏せろぉぉ!!」
「グッ!」「呪!」「ッ!」「ヒィ!!」
サシミの大声で全員、頭を庇うように地面に丸くなった。それと同時に拳を怪物化させる。徐々にその拳は大きくなっている。穏やかに鳴っていた心臓もまた激しくなった。
「ワオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
「壊れろこのクソ壁ぇぇ!!!」
そしてついにサシミは壁に後押しされながら怪物化させた拳を、目の前の壁に押し込んだ。ギシギシと音を立てる。一瞬だけ、壁と壁の間でサシミの大きな拳が後ろの壁の進行が止まった。それでもサシミの背中からすごい力でサシミを押し出そうとしている。少しづつだが、壁と壁が狭まっているのがわかる。
(俺が拳で殴る必要なんてねぇ。ただ力を込めて、拳を大きくしていけばいい!手首の骨が潰れているのがわかる。だけど緩めるな!力を緩めるな!壁の後ろから押す力と俺の拳の押す力を合わせればっ!!)
「いけぇ!サシミ!」
「呪呪〜!!」
牙を出し、骨が潰れた痛みに耐えながらサシミは拳を更に奥へ押し込んだ。
「ワオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!」
「いける!いけぇぇ!!!」
サシミが大型犬の遠吠えにかぶせるように叫ぶと壁にヒビが入った。地面の揺れが更に激しくなる。最後の力を振り絞る。そしてついに、
「グルァァァァァァァァァ!!!」
奥から強い光が差し込んだ。全く壊れなかった壁が音を立てて崩れる。
(壁が・・・崩れた)
普通ならば心から喜ぶはずだ。しかしサシミにとっては壁が崩れたのは違和感しかなかった。
(何で崩れた。俺の計算ならもっと壁にめり込まないと壊れない。ふ菓子みたいに崩れやがった。この程度ならさっきまでのラッシュで壊れている筈だ。それともそのラッシュで脆くなっただけか・・・?)
殴っていたサシミだからわかる。最初に比べてさっきまで聳え立っていた壁が脆いことに疑問を感じていた。そんな事を考えていると
「ワオォォォォォォォォォォォォン!!・・・・・」
「うおっ!!」
「ゴベェ!!」「殺ッ!」
「ドハッ!」「ニョベッ!」
壁が崩れたことによりサシミを押していた壁が再度、すごいスピードで動き出す。全員が壁に張り付き、崩れた壁の奥の部屋に入った瞬間、遠吠えが聞こえなくなった。すると揺れが収まり、壁は通路を防ぐように動きを止める。全員は壁が止まったその勢いで奥に広がっていた大きな空間に押し飛ばされた。
「イテテ・・」「呪・・」
「顔を打った・・」
「やった・・・壁を壊した!サシミ!!すごいよ!」
「・・・・・・・」
「サシミ・・?」
サシミはフラフラと立ち上がり、一点を見つめている。そのまま床に足跡と血を垂らしながら、見つめた方へ歩いていく。
「やっと・・会えたな・」
「あ・あぁ・・・嫌だ・・助けて!助けてぇ!」
その顔は忘れもしない。歩くその先にはサシミ達を永遠迷宮世界に閉じ込めた異能力ペットの大型犬が壁を背に震えていた。出会った時と同じく身体は血塗れである。
「見つけた・・」
「あの子が・・・この世界の能力者・・」
「あのマゼラブート星人だいぶ怯えてるみたいだけど・・それに血だらけだ」
「呪!呪!」
遠吠えで叫びすぎたのか、この暑さにやられたのか、それともその両方か、喋る声がガラガラになっていた。
「おい!テメェ!!」
「ヒィィィ!!」
そんな大型犬にサシミは馬乗りになり、顔を近づけて怒鳴り散らす。
「言いたいことは沢山あるが、まずはこの能力を解除しやがれ!死人が出てるんだよ!お前を追いかけている異能力ペットもいるんだよ!俺の手首の骨も潰れてんだよ!殴るのはこの山を無事に出た後だ!早くしろ!!」
近い顔を更に近づける。凄まじい剣幕で大型犬に問いかけた。すると、
「で・・で・・・出来ないんだ!!」
「は?」
返ってきた答えは予想外のものだった。鼻水を垂らしながら息を荒くさせている。
「テ・テメー今、なんつった・・・・」
「解除方法がわからないんだよ!」
「んだと!?」
大型犬はその大きな顔を手で覆い隠したり頭を掻き毟った。
「そんなバカな!自分の能力の解き方くらいわかるだろうが!!第一、コレが初めてじゃないだろ!」
「違う・・違うんだ・・俺は今日初めてこの能力を・・・使った・・」
掻き毟っていた手を止めると、サシミから顔を逸らす。サシミは大型犬の衝撃の一言に唖然としていた。
「初めてだと!?一度も自分の能力を試さなかったのか!お前正気かよ!この異能力ペットバトルが始まってかなり経ってるんだぞ!」
「お、俺はこんなに大きい身体だけど、誰よりも臆病なんだ・・・異能力ペットになってから、ずっと今まで隠れてきたんだよ。俺の能力は相手に大声を聞かせないとダメなんだ。ずっと逃げてたから能力を使うタイミングなんてない・・それで今日、君が近づいてきた時、飼い主と逸れて、痛くて不安で怖くなってこの能力を初めて使った。まさかこうなるなんて・・・」
この能力を使ってしまったことを後悔しているのか大型犬は大粒の涙を出しながら歯ぎしりをしている。
「異能力ペットになった時、頭に入ってきたのは(自身の大声を半径50メートル以内の複数の相手に聞かせる)ってだけで・・・それから先の能力の解除方法や説明は入ってこなかったんだ・・だから!だから知らない!この能力は解けないんだよ!!」」
「この野郎!感覚でわからねぇのか!どんな能力だって解除できるはずなんだよ!俺だってあそこにいるマスクもよぉ!」
「呪!呪!」
サシミは後ろで立ち上がっている火星ちゃんを指差す。それに気づいた火星ちゃんは力強く首を縦に振るう。
「俺だって努力はしたんだ!叫んだら能力が発現するなら同じようにこの世界で叫んだら、元の場所に戻れると思って何度も何度も遠吠えしたけど、地面が揺れるだけでそれ以外何も起こらなかったんだよ!!」
「あの遠吠え!お前!壁を修復したり俺たちを殺そうとしたのはお前の意思じゃなかったのか!?」
「修復って、殺すって何だよぉ!ゆるしてくれぇ!本当に悪かったぁ!」
声を張り上げて必死に大型犬は、サシミに懇願した。それはもう必死に。その圧にサシミは冷や汗をかく。しかしサシミは左手を掲げる。
「ならしょうがねぇ・・・お前とお前の飼い主には申し訳ねぇが・・・今ここでお前を気絶させる・・・」
「あぁぁ・・・!ごめんなさい!ごめんなさい!痛いのは嫌だ!痛いのは嫌だよぉ!!」
「グオッ!」
左手を見つめると突然大型犬はさっきまでの弱気が嘘のように暴れ始めた。サシミは振り落とされぬようまたがっている足に力を入れる。
「テメー!!暴れるんじゃねぇ!!ここでお前が気絶するか!俺たち全員が死ぬか!どっちがいいか、考えればわかるだろ!!」
「う・・うぅ・・・ごめんなさい・・助けてください・・・!!」
今度は力なく足をジタバタさせると床に足跡をつける。
「クソッ!もういい!殴るっ!」
「ちょっと待って!一回君も落ち着こうよ!ね!!」
同じ言葉を何度も口にしている大型犬に嫌気がさして握っている拳を振り下ろそうとしたその時、ロージが二匹の間に割って入った。
「なんだミミズク!お前は黙ってろ!もうすぐあの山に戻れるんだからよ!」
「焦らない、焦らない。僕にはいい考えがあるんだ!」
「へ!?何!俺の能力を解除できるのか!」
ロージは自信満々に胸を翼で叩く。そして大型犬はロージの言葉に逸らしていた顔をあげる。
「何だよ!早く教えやがれ!!」
「そんなの決まってる。簡単だよ。気絶させる必要なんてない・・・」
サシミが怒鳴るとらロージは鋭いくちばしの口角を上げた。少し不気味に微笑むと、次の瞬間、
殺せばいいんじゃ!!」
「!!」
「ッ!ゴバァ!!」
「呪!?」「サシミくん!!」
「サシミッ!」
聞き覚えのあるトーンの声を出すと、ロージは大型犬の顔を翼で掴むと、サシミの腹に、その体格に見合わない威力の蹴りを繰り出した。大型犬にまたがっていたサシミは禎達の元まで吹き飛んでいった。
「サシミ!大丈夫か!?ロージくん!何するんだ!!」
(・・・・・コレだ・・・あの時の嫌な感覚はよぉ・・・死体が近くにあったから感じたんじゃなくて・・・)
『い・いたぁ!いたぁぁ!!他の異能力ペットだ!お前ぇぇ!!』
(アイツが近くにいたからだ・・・クソが・・・!アバラが逝きやがった・・・)
震えた手でロージに蹴られた腹を撫でると尋常ではない痛みがサシミを襲った。
(少し考えればわかることじゃねぇか・・・・ジジィがどんな動物かなんて・・・・何でジジィの足音がしなかったのか・・何でこの世界でジジィの足跡が付かないのか・・・・飛んでたからだ・・・かっこいい翼でよ。優雅に・・・だからアイツは空を飛ばず、床を歩いてアピールしたんだ。俺たちに感づかれないように・・・わざと床を歩いていたまま、俺たちの前に現れたんだ。それにジジィはあの時・・・)
『合計で3チーム・・・全員参加でよろしいかな?いいじゃろう。人数は多ければ多いほど良いからの〜』
(目のいい俺や剣山もあの暗闇でジジィが見えなかったのに、ジジィは俺たちのことが完全に見えていた。猫じゃねぇ・・犬でもねぇ・・・暗闇でもハッキリと目が見えて、翼を持っている動物・・・・!)
『俺はトカゲじゃなくてヤモリべや!』
『ふくろうじゃなくてミミズクだ!!』
「(そんなのもう決まってるじゃねぇか・・・ジジィは・・・・)・・テメーだったのか・・・」
吹き飛ばされたサシミは腹を押さえながら立ち上がった。
「怯えていたテメーが殺したのか・・・」
「そんな!?でも殺したのはお爺さんの異能力ペットなんだろ!?ロージくんはあんなに若いじゃ「やっと気づいたか。そこの若いマスクの猫は最初から疑っていたみたいじゃが。そうじゃよ?ワシがやった。ワシが殺した。ワシの能力でな」ッ!」
「ウァァァァァ!!!あ・ぁぁぁ!!」
「ッ!!」
「ロージというのは偽名でのぉ、本当の名前は銀という。古臭いっぽい名前じゃとバレると思ってのぉ。改めて銀じゃ。短い間じゃがよろしく」
大型犬の顔を覆っている翼に力を入れると、急に大型犬が暴れ始め、翼を引き剥がそうとする。すると銀は反対の翼を顔に当てると小さかった身体がみるみると大きくなっていった。声もどんどんのぶとくなっていく。
「それが銀ジジィ・・・テメーの能力か・・騙すには丁度いい能力だな・・・ゴホッ!
「ホホウ、騙すだけではない。殺すのにも丁度良い能力じゃ・・・・」
「今すぐその汚ねぇ翼を退けろ!」
「やだね!安心しろ!もうすぐワシがここからお前達を出してやる。ワシのこの能力・・・」
銀はさっきまでの小さい体ではなく、体格の良い、ミミズクに変わった。目元もキリッとコチラを睨みつけ、クチバシも尖っている。生えきっていなかった翼もふさふさになっていた。それが、それこそが銀の能力であった。
「『老進戻支配者』がのぉぉ!!」
残り・403チーム
ありがとうございました!!
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