53話 後ろ針を引かれる
お久しのお久し
お願いします!
「・・・・ハァ・・」
頬杖をつきながら禎は息を吐き出す。授業中にもかかわらず、目の前の先生の話に集中できずにいた。昨日の出来事をおもいかえしている。
(昨日は疲れたな・・・生まれて一番長く感じる1日だった・・綾さんは学校に来てないみたいだし、サシミのことも気になる・・・・)
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『ギャァァ!!濡れてる!!濡れてやがる!!死ぬ!!俺はこの風呂場で死ぬ!!今まで殴った奴らの走馬灯が見えやがる!!ババァが川の向こうで腕立てしてる!!』
『大袈裟だよ・・ガム落ちるかな・・・染みるけど我慢しワブッ!!』
万歳達と別れて禎宅。
シフォンの攻撃でこびりついて取れなくなったガムを洗い流す為、風呂場でサシミの身体をシャンプーでゴシゴシとガムのついた部分を擦っていた。しかしこの世の終わりみたいな顔をしていたサシミが暴れるため、風呂場の壁や天井、そして禎の顔に泡と水が飛び散っていた。
『ホンギャャ!!』
『ちょっと!!そんなに暴れられたら、いつまで経ってもガムが取れないし、傷口が開・・く・・・・・』
禎は風船ガムで破裂したサシミの傷口を見つめた。すると、
(傷が・・・・塞がってる・・・なんで・・)
『ドンギャャャ!!!』
シフォンの攻撃で血が滴り、肉が破裂した傷口は、なぜか塞がっていた。一つではなく身体全身にある全ての傷口が。ものの数時間で治るような怪我ではない。禎は言葉を失った。
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(・・・・・アレはなんだったんだろう。もしかしてアレもサシミの・・・)
授業中に昨日の事を思い出し、考えていると、
「ただしん!!!」
「ひっ!!」
いつ入り込んだのか、禎の筆箱の中からハリちゃんが顔を覗かせる。その事に禎は驚き、出したことのないような声をあげた。それはもう、かなりの声量で。
「ん?どうした澤畑?」
「い、いや!なんでもないです!!」
「そうか・・」
「ちょ・・!ただしん・・!」
担当の先生が声に反応して振り向くと同時にハリちゃんを筆箱に押し込める。ハリちゃんの背中の針が掌に刺さった。
「イタタ・・・ちょっとハリちゃん!いま授業中だから!」
「どうせ、異能力ペットバトルの参加者じゃない人にはハリは普通のハリに見えるから大丈夫でちゅよ!!」
「普通に見えてもダメだよ!教室に、僕の筆箱にハリちゃんがいるなんて、普通じゃない!!」
「・・説得力が凄まじいでちゅ・・・」
筆箱の中に顔を埋めて、中で縮こまっているハリちゃんに囁く。誰にも気づかれないように。
「まぁ、そんな話は置いといて。ちはるんとハリの家わかるでちゅか?」
「うん。この前教えてもらったからね。それで?」
「よかったでちゅ。今日夜8時、サシミンを連れて我が家集合でちゅ!!」
「は?どういうこと!」
「詳しい事はそこで話すでちゅ!それじゃ!コタロウンとバンサインにも教えてくるでちゅ!」
「ちょ!ハリちゃん!?」
筆箱から静かに出ると机の足に捕まりくるくる回りながら降りると、素早く走りながら半開きになっていた後ろの教室のドアから虎太郎がいるであろう、教室に向かっていった。
「さっきからどうした・・澤畑」
「いや!なんでもありません!!」
先生が心配の声を禎に浴びせる。智晴を含めて生徒全員が禎を見つめる。
(やばい・・目立っちゃった。今まで蟻のように授業受けてきたのに!全員コッチ見てたよ・・・休み時間、さっきのこと雨森さんに聞いてみよう)
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午前の授業が終わり、昼休み。先程のハリちゃんの事を聞くために、智晴の机に向かうと、
「うん!!面白かったよね!来週が楽しみ!アハハっ!!」
「・・・・・・うわぁ・」
今日転校してきたのかという程、智晴の机の周りには人がごった返しており、智晴の姿は見えなかった。このクラスでは日常茶飯事の光景である。
(・・・最近学校でもよく喋ってたからすっかり忘れてた・・あの人は人気のレベルがカンストしている人だ。あの状態でさっきの話はできない・・今日、夜8時。雨森さんの家・・・行くしかないか・・・)
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「・・・・・・」
「・・・・・・・」
未だに黄色いテープが張り巡らされている鶏小屋前、剣山は木に寄りかかり、サシミは腕を枕にしてその場で寝ながら片耳を怪物化していた。そのサシミの身体は至る所が乱雑に包帯でぐるぐる巻かれている。
「・・・お前、何してる・」
「あ?見てわかるだろうが。ただしが襲われた時のために耳を怪物化してんだよ。かもしれない怪物化だ」
「・・・・・・」
剣山は刀を生み出し、刃に映る自分の顔を眺めた。
『みんなは俺が死んだら・・・泣いてくれるかな・・・・』
(・・・・・・酷い顔だな。しっかりしろ。大丈夫・・・大丈夫だ・・・こたろうはきっと大丈夫だ。俺が信じないでどうする。俺が必ず助けるんだ。俺が・・・・)
眺めていた自分の顔を睨みつける。心の中で刃の中の自分に言いつけながら。
「・・・お前こそ何してんだよ」
「・・・・・ただの能力の調整だ」
「・・・そうかよ」
たった1分にも満たない会話。それから学校が終わるまで二匹は一言も喋らなかった。
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「で?ハリヤマはそれしか言わなかったのか?」
「うん、詳しい事は家で話すって」
「あのハリネズミ、マーズ共も誘いやがって。ツマラねぇ事だった場合。俺の時間無駄遣い罪で握り潰しの刑だ」
夜7時半、禎は智晴の家に向かい足を動かし、サシミは塀の上を同じく歩いている。
「どうせ家にいても寝てるかイライラしてるかのどっちかなのに・・・」
「それが俺にとって有意義なんだよ!!悪いか!そんで!いつ着くんだよ!」
「もう、ここを曲がれば・・」
「澤畑くーん!」
「どぎゃ!!」「・・・・」
曲がり角から智晴が勢いよく両手を上げ飛び出し、禎は驚いて素っ頓狂な声を出した。
「ねぇ!びっくりしたでしょ!!すごい声出してたもんね!!どぎゃ!!って言ったもん!」
「は、ははっ・・・」
「ゴホッ!雨森さん・・もう少し静かに・・コホッ!」
「・・・・・」
「サシミン!おっすでちゅ!何でミイラになってるでちゅか?」
「誰がミイラだコラ。色々あったんだよ。それより、そっちから来るとは思わなかったぜ」
智晴の肩にはハリちゃんがおり、智晴と同じく両手を大きく上げていた。その後ろから虎太郎と剣山が歩いてくる。
「でちゅ!けんけん達が来たから、来てないサシミン達を迎えに行こうと思ってたんでちゅ!」
「あれ?でも、富士崎先輩は?先輩も誘ったんだよね・・・」
「確かに。あのうるせぇマーズがいねぇぞ」
周りを見渡すが万歳と火星ちゃんの姿はない。
「ばんさいんに声は掛けに行ったでちゅよ?でもいなかったでちゅ・・・」
「いなかっただ?」
「昨日の事もあったし休んだんじゃないかな」
「そういう事でちゅ!!これで全員揃ったという事で!話すでちゅ!!」
ハリちゃんはクルクル回りながら智晴の肩から下りると変なポーズを決めた。
「早く話やがれ。俺だって暇じゃねぇんだよ」
(暇じゃん・・・)
「ハリちゃんどうしてみんなを集めたの?私にも内緒で」
「雨森さんも教えられてないのか」
「うん・・」
「落ち着くでちゅ、落ち着くでちゅ。コホンでちゅ」
咳払いをするとハリちゃんはサシミと剣山の元に近づいてきた。
「サシミン、けんけん・・・」
「ん、んだよ・・」
「なんだ」
「・・・・・・ハリって・・・
役に立ってまちゅよね・・・」
「・・・・・・・あ?ああ」
「お前が戦っている所を俺は見たことがない」
「なんでちゅか!その間とKY発言!!そこはお前はいなくてはならない存在だとか、ハリちゃんがいたら肩こりが治りましたとか言うところでちゅよぉぉ!!」
ハリちゃんは両腕を地面につき、気分が沈んでいた。
「通販番組か。まさかテメェ・・そんな事を聞くためだけに俺たちを集めたわけじゃないよな・・・」
「違うでちゅ!今のはちょっとした確認でちゅよ。これだけで呼び出すとかおかしいでちゅよー」
「やりそうだから聞いてんじゃねぇか!!」
「本題はここからなんでちゅ!今からハリ達は!あの裏山に向かうでちゅ!!」
「は?」「ッ!!」「・・・・」
ハリちゃんは飛び起きると、その場にたたずむ山を指差す。
「ハリちゃん!?それは言っちゃダメって!!」
「言っちゃダメだぁ?そいつはどういうこった?ちはる」
「えっと・・・・あははっ」
「詳しく聞かせろ」
「たかひろんが言ってたんでちゅ。裏山に強い異能力ペットがいるって。しかも二匹でちゅ!!」
「二匹!?」「まじか!!」
あたふたと智晴が焦っている中、サシミはハリちゃんに顔を近づけ、大きな目を更に大きくした。
「でちゅ。サシミン達に話すと、回復を待たずに裏山に行くから内緒にしといてくれって」
「わかってんじゃねぇか、あの野郎」
「何故、俺たちに教えた・・・」
「・・・・昨日、サックンに言われたんでちゅ・・・・・うるさいだけでなんの役にも立たないハリネズミって・・・だから!!裏山に潜んでいる異能力ペットの正体を掴めば!きっとサックンもハリを見返してくれるって思ったんでちゅ!!ついて来てくれまちゅよね・・・・?」
ハリちゃんは顔を伏せながら小さな手を握りしめると顔を上げ、サシミ達に問いかけた。
「テメーだけで行ってこい。と言いたいところだがよ。ハリヤマお前、最高じゃねぇか!そういうとこ嫌いじゃねぇ。いいぜ。ただし!俺たちも裏山行くぞ!!」
「サシミン!」
「本気なの!?サシミ!」
「マジのマジだぜ。すぐそこに異能力ペットがいるなら、挨拶しないとなぁ?剣山、お前はどうすんだよ」
「ああ、俺たちも同意だ。異能力ペットの数が減るのは嬉しい事だからな。ハリヤマ、案内しろ・・」
「・・・・剣山・・」
「でちゅ!!」
(うぅ、後で武捨さんに怒られそ〜)
ハリちゃんは先導を切って裏山に向け走り出すと、それに続いて禎達も歩き出した。
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「ここでちゅ・・・・」
「・・・・・デカイ・」
「ゴホッ!」
歩いて数十分。禎達は目的の裏山の入り口に到着した。近くで見れば見るほど大きい。木々が生い茂っており、雑草も伸びきっている。
「ねぇハリちゃん。本当に行くの?」
「でちゅ!!今更後戻りなんてできねーでちゅ!」
「どうだ、剣山」
「・・・・・」
ハリヤマはテンションが上がっているのか、腕を上下に振っており、剣山は山に鼻を向けると匂いを嗅ぐ。
「・・ああ、微かではあるが、獣の匂いがする」
「よーし!!確定でちゅ!早速ゴーのゴーで「おい、剣山・・・・お前も臭うか・・獣臭とは別の強い臭い・・・俺の勘違いじゃねぇよな」でちゅ?」
「間違ってないぞ。これは・・・・・
血の匂いだ・・・・」
「でちゅ!!」「えっ!!」「ッ!!」「・・・」
サシミは顔を引きつらせ、剣山は冷や汗をかき、二匹の毛は逆立っている。
「や、やっぱり今日のところは帰るでちゅ・・・」
「さっきまでの勢いはどうしたおい!!さっさと行くぞ!」
「待てサシミ!!」
剣山は空間から出した刀を、山に向け走り出したサシミの目の前に振り下ろし、その進行を止めた。
「なんだよ!この血の臭いの正体を捜しに行くぞ!!」
「目の前のアレが見えないのか!!」
「あ?何言って・・・・ッ!!」
サシミが目を凝らすと、山の入り口には、
「なんだ・・・・・・・・
・・・・・あの糸・・」
白い少し垂れ下がっている糸が網目状に張り巡らされており、まるで、山に入る入り口を塞いでいるようだった。
「これじゃ、入れないね」
「残念でちゅけど、立ち入り禁止みたいでちゅね!さぁ!帰るでちゅ!」
「立ち入り禁止なら鉄条網で塞ぐはずだ。何で・・こんなところに糸が・・」
「簡単な事だ。この糸が異能力ペットの能力だと言うことだ」
剣山は糸に近づいき刀を網目の隙間に入れ、振り下ろす。すると、
スパッ
「成る程・・・」
「おいおい・・マジかよ」
「ッ!!」「ひっ!」
「けんけんの刀が切れたでちゅ・・・!?」
「・・・・」
糸に振り下ろした刃は音を立てて真っ二つに切れた。切られた先端は地面に突き刺さる。その一部始終を見た全員が鳥肌を立てた。
「もうすぐでお前も俺の刀のようになっていただろうな」
「笑えねぇぜ・・・」
「ヤバいでちゅって!ヤバいでちゅって!!」
ハリヤマが智晴の足にしがみつき震えていると、次の瞬間、
「ホホウ。君たちも、ワシのゲームで遊びたいのかな?」
「「「ッ!!」」」
「でちゅ!!」「ゴホッ!」「あ?」
山の中から年老いた老人の声が聞こえてきた。暗闇に溶け込んでおり、姿を見ることはできない。
「どうじゃ?ゲームに参加するかね?」
残り・409チーム
ありがとうございます!!
早めに投稿できるよう頑張ります!!




