57話 息の偉大さは主知らず
うおーーマスクがないから怯えながら暮らしております!
みんな!負けるな!
よろしくお願いします!
「・・・・トカゲ・・?」
「あぁ?そこの飼い主!何間違っとるべや!俺はトカゲじゃなくてヤモリべや!ヤ・モ・リ!似ても似つかないんだから二度と間違えんなぁ!?」
目を釣り上げ、ザラザラしている指を禎に向ける。
「トカゲだろうがヤモリだろうが知ったこっちゃねぇ・・」
「今まで殺し過ぎて、楽しいけれど少し飽き飽きしてたんべや」
「・・テメーここで・・何人殺しやがった・・・・」
「べや?」
ヤモリはサシミに睨まれたが何のことか分からず首を傾げたが、サシミの言葉を理解すると手を叩いた。
「ああ!それ間違ってるべや!今のこの状態での質問は『テメーここで何人と何匹殺しやがった?』か『ここで何チーム殺しやがった?』のどっちかべや!」
「なら・・答えろ・」
「え〜と・・」
ヤモリを思い出すように空を見上げながら指を立てていくと次の瞬間両手を合わすと、目を見開いた。
「飽きたおもちゃの事なんか忘れちゃったべや!」
「飽きたおもちゃ・・だって・?」
「あ!でも沢山殺したのは覚えているべや!遊んでる最中は楽しかったべや!」
「そうかよ・・」
サシミは歯を鳴らし、眼光をさらに鋭くすると、拳を握りしめていつでも飛び出せる体制をとった。
「清々しいほどの屑だなお前・・ぶっ飛ばす・」
「そうかい。じゃあ・・・・・・死ぬべや・」
ヤモリは微かに指を動かすと、サシミの近くに生えている木から糸が次々とサシミに向かって飛び出してくる。その糸を一つ、また一つとかわしていく。障害物であるはずの木も、糸に切断されて音を立てて倒れていく。
(やっぱりスゲー切れ味だなこりゃ・・・)
「サシミ後ろ!」
「・・・・・!」
糸は止むことはなくサシミに降り注ぐ。禎の言葉に耳を貸し、襲いくる糸に目を配る。避けるので程いっぱいだった。
「はいはいはいはい!!もっと綺麗なステップを踏んで俺を楽しませてくれべや!!ワンツーワンツーべや!」
(抑えろ俺・・まだぶん殴るのは早い。ただしを襲ってくる気配がない。狙いは今のところ俺だけだ。避けまくって、今はコイツの調子に乗らしておいた方が良さそう・だっ!)
頭スレスレの位置で糸が通りすぎると今度は縄跳びのように足元へ向かってくる。その攻撃をサシミは軽くジャンプして避ける。
「キョキョキョッ!スゲー!目がキラキラしてるべや!心から楽しいべや!もっと避けるべや!ホラホラ!」
「おいヤモリ。楽しむのはいいけどよ、あと二匹いるんだから早く仕留めろ」
「べや?待つべや。これからが面白いんだから!」
バクトの肩からヤモリが降りると同時にサシミを攻撃していた糸達が木の中に消え、その場には倒れた木が散乱していた。
(攻撃が止んだ!!今しかねぇ!!!)
サシミは急いで両手を地面につけて、クラウチングスタートの体制をとる。
『猫ジャンプ』
右脚を怪物化し足を伸ばすと物凄いスピードでヤモリに向かって突撃した。
「サシミ!!」
「・・・チャンスだと思ったんべや・・?勝てると思ったんべや・・・?でも残念でした。まだ俺の攻撃は止まってない・・」
ヤモリは地面に向けて不適に笑うと、両手を夜空に掲げる。
「勝利という夢が現実という名の敗北感へ変わるのは実に面白いべやっ!!」
「止まれ!サシミ!」
「ッ!!」
サシミは禎の声を聞くと、急いで踵を地面にめり込ませてブレーキをかけた。ヤモリが勢いよく手を交差させたその時、
『卍糸・森』
「ッ!」
辺り一面の木から糸が同時に出てくると不規則に地面へ張り付き、サシミは身動きが取れなくなった。一歩でもその場から動けば身体がバラバラになってしまう。禎もサシミに近づけなくなってしまった。
(さっきとは比べものにならない量の糸だ・・)
「んだよ・・コレ・」
「キョキョキョッ!俺の能力は生み出した糸を操り、糸を生成する能力。自分の掌から出すことも可能だけどその他で糸を生み出す為には一度、糸を出したい物体に触れないといけないんべや。だけどこの山は俺たちのテリトリー。俺はこのゲームが始まる前から全部の木々に触れているんべや。だから今のこの森は俺同然!この森の支配者べや!!俺がこの手を軽く握れば俺の卍糸は凄い勢いで木の中に戻る。頭が筋肉のお前にわかりやすくいうと、巻尺を戻すときのように、水を出したホースが暴れるように、お前の首、胸、腕、小指、尻尾、足をバラバラにするんべや!」
ヤモリはその場で動くことができないサシミの顔を糸と糸の間から覗き込み、開いた右手を見せびらかす。
「サシミ・・・」
「お前が強いかどうかはこれで判断するべや。ここで死ぬようじゃ、お前は強くない。楽しいおもちゃ止まりべや!お気に入りのおもちゃにはなれない!キョッキョ!」
「早くやれよ・・」
「べや?」
サシミはこちらを覗いてくるヤモリにガンを飛ばすした。
「やれって言ってんだよ。黙って自分の世界に浸らずその手を握りやがれ。俺を殺してみろぉ!トカゲェ!!!」
「ヤモリべや!!」
ヤモリは裂けている口を大きく開いて右手を握ろうとした。すると、
「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「サシミ・・?」
「アイツ・・何してるべや・」
サシミは両手に力を込めながら大きく息を吸い込んだ。
「なんで・・・息なんか吸い込んでるべや・・」
「そんなのどうでもいいだろうが!早くぶっ殺して次行くぞ!」
「そ・その通りべや。殺られる前に殺るべや!解散!!」
ヤモリは焦りながら、右手を力一杯握りしめる。すると地面に張り付いている糸を引っ張りだすかのように木が振動しだすと地面から糸が勢いよく飛び出してきた。
「内臓も心臓も腸も!全部バラバラに消しとぶべや!」
「スゥゥゥゥゥッ!!」
サシミが吸い込んでいた息を止めた次の瞬間、
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「うおッ!!」
「ドビャャ!!」
「んだとッ!!」
大きく息を吐き出した。しかしその威力はろうそくの火を消す威力ではない。下のケーキまで消し飛ばす威力である。息の威力でサシミは少し空中に浮いており、暴れ回ろうとしていた糸がサシミの吹いた息でサシミに近づくことができず、風圧でなびいて、木に戻って行っている。その風圧に禎達も近づくことが出来ない。すると一本の糸がヤモリの頰を撫で、その頰からは血がたれてきた。
「フゥゥゥゥ・・ゥゥ・ウ・」
「サシミ!!」
糸が全て木に戻ると同時にサシミは息を吹くのやめる。すると空中から地面に下ろされ、その場に倒れ込んだ。それを見た禎は走ってサシミに近づく。
「おい!何したんだよ・・」
「ハァ・ハァ、肺を怪物化したんだよ・・」
「肺!?」
「あぁ、肺だ・・ハァ、肺をおっきくして空気を馬鹿ほど貯めれるようにしたんだよ・・おかげで肺活量がスゲー事になった・・・そして元の大きさに戻したらこのザマだ・・ハァ・ハァ・・息をするのもキツいぜ・・やっぱり・・ぶっつけ本番でするもんじゃないな・・ハァ・ハァ・ハァ・・・」
「キョキョキョッ!キョキョキョッ!!」
ヤモリはサシミの目の前に地を這いながら素早く移動すると高笑いしながら両掌から短い糸を垂らした。
「いやぁ、今のはびっくりしたべや。やっぱりお前は強い奴べや。俺のお気に入りのオモチャべや!でもお前、動けないんべや?さっきみたいなことはもうできないんべや?べや?べや?」
「・・だからどうしたってんだ・・必ず勝ってやる・・・勝たねぇといけないんだよ・・!そう約束したんだ・・!」
「・・サシミ」
「必ず勝つ?ウキョッ!無理無理!無理べや!無理べや!強がるのも大概にするべや!」
ヤモリは無邪気に体を揺らし笑っている。
「なんで・なんでこんな事するんだ!!殺しても意味なんてないだろ!なんで!」
「・・・おい・」
禎は肩で息をしているサシミを自分の元に引き寄せてヤモリに喰って掛かった。笑顔で口角を上げていたヤモリはその口を閉じ、
「・・・お気に入りじゃない奴は黙ってろよ・・」
「・・早く・離せ・・ただし・」
「・・・・」
ヤモリ大きな瞳で禎を睨みつける。その瞳に吸い込まれるように目が離せなくなり、背中から冷や汗が滴れる。
「その腕、早くどけろ・・・俺は飼い主を先に殺すより異能力ペットを殺すのが好きなんべや・・」
「嫌だッ!絶対に離さないぞ!この腕は絶対にどけない!」
「・おい・・ただし・」
禎はサシミを苦しくなるほど、更に力強く抱きしめる。その姿を見たヤモリは掌の糸を長くした。
「じゃあしょうがないべや・・・そんな腕、もういらないよな・・?この糸さぁ、俺まで切れちゃうんだよね・・だからこうやって引っ掻くように、慎重にっ!!」
「ッ!!」
「やめろォォォォ!!」
左腕を上に掲げると、禎の腕に向かって振り下ろした。その時、
「ヤモリ!」
「ッ!!」
草むらが揺れだしその中からヤモリの真横から何かが凄いスピードで近づいてきた。
バクトはそれに気づき叫んだ。ヤモリが振り向くとそこには
「お前・・・」
「・・・・・・
剣山・・!?」
剣山が飛び上がりヤモリに切り掛かっていた。ヤモリは急いで両手の糸でその刀を切断した。剣山はその刀をすぐさま消すと新たな刀を生み出し、また切り掛かったが、ヤモリはしゃがんで、地を這いバクトの元まで戻った。すると遅れて草むらから虎太郎も出てきた。
「剣山!坂出くん!ありがとう!」
「お前ら・・・・ハリヤマはどうした・・」
「荷物は置いてきた・・それにしてもアイツが糸の異能力ペットか・・思っていたよりちびっこいな」
「ゴホッ!ゴホッ!」
「おぉ、アイツ着物を着てるべや!着物の犬べや!!」
「動かなくても来てくれたな」
剣山は禎達を守るように前に立って刀を構え、ヤモリは嬉しそうに両手の糸を消し、指を指す。
「どうやら俺を所望のようだ。俺がアイツを倒す。お前はもう一匹の異能力ペットを倒せ」
「あぁ・・!ふざけんなよお前!ゴホッ!お前だけじゃ倒せるわけないだろうが!」
剣山の着物の裾を引っ張って、声を浴びせたが剣山は顔を変えずに眼をサシミに向ける。
「数分間、息を切らしたお前のお守りをしながら戦えと・・?」
「・・うるせぇ・・まだ戦えるぞ・・!」
「残念だがそんな自殺行為、俺にはできやしない。おい!そこのトカゲ」
「だからトカゲじゃなくてヤモリだって言ってるべや!!遊ばずにぶっ殺すべや?」
「もう一匹の異能力ペットはどこにいる・・」
「あ?あぁ、師のことべや?」
「せんせい?」
ヤモリは嬉しそうに言葉を弾ませる。
「どこにいるかなんてわかんないべや。でも今は俺の邪魔にならないように他の弱っちぃ異能力ペットの処理をしてると思うべや」
「処理・・・まだいるのか・・・」
「なるほどな・・・サシミ、早くもう一匹を探しに行け・・」
「テメー!相性が悪すぎるだろ・・!テメーの刀じゃ・・!」
「被害を最小限に抑える為には、このトカゲと、もう一匹を俺たちでマークするしかない!早く行け!!」
「澤畑、ここは俺たちに任せてくれ。サシミを抱えて、探すんだ・・」
「う・うん!」
そのまま禎はサシミを抱き抱え、草木を掻き分けて森の中に消えていった。
「ただし!お前!クソッ!おい剣山!カッコつけてそいつに負けたら承知しねぇぞコラァァゴホッ!」
「・・・・・・・お前もな・・・」
剣山は闇に消えていったサシミに聞こえない声で語りかけるとヤモリを睨みつける。
「剣山・・気を引き締めろ・・・」
「わかっている・・」
同じく虎太郎は背中にかけていた木刀袋から木刀を取り出し構える。
「まぁ、全員殺す事に変わりはないんだから、好きなだけ逃げるがいいべや!お気に入りは最後まで取っておくのが筋ってもんべや!お前らはもう日の光を浴びる事も家に帰る事もできやしない。今夜この山で俺に切られて全員死ぬんべや!」
「いや・・違うな。お前にはもう、誰も殺させない。お前はここで、俺に斬られて異能力ペットバトル退場だ・・・」
刀の長い刀身をヤモリに向ける。月に反射して光沢していた。その光を避けるようにヤモリは四足歩行になる。
「・・・・・覚悟しろ、殺人鬼・・」
「お前らも実に綺麗な目をしてるべやなぁ!楽しみべや。さ〜て
ガチ勝負、ラウンド2べや!」
残り・404チーム
ありがとうございました!
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体調管理に気をつけて!では!




